俺と麗しき双子姉妹
八蓮花家は一戸建てだ。福岡からこっちに引っ越したのは、まだ見ぬお父様の実家が近いかららしい。
このまま、まだ見ぬままでいたいところだが、お世話になっておいてお礼も申し上げないのは失礼だろう。
いつか、会うことがあれば土下座でもなんでもしておこう。さくらさんに手を握られたことはもちろん……セカンとのチークタイム……つばきとのキス未遂……すべてのことを含めてのお礼と謝罪、もちろん、謝罪内容は秘密だ。
「守日出くん、お腹空いたでしょ?すぐに準備しますね。つばき手伝って」
「りょ〜かい!ユキタカくん待っててね」
「あ……ああ、悪いな。俺も手伝おうか?」
「――え?……そっか、忙しいお母さんと二人暮らしだもんね。料理も出来るんだ」
「いや、たいしたことは出来ないが手伝うくらいは……な。今日はお世話になるんだし、じっとしているのも忍びない」
「いいのよ守日出くん。あやめもお風呂に入ってるし、ゆっくりしてくれて……」
「ユキタカくん!背中痛くないなら一緒に手伝ってほしいなぁ」
「ちょっと、つばきちゃん。守日出くんは大怪我してるのよ。無理させちゃダメよ」
「いえ、激しい運動じゃなければ大丈夫ですよ。テーピングもやり直してもらってるみたいですし」
「あっ、それは岩国先生がやってくれて、身体を拭いたのは私よ。フフフ」
「えぇ!?さくらさんが身体を拭いてくれた!?」
なんてこった……そんな特殊イベントが発生していたとは……人妻二人が俺の身体を?さくらさんがいてくれて良かった。岩国先生だけだと何をされるかわかったもんじゃない。
「さくらさん、ありがとうございます。そんなことまでしてくれていたなんて、申し訳ないです」
「ううん、いいのよ……」
「ちょっと、お母さん!何照れてるの?もぉ〜」
「だってぇ〜」
さくらさんを見ると両手で顔を覆い、火照った頬を隠しているようだ。さくらさん……可愛い過ぎるぜ。
時刻はもう21時を回っている。広いキッチンではさくらさん、つばき、俺と並んで、ハンバーグを作っている。
おそらく、ハンバーグの予定ではなかったはずだ。俺が割と早く目覚めてしまったからなのか、急遽、手間のかかる料理を作っている……そんな感じだ。申し訳ない。
さくらさんの指示でつばきと協力して作る。さくらさんは俺たちに指示を出しながらポテトサラダを作り、軽くパスタを茹でる。
俺はそんなに詳しくもないので指示通りに野菜を切る。玉ねぎとにんじんをみじん切りに、あまり大きな野菜は好きじゃないので極力小さく!
「――すごい!ユキタカくん、包丁さばきがプロみたい!」
「褒めすぎだ……1年くらいやれば誰だって出来る。知識は無いんだから指示をくれ」
つばきはクックボウルに俺が切った野菜をミンチと一緒にこねる。
「ユキタカくんも混ぜて」
「混ぜるのは任せろ」
「ふふ、クラスもかき混ぜてるもんね」
「耳が痛いな」
そんな会話をしつつ目と目が合う……。
目が合うと恥ずかしい……。俺たちはキスをしようとしてたんだ。しようとしていた?本当にそうか?唇は触れてなかったのか?……確認しようにも恥ずかしくてそんなことは出来ない。どうかしていた……さすがのつばきも照れているようで顔だけでなく耳まで真っ赤にする。
別のクックボウルに牛乳とパン粉を入れふやかす。俺がこねたミンチに、つばきがそのパン粉牛乳を流し込む。そして、再びこねる……つばきと交代でこねる。
「な、なんか、こんな風に料理を作ったのは初めてだ。けっこう恥ずかしいな」
「そ、そうだね。でも楽しいなぁ……ごめんね手伝ってもらって……」
「いや……俺も初めて料理が楽しいと思ったよ。ありがとな!」
「「――!」」
さくらさんが急にうるうると泣き出し、つばきがフラフラっとさくらさんの腰に抱きつく。
「ど、どうしたんだ?つばき!……さくらさんも泣いてるし……玉ねぎですか?玉ねぎですよねぇ」
俺は何が起きたのか分からずに戸惑う。
「うう……辛かったでしょ〜16歳で一人、お母様を支えて……うう……いいのよ……うちにはいつでも来ていいのよ……」
「ユキタカくんのデレの破壊力が凄まじい……」
「いやいや、デレてないわ!……さくらさんも!俺はそんなに辛い境遇でもないですから」
そうこうしているとセカンがむくれ顔で立っている。長風呂から上がってきたようだ。
フワッとしたタオル生地のルームウェア、ショートパンツに少し大きめのパーカーを羽織り、ピンク寄りの薄紫色で統一されている。
薄紫色を見てパンツを思い出した俺はエロいだろうか。だが、単純に薄紫色が好きなんだなぁ……そう思っただけだ。決して中身を想像したわけではない。
「わたしがいない間に、みんなで楽しそう……」
「あやめ、可愛い過ぎる〜!」
「ちょっとつばき!くっつかないで〜」
「えぇ〜!いつもしてるのに〜?」
「だって、デクがいるのに……」
「こんな可愛いルームウェアにするなら言ってよ〜」
「べべ、別に普通だし……デクがいるからとかそんなんじゃないから!」
「もぉ〜、うりうり〜」
「ウヒャッ!やめ……ヒヒヒ……やめて……つばき」
「う〜ん、可愛い〜あやめ!」
……
「私も可愛い系に着替えようかなぁ……チラッ」
――!チラッじゃないわ!こっちを見るな!あなたも充分可愛いですよ、つばきさん!
だが、つばきの今の部屋着は体のラインが出てる分、着替えてもらったほうが俺の視線も泳がずに済むかもしれない……。お色直しお願い出来ますか?
そんなことは言えないので適当に受け流す。
「まぁ……あれだな……双子はいつもお揃いではないんだな」
「ユキタカくん、私たちもう大人だよ!」
「お、おう……そういうもんか?」
「ププ、デクってつばきが相手だとこんな感じなんだ」
「――こ、こんな感じって、どんな感じだよ!セカ……あ、あやめ……」
くっ……あやめって呼ぶことがこんなに恥ずかしいのか?普段からセカンなんて言ってるからなんとも思わなかったが、本人を目の前にするとかなり照れる……ってお前も照れるんかい!
「あ、あれ〜?……長風呂し過ぎたかなぁ〜暑くて我慢できない……冷たいお茶でも飲もうっと」
セカンは照れを隠すようにパタパタと手で仰いでいる。女の子のそんな仕草が可愛いと思うのは俺だけではないはずだ。
「ん〜?あやめ……なんか照れてない?」
「ハ!ハァ?ぜんぜん、そんなことないっちゃ!つばきがくっついてきて暑かったからっ!」
「そうかなぁ〜?むぅ、ユキタカくんもデレてるし!」
「デレるか!」
「ふふふ、ラブラブなのね。あやめと守日出くん」
「「「――!」」」
はっ!と俺たち三人は顔を見合わせる。
そういえばそういう設定だったとアイコンタクトで理解する。さくらさんは「入れ替わり」を知らない。セカンと俺は付き合っていて、つばきに紹介してもらった……そう勘違いしているのだ。
セカンにとって俺は他校の生徒だ。俺がこれだけセカンとつばきを知っているのは、やはり不自然か?
さくらさんならワンチャン誤魔化せそうだが……もう今さらか?……だが今後のこともあるし、付き合っていないと正直に言ったほうがいいな。
「さくらさん、俺とあやめさんですが、別に付き合って……」
「そうなの!この二人いつもラブラブで、嫉妬しちゃうんだよねぇ〜!なんか、あやめが取られたみたいで、悔しいの!あぁスベスベお肌気持ちいい〜!」
「――ちょ、ちょっと!つばき、ほっぺたくっつけないで〜」
――!つばき……あくまで貫き通すんだな。嘘をつくと、後がだんだん苦しくなるぞ……。
そうアイコンタクトで告げると、つばきは覚悟の上だと頷いた。セカンは?……うん、フニャフニャと照れたように顔を真っ赤にしている……
つばきが抱きついてるからかな?相変わらず子犬みたいで可愛いな。ヨシヨシしたい……ってお兄ちゃんから飼い主に属性変化してどうする!
「いいなぁ〜私も守日出くんとラブラブしたいわぁ」
「お母さん!お父さんに言いつけるよ!」
「つばき、俺がお父様に殺されるんで言いつけるのは勘弁してくれるか」
「デ、デク……お、お父様って……ププッ……何それ?」
「セカ……お前なぁ、そこ笑うところか?」
「だって……似合わないし……ププッ」
「ユキタカくん、お父さんの名前は
「そ、そうだな……規律に厳しそうで、とても強そうな名前だな……鬼の副長?みたいなね……」
「ふふふ、大丈夫だよ。嘘さえつかなければ優しいから!」
「おい!」
一番やっちゃいけないことやってんじゃん!
「へへ、デクがつばきにからかわれてる」
「む……あやめ、彼氏として言わせてもらうが、姉のつばきをなんとかしてくれ。いつも俺をからかうんだ」
「かかか、彼氏!!!」
「どうした?あやめ」
「あう……あう……うう」
クク、セカンをイジるの楽しいな。つばきから受けるストレスを発散させてもらおう。双子だから連帯責任だ。
「フフフ」
「私もあやめイジる〜」
「お?乗りかえてくれたか?」
「もぉ〜」
こねたハンバーグを3人で丸める。パンパンッとしっかりと空気を抜いて、中央をへこませる。美味しく均等に焼くための重要な工程だ。
純粋に楽しかった。冗談を言って、笑い合う。そんな当たり前なこと……心地良いBGM を聞くように姉妹の声を聞く。
二人が楽しそうなのが嬉しい……ハンバーグをまるめながらそう思ってると、急にBGMが消えた。
ふと顔を上げると、3人が俺の顔をマジマジと見ている。
「な、なんすか?」と言うと、つばきとセカンの目がキラキラ輝いている。
「デク……それ……」
「ユキタカくん……かわいい」
「は?」
コイツら、何を言ってるんだ?
あれ?……何かが頬をつたう……「俺は泣いてるのか?」そう尋ねていた。いや、情緒不安定かよ!
「ううん、デクはね……笑ってるんだよ」
――!どうやら俺は、泣き笑いしていたようだ。気持ち悪くて申し訳ない。
慌てて涙を袖で拭う。すると首の後ろに優しく腕を回してくる。ふわりと柔らかいものに包まれ、胸に顔を押し付けられた。この柔らかさはあれですね……超絶美人妻の抱擁です……。
「守日出くん、ありがとう。あなたのおかげで私たちは笑えてるの……」
あぁ……さくらさんは聞いてるんだな……岩国先生と二人で俺の体を拭いてくれたんだもんな。きっと、その時に背中の怪我とイジメについても聞いているんだ……。ふぅ、変態め……余計なことを……。
だけど……さくらさんの気持ちが伝わる。助けてくれてありがとう……と。
感謝なんていらない……ただ俺がそうしたいと思っただけだから。
でも俺じゃなく、さくらさんがそばにいてもきっと同じことをした。
だから俺はその抱擁を受け入れたのだと思う。
決して超絶美人妻に抱かれて興奮し、エロい妄想をかきたてているわけではない。これはちゃんとした……
「ユキタカくん、エッチすぎ!」
「デデデ、デクがお母さんと、ふふ、不倫してる!」
「「離れて〜!!」」
超絶美人妻の胸から、
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