不可抗力なボディガード
「ハァハァハァ……ムフフ……」
「……息がかかってますけど、顔近くないですか?」
「フフフ……いつから、息がかかっていると錯覚していた?息はね……かけているんだよ、守日出!」
「いや、変態じゃねぇか!せめて鏡花水月で完全催眠かけてからにしてください」
「オホッ!ブリーチも分かるのか?」
「みんな知ってるでしょ」
「えぇ?最近の子は知らないぞ!ブリーチとかワンピースとか巻数の多い漫画は最近の子は読まないんだぞ!時短だ時短!タイパが良くないと全然読まない!守日出はね……貴重なんだ……だから毎日来てくれ!保健室登校してほしい!」
「保健室登校を勧める教師……岩国先生は本当に教師ですか?」
「私は天才整形外科医だが?」
「まあ、たしかに優秀ですよね。ずいぶん良くなりました」
「そうなんだよ……守日出の回復力が異常なんだよ……ハァ」
「せっかく順調なのに落ち込むなんて最低の医者だな」
「だって……この身体を触れなくなると思ったら……気になって夜しか眠れないんだ」
「夜しか眠れない程度なんですね、俺の身体!」
「あぁ!冗談、冗談!本当は頬ずりしたり舐めたりしたい!」
「本音がめっちゃ怖いわ!」
「いやぁしかし……正直すごいぞ!もう痛くないだろう?」
「うん、まあ……不便は無いですね」
「だがいちおう、クラスマッチは出るなよ」
「大丈夫ですよ。俺は監督ですから」
「ほぉ……2年3組だったか?」
「はい」
「ふ……結果楽しみにしているぞ」
「余裕です。上手くいけば3つはタイトル取れますよ」
「なるほど……お前がみっちり鍛えたのか?」
「いえいえ、所詮はクラスマッチ。どのチームも、ど素人が混ざってるんです。俺は他のチームの練習を見て回ってただけですよ……つまり穴を突けばいいだけ、例えばバレーボールならスパイクはいりません。サーブ練習だけしっかりやって、穴である選手へ打ち込む……それだけです」
「……お前……非情過ぎるぞ……大丈夫か?」
「立派な戦略です。こっちは情報収集という苦労をしてるんですから……それに勝ちは勝ちです」
「組み合わせ的に厳しいのは男女混合ダブルスのバトミントンくらいですね……二人ペアは両方上手いと厳しいです」
「
「そこは準優勝までで諦めます。八蓮花と神代ペアなら普通にやってもそれくらい余裕でしょう」
「お前が出れたら?」
「……無理ですよ、背骨折れてますから」
「もう治ってるよ」
「いやいや、まだ一カ月ですよ。完治してませんから」
「常人ならね」
「俺は常人ですよ」
「そんな身体してて常人はないだろう……私はスポーツ専門の天才整形外科医だぞ。だから出ないに越した事はない……と釘を刺しておくよ」
「当たり前です。俺は軍師なんで」
「……ぐ、軍師!……ハァハァ……ハァハァ……守日出……私と淫行……」
「無理です」
オタクは軍師というワードに弱い……か。
保健室を出ると着信が入る。表示されたのは[さくらさん♡]だ。家族以外では4件目の登録……ソロプレイヤーらしからぬ多数登録だが、さくらさんは即決で登録させてもらった。だってめっちゃ綺麗だもん。
ただ綺麗なだけの変態とは違う。麗しいんだ……さすが、麗しきミス青蘭のお母様。うちの
「はい、どうしました?」
[ユキくん?ウフフ、すぐ出てくれた!うれし〜]
ユキくん……あれから一カ月でさくらさんとの距離は縮まりユキくん呼び……可愛い過ぎるぜ、さくらさん。
「さくらさん、電話だと二人と声が似てますよね」
[それよく言われるの〜。若作りし過ぎかなぁ?]
「さくらさんは、特別若いので大丈夫ですよ」
[ウフフ、ありがとう。それでね、
は?何言ってんだあの人……
「さくらさん、母とはマメに連絡を?大丈夫ですか?何かされてませんか?」
[えぇ?何それユキくん。四葩さんとはよくランチするのよ!もうすっかりママ友だよ]
マズいな……あの人に目を付けられては……俺があまり甘えるわけにはいかない!さくらさんは俺が守る!例え相手が最強の女だとしても!
「僕は一人でも慣れてますので平気ですよ。お気遣いなく」
歳三さんもいるかもしれないし、迂闊にお邪魔するわけにはいかない。いや、歳三さんにはちゃんと挨拶をしようとは思ってるんだ。ただ、まだ心の準備が出来ていないだけで……。
[ダメよ!ちゃんと来て!つばきちゃんとあやめちゃんにも伝えたよ!それに……今日は歳三さんいないから安心して♡]
なぁんだ、歳三さんいないのかぁ。じゃあ、ちょっと寄ろうかなぁ……ってさくらさん、なんか言い方がやらしいんだが!まるで、不倫相手を誘うかのような言い回し……くっ……行きます!
「じゃあ、お邪魔しますね。何か足りないものあったら買って行きますよ」
[さすが、ユキくん♡気が利く子!校門で、つばきちゃんが待ってるから一緒に買って帰ってね]
すでに、用意周到だったようだ……。八蓮花家……恐るべし。
「つばき、待ったか?」
「ううん、ユキタカくんを待ってる時間も楽しいよ」
う……なんて可愛いことを!ただ、つばきに限っては鵜呑みには出来ない。俺をもて遊ぶ傾向にあるからな……ここはしっかりと理性を保たねばならない。
「帰りはどこで買い物して帰るんだ?」
「それは近くの夢マートでいいけど、あやめをびっくりさせたくない?」
夢マートは八蓮花宅の近所にあるスーパーだ。たしかにこの辺で買い物するよりはいいだろう。人目も気にならないし……だが、あやめをびっくりさせるとは?
「だが、俺が今日一緒に食事することは伝えてるんだろ?」
「うん、だからぁ……学校に迎えに行くんだよ!」
「――な!
「そうだよ!」
「ま、まさか……」
「そのまさかだよ!」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢八蓮花あやめ side ♦︎♢♦︎♢♦︎♢
お母さんからのメール
[今日はユキくんと食事出来るよ♡お母さんグッジョブでしょ(^з^)-☆]
うぅぅ……。
「やったぁ!」
って……声が出ちゃった?
「おわぁ!何が、やったぁなん?」
「――え!?い、いや……べつに……」
「ん?あやっち……なんか怪しなぁ。これは男のニオイがしますなぁ……もしかして男子部の誰かと付き合いだした?」
「なな、何言っとうと!?そんなわけないっちゃ!」
「可愛い〜あやっち!絶対何かあるやん!わたしには教えてくれんの?……かなしい」
「……さえちゃんの知らない人だから」
「えぇぇ!カレシ出来たん!?」
「「「えぇぇ!」!」!」
「あやっち彼氏いるんだって」「ウチらのあやっちが……」「ショック……」「あやっちが男に汚されるなんて耐えられない!」「どんな人なん?」「大学生とか?」「ワンチャン社会人じゃない?お金持ってるし」
クラスのみんなが大騒ぎ!
「かか、彼氏っていうか、今日家にご飯を食べに来るだけっちゃ!」
「「「――!」!」!」
「は?なんそれ……もうそんなことなってんの?旦那やん!あやっちが!あやっちが!……うう……ウチらのあやっちが……誰やねんそれ!」
「あやっちの唇も……」「スベスベお肌も……」「胸も……」「腰も……」「お尻も……」「全部、その男のもんやん!」
「ちょっと……みんな違うって!」
「もう一緒に寝たん!?」
「え、ええと、一緒に寝ては……いたかな?4時間くらい……何もしてはないけど……ゴニョゴニョ……」
「「「――イヤァ〜!」!」!」
|
|
「もぉ〜さえちゃん!声大きいから大変だったじゃん!」
「ウヒヒ、ごめんね〜あやっち!……あっ!ほら男子部が手を振ってるよ!」
「無視でいいと!」
「旦那に怒られるしね!」
「もぉ、そんなんじゃないって!」
「どんな人なん?」
「う〜ん、イジワルで〜、目つき悪くて〜、みんなに嫌われてて〜、ぼっちで〜」
「なんそれ?大丈夫なん?」
普段、さえちゃんと一緒に帰ることがほとんどだ。こうやってなんでもない話をしながら帰る。つばきと入れ替わってても誰も気付いていない……つばきはわたしの真似が上手だからお母さんにもバレない、もしかしたらデクでも分からないかも……それくらいつばきの入れ替わりはすごい!
「ねぇねぇ、君が有名な可愛い子ちゃん?噂以上に可愛いね!今日どっか遊びに行かない?」
男子部の人だ。校門でこうやって待ち伏せされることはたまにある。大抵、さえちゃんが追っ払ってくれるけど、わたしもしっかりしないとダメだ!
「行きません!予定があるので失礼します」
「じゃあさぁ、連絡先だけ教えて!予定無い時に遊ぼうよ」
「――な!?離してください!」
その男性に腕を掴まれる。こういう時どうしたらいいの?怖い……。
「ちょっと!あやっちに何すんの!」
「ひがむな、ひがむな!ついでに男を紹介してやるから」
「はぁ!!なんて!?」
「うるせ〜な、ブス」
「――な!」
「や、やめて!」
助けて!デク!
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
カシャカシャカシャ!
「
「デク〜!!」
「お、おい……抱きつくな!」
あ、あやめさん……つばきさんが物陰から見てるんでやめて……。あとで不公平だなんだ言って何を要求されるか分からないからね……。
「ちぃ、カレシ持ちかよ!悪かったよ……もう手は出さないから動画やらを消してくれ」
「その子にも謝罪しろ」
「あ、ああ……ヒドいこと言って悪かった。すみませんでした」
「も、もういいです……」
ふぅ……素直に引き下がってくれてよかった。SNSも限られた情報しかなかったが、適当に言ってみて正解だったようだ。
|
|
つばきにはメールで駅に行っておくように伝えた。つばきのことだからその必要はなかったかもしれない……すでに物陰にはいない。
「友達と帰ってたんだな。いきなり来て悪かった、先に駅に行ってようか?」
「いやいや!いいんですよ!ウチのことは気にせんで!」
「そうだよ!デクがいなかったら、わたしたちどうなってたか……だから、ありがとう!」
「じゃあ、駅まで一緒に行くか」
「うん、へへへ」
「あ、あの……ウチは
「――だ、旦那さん!?
セカン、いつから俺がお前の旦那になった。ってお前も否定しないんだな……へらへらして子犬のようだ……可愛い。
「うぃ!了解っす!しかし……」
(めっちゃカッコいいやん!)
(へ?そう?)
(うん、最初見たときは怖そうやったけど、あやっちに向ける表情が優しくてイケメン過ぎ!)
(へへ、そうかなぁ)
(いいなぁ、こんな頼りがいあるカレシがいて)
(う、うん……)
(よし!さみしいけど、認めちゃる!)
「旦那さん!あやっちをよろしくお願いします!」
阿知須さんだったか……セカンの様子を見る限り、どうやら俺は彼氏として紹介されているらしい。まぁ、そのほうが花鞆高校では安全か……ふぅ……仕方がない。
「もちろん!ただ、あやめは何かと危なっかしいヤツだから心配なんだ。阿知須さんもあやめのことよろしくね!」
「「――デク……」旦那さん……カッコいいっす」
旦那さん呼びは定着するのね。
駅までは阿知須さんと一緒だったが、彼女はバスで帰るためここで別れ、つばきと合流した。
ちょっと不機嫌なつばきが俺の横腹をつまむ。――痛っ!えぇ?……抱きつかれたのは不可抗力ですよ、つばきさん。
この二人は目立つ。なるべく距離を空けるように言うが、全然言うことを聞いてくれないので、俺が視野を広げて気を付けるしかない。
ふぅ……二人のボディガードは疲れるなぁ。
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