不協和音で奏でる想い
この部屋はさくらさんの部屋らしい。夢の国をコンセプトに可愛いらしく統一された空間、いつもここでさくらさんが寝ていると考えると、俺みたいなのがニオイをつけて申し訳ないと思う。
時刻は深夜12時を回っていることをスマホで確認する。家族以外での連絡先は3件……つばき、岩国先生、そしてセカン……セカンとは先程連絡先を交換した。
メッセージを送ろうか戸惑う指先は、今日の事をどう告げようか迷っている。
彼女と二人だけで話をする言い訳もある。決意しメールを送った。
すぐに既読がつき、部屋に来てくれると返信がきた。
コンコンッと静かな夜に優しいノック音がする。
カチャッと扉を開けて入って来た彼女はモジモジとしながらベッド脇の俺の隣に座る。俺も座って彼女を待っていた。
初めて会った頃からは考えられない……その見た目麗しい彼女は、天使だ、妖精だと人は言うだろう……だが、俺にとっての彼女は違った。
何やってんだ、危なっかしいヤツだ、バカなのか、意気地がないな、しょうがないヤツだ……それだけの存在だった。でも、今は……可愛いと思う。
「あやめ……話があるんだ」
俺はケジメのためにしっかり名を呼んだ。
「――!デク……あやめって!」
照れたように頬を染めるあやめ。彼女に言わなければならないことがある。
俺はつばきとキス未遂をしている。つばきが、ただ、からかうだけでそんなことをするとは思えない。少なくとも俺に多少の好意を抱いてくれているのだろう。
そして、俺もあの瞬間受け入れようとしていた。だが一瞬脳裏に浮かんだのはあやめだった。
俺はきっと……あやめのことが気になってるんだ。気になっているとはつまり……女の子として好意を抱いているというか……興味があるというか……大事というか……いや、つばきももちろん大事だが、それとも少し違っていて、守りたい衝動がハンパないという感じだ。
つばきと目が合うたびに、締め付けられるような胸の痛みは……ちゃんと答えを出していないからだとも思う。
つばきとあやめ……どちらかを守ろうとすると……きっと俺はコイツを選ぶだろう。
だが、こんなフラフラした気持ちではダメだ。きっちりとケジメをつけなければ俺が俺じゃなくなる。
つばきとちゃんと向き合うためにもここでケリをつける。
あやめは
だからもし、あやめの中に神代だけでなく俺を受け入れる隙間があるのなら、俺はちゃんともう一度、恋というものをしてみようと思う。
「あやめ……俺は自分の気持ちとかをちゃんと整理しないと言葉に出来ないんだ……それに前にも進めない……それで……俺の気持ちを知っていて欲しいというか、なんというか」
「――!」
くっ……いざとなると俺の恋愛偏差値の低さが悩ましい……というか好きとか言うのが恥ずかしい。
「お、俺はな……えっと………………いや、お前は神代がそんなに好きか?」
ってバカか俺は!どうして探るような言い方しか出来ない!?普段からそんな言い回ししかしてないからこんな事になる!……お前が好きだから神代のことは諦めて俺について来い!……って言えばいいだろ!
「デク……わたし……」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢八蓮花あやめ side ♦︎♢♦︎♢♦︎♢
楽しかった夕食、今日はいろいろありすぎて疲れたなぁ。デクのおかげで楽しかった……そして、デクが今家にいる。
お母さんの部屋にいる……嬉しい。でもわたしのせいで怪我をさせてしまったから。意識が無くなるほどの痛み、青あざで腫れた背中……岩国先生が教えてくれないから自分で調べた。
圧迫骨折……わたしには大丈夫だって……デクはそう言う……デクは……わたしのヒーロー。
神代くんじゃなかった……ヒーローはデク。
そしてわたしの好きな人。
去年の夏に会えなかった人。
『人それぞれ大事なモノは違うだろ』……デクも同じ事を言っていた。
茶髪ではないけど……背は高い。
イケメン?……は人それぞれ。でもデクなら紛失した双子ストラップも簡単に探し出しそう……。
後夜祭の時、確認しようかと思ったけどやめた。
デクがヒーローであって欲しいけど、終わっちゃう……わたしとつばきの入れ替わりが終わっちゃうから……。
もっとそばにいたい。
デクと一緒にいる時間が欲しい。
そんなことを考えてると、つばきが部屋に入って来た。日課だ……いつものように寝る前にハグをしに来る。
「あやめ、今日ごめんね。わたしの代わりにヒドい目に遭ったでしょ」
いつもよりも優しく抱きしめてくるつばき……つばきはきっとデクが好きなんだ。
デクは?デクが好きなのは……
『俺は……今日一緒にいた子が好きなんだ!』
デクが神代くんと話してる言葉を思い出す。
聞いてしまった、思わず逃げちゃったけど……そうだよね。デクには素敵な人がいる。
わたしとつばきじゃないけど……ちゃんといるんだ。
「大丈夫だよ……デクが助けてくれたから」
「うん……あやめ、ごめん!」
「どうしたの?」
「今日、実はユキタカくんと一緒に蒼穹祭をまわってたんだ……あやめがツラいときに……ホントごめん!」
「――え?」
真っ白になった……あれが?……あの人がつばき?だったら……デクはつばきが好き?……そっか。
「な、なぁんだ〜!言ってくれたらいいのに!もぉ〜謎の美女出現ってすごかったんだから〜」
「ごめんね。あやめ〜」
「謝らんで、つばき。わたしが無理やり入れ替わってもらってるんやし……つ、つばきは……デクが好きなん?」
「……うん、好きだよ」
「そっか……じ、じゃあ、告白とかすると……?」
「う〜ん……まだかなぁ。ユキタカくんはきっとあやめが好きなんだよ」
「――!」
違うよ……違うんだよ。デクが好きなのはつばきだよ……って言えなかった。
わたし……まだデクのそばにいたいから。彼がつばきのことが好きでもいい。
嘘ついてでも、そばにいたい。
「でも、あやめは「名もなきヒーロー」一筋なんでしょ?」
「そ、そうよ!だから見つけるまで、わたしたちは入れ替わるの!」
「ふふふ、いいよ」
入れ替わりをやめたくないから嘘をついた。
ベッドに入り、デクの連絡先をなぞっていると深夜12時を回っていた。会いたい……と思った瞬間にピコンとメッセージが届く。
[ちょっと話とか出来ないか?]
デクからだ!会いたいと思った瞬間にメッセージが届くなんて恥ずかしい。は、話……話ってなんだろう?
すぐに行くと返信した。みんなはもう自分の部屋で寝ているから、足音を立てないようにデクのもとへ向かう。
薄暗い部屋に入るとデクが恥ずかしそうにベッド脇に座っている。
ドキドキと胸が高鳴る
鼓動がすごくてそれが伝わると恥ずかしいけど、近くにいたい……そんな距離で座った。
「あやめ……話があるんだ」
「――!デク……あやめって!」
ななな、なに急に!どどど、どうして!?ヤバい顔が熱い!二人っきりなのに「あやめ」なんて言われると恥ずかしいよ……。
「あやめ……俺は自分の気持ちとかをちゃんと整理しないと言葉に出来ないんだ……それに前にも進めない……それで……俺の気持ちを知っていて欲しいというか、なんというか」
「――!」
俺の気持ち!?つばきが好きだってこと?
今、仮の彼氏彼女という立場だから……俺はつばきが好きだから、これはあくまで仮だからって言うの……?
いやだ。
聞きたくない。
「お、俺はな……えっと………………いや、お前は神代がそんなに好きか?」
――え?そっか……デクはわたしが神代くんのことを好きだと思ってるから、自分が彼氏役をやる事に抵抗があるってこと?
それに……
それに、デクはつばきが好きだしね……。
はぁ……ふぅ……うん!
落ち着けわたし!
「デク……わたし……わたしのことは気にしなくていいから!……デクはその気持ちを伝えたいってこと?」
「――!そ、そうだな……俺たち3人にとっても大事なことだと思うから……あやめにちゃんと伝えたいんだ。ええと、何と言ったらいいか……大事というか……別に付き合いたいとか思ってるわけではないんだぞ……ただ、そばにいた……」
「嫌だ!やっぱり聞きたくない!デクのそんな想いなんて聞きたくないよ!」
「――え?」
ごめんデク……わたしデクの気持ちなんて聞けない……聞いたら大泣きしそうだもん。
「だ、だよな……今さら何言ってんだって話だよな……悪い」
「謝らんでよ!デクは、謝らんで!……大丈夫……だって、わたしは神代くんが好きなんだから……」
嘘をついた。
デクのそばにいたいから……
デクはつばきが好きで、わたしは神代くんが好き……それでいいと!
あらためて想いなんて聞くと今まで通りにいられないから……
デクとつばき、二人が両想いなのは知っている。
嘘をついてでも……
二人が本当に付き合うその日までは……
わたしだけのヒーローとして、そばにいてよ……。
ねぇデク……ううん、
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
そうか……。
俺は何一人で盛り上がっていたんだ。
笑えるな……自分の気持ちに今さら気付いてあやめに期待していた……のか?
俺のことも好きなんじゃないかと……。
少しでも隙間があるんじゃないかと……。
あやめと過ごす時間が俺をここまで変えていた。
どうやら、思いを悟られて振られてしまったようだ。つばきとあやめ……今の俺にとってはもう、かけがえのない存在……。
つばきとちゃんと向き合えば……またこんな気持ちになれるだろうか。
隣に座るあやめは、俯きポロポロと涙を流してる。理由の分からない涙に困惑しつつそっと頭を撫でる。
「大丈夫か?」
「……」
理由を聞いても答えてくれない。今までの俺たちの関係を壊したくなかったのかな……気を遣わせて申し訳ない。そして、神代じゃなくてすまん。
無言で泣き続けるあやめは俺に身体を預けてくる……その華奢な肩を抱いてしまった。
たった今、振られたばかりなのに……俺は最低だな……そう思いつつも彼女を離したくなかった。
出来るだけそばにいたい……そう思っていた。
とにかく、久しぶりの恋は終わったのだ。
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目を開けると、とんでもなく可愛い顔が 目の前にある。
ベッドに男女……気付くと朝……興奮よりも冷や汗が止まらない。
すぐに時間を確認すると朝の4時半!
目の前には無防備なセカンの寝顔が……黙って寝ていると、とくに可愛い……ってそれどころではないだろ!
俺の左手はその白く華奢でスベスベの二の腕に触れている。無意識って怖い……人肌を探したのか、まさぐって二の腕を触ってるなんて……胸にいってなくて良かった……左手の理性に感謝だな。
いや、もしかすると俺は二の腕フェチ?とにかく先に目が覚めて良かったと思うしかない。
さあ、この状況どうしよう……。
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