幸せな食卓

 目の前に並んだ料理は、今まで食べてきた夕食の中で一番美味いだろう(母親に失礼)。


 さくらさん特製ポテトサラダ


 さくらさん特製キャベツとベーコンのとろみスープ。


 お皿には、さくらさん特製あっさりパスタが一口サイズで添えられ、そこに俺たちのハンバーグ。


 さくらさん特製デミグラスソースをかけて出来上がり。


 食卓につくと、あまりにも美しい配膳に心を奪われ、「さくらさん、僕のお母さんになって下さい」俺はそう言った。


「まぁ!喜んで!」


 と俺のプロポーズは難なく受け取ってもらえ、世界一美味そうな食事を頂くことにする。


「「「いただきます!」」」


「はい、どうぞぉ〜」


「美味い!美味いです、さくらさん!ポテトサラダの甘さ……ご飯がすすむ絶妙な味付け!スープのほうは、とろみとベーコンの塩分が、あっさりしたキャベツとマッチして絶品!ふわふわで噛んだ瞬間に口の中を肉汁が支配するハンバーグ!デミグラスソースも手作りなんて……こんな美味しい料理初めて食べました(母親に失礼)!」


 俺はさくらさんに胃袋を掴まれた。


「守日出くん……そんなに褒められたら、私……どうしよう」

「毎日僕のご飯作って下さい!」

「は、はい、お、お願いします……」


「と、いうことなんで、さくらさんは俺が連れて帰るから、つばきとあやめは毎日自分たちで料理してくれ」


「えぇ!?デク、お母さんを連れて帰るってことだったの?」

「ん?ほかにあるか?」

「ふふ、ユキタカくんがうちに来たらいいんだよ」

「そうそう」


 つばきとセカンは美味しそうにハンバーグを食べながらそう言う。


「そうね、家族になればいいのよ!ねっあやめちゃん!」

「――!ゴホッ……ゴホッ……うぐっ……ハァ……ハァ……何言ってんの!お母さん……もぉ」


「むむむ、あやめを私から奪うのかなぁ〜?ユ・キ・タ・カ・くん」


「――うぐっ!ゴ、ゴホッ!こ、怖いぞ、つばき」

 

「じゃあユキタカくん、お兄ちゃん……とかはどう?」


「美人姉妹の兄か……全男子に殺されるだろうな」


「フフフ、守日出くんのお母様からも5年くらい預かって欲しいって言われてるし、引き取っちゃう!?」


「さくらさん……あの人の言ってること。真に受けると本当に引き取らされますよ。気をつけてください」


「じゃあ守日出くんをもらっちゃお〜」


 そんな冗談みたいな話をしながら美味しいご飯を食べる。心が温まるとはこういうことか。


 つばきとセカンがお互いを思いやり、人に優しくなれるのは、さくらさんの育て方や家庭環境がそうさせたのだろう……そんな風に思う。

 

「ふふふ、ユキタカくん、家族になっちゃうかもね」

「デクがお兄ちゃんかぁ……でも、ぽいね!」


「いちおう、お兄ちゃんではあるからな」


「「「――えぇ!」」」


「――あれ?言ってなかったか?神奈川に親父と住んでるぞ」


「デクに妹!?何歳!?」


 三人は箸を止めて興味津々という感じだ。そんなに食いつくとは思わなかったが、話の種にはちょうどいいと思い情報を開示する。


「中2だ……」



「……………………ってそれだけ!?」


 つばきのツッコミにずっこけるセカンとさくらさん。ふふ、仲良し三姉妹はノリがいい。


「デク、写真ないの?」


「無い。そんなのあるはずもない。兄妹きょうだいとは普通そういうもんだ。つばきとあやめのようにイチャイチャはしないぞ」


「えぇ?そうなん!?らしいよ、つばき」

「ふ〜ん。はい、あやめ、あ〜んして」

「もぉ!デクが見てるのに!……あ、あ〜ん」

「可愛い〜あやめ」

 

 ……おいおい、俺は何を見せられてるんだ。可愛いが過ぎて目のやり場に困るんだが……別に羨ましいとかそんな風には思ってないぞ!あくまで、見ていて恥ずかしいと思ってるだけだ。


「ユキタカくんも、あ〜んして欲しいの?妹さんの名前を教えてくれたら、してあげてもいいよ」

「ちょっと!つばき!」

 

「――それは遠慮しておく。名前は瑠花るかだ」


 さくらさんの前で何てこと言うんだ!俺とセカンは付き合ってるんだぞ(いちおう、そういうことになっている)!


 嘘がバレたら歳三さんに切腹をさせられるだろが!キス未遂といい……つばきは何を考えてる。


「瑠花ちゃんだってあやめ、可愛いね」

「デクの妹かぁ……気になる……」

「守日出くん、どんな妹さんなの?」


 この素晴らしい食卓には相応しくないと思うが、メールを見せると分かってもらえるかな。

 

「ちょっと説明が難しいのでこれを見てもらえれば」


 スマホをつばきに渡す。


「メール?見ていいの?……ってほとんど返信してないんだ!……これは!?」


[トランザクティブ・メモリーを共有します。山口県の街の様子はいかがですか?こちらのほうはまだヤツらの動きはありません。おそらく、僕の存在に気付いているのかも……兄さんだけでも逃げ切れて良かった。また連絡します]


[トランザクティブ・メモリーを共有します。最近父の帰りが遅いようです。僕を警戒してヤツらが接触を図っているのかも……兄さんも気をつけて]


[トランザクティブ・メモリーを共有します。返事が無いですが、もしかして先に兄さんから狙われている!?……心配です。連絡待ってます]

 

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 と、こんな感じの妹だ。アニメの影響から中二病になり、今では立派な諜報員だ。一人称も「僕」と言っているが男性の心を持っているわけではなく、おそらく何かのキャラクターに憧れているのだと思う。


 可愛い妹だが、かなり痛々しい感じになっているので今はそっとしている。時が彼女を癒すだろう。


「ユキタカくん……少し個性的な妹さんね」

「ああ、そのおかげで母親とは合わずに父親と住んでいる」


「デクがなんとかしてあげないと?」

「これは、思春期特有の恋みたいなものだからな。そっとしておくのがいいと思う」


「詳しいのね、守日出くん」

「はい、僕もそういう時がありましたから」


「「「――え!?」」」


「そういうもんです」


 とりあえず適当に話を流し、瑠花の話は終わらせた。適度な会話と最高の食事を済ませ洗い物も手分けする。


 二人のルームウェア姿にも慣れてきたが、時折目が合うつばきとは、やはり気まずい。なぜ、あんな雰囲気になってしまったのか……思い出すだけでも恥ずかしく……意識をしてしまう。


 置き去りにしたはずの愛やら恋やらが、一年以上かけて俺の元に追いついてきてしまった……そう思わずにはいられなかった。

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