つばきとユキタカ
八蓮花つばきは俺と似ている気がする。そう感じるのはコイツの底が見えないからだ。
「八蓮花つばき」になろうとしている。そんな感じだ。
それが自分自身に必要なことなのか、それとも双子にとって必要なことなのか分からない。
だが、まったくもってそれが悪いことだとは思わない。俺には俺の処世術があるように、つばきにも思うところがあるのだろう。
「経緯はどうあれ、楽しいですね!」
「女子は買い物が好きだからな。俺はあまり興味は無いが」
買い出しの際、つばきは終始ご機嫌で俺の後ろをついて来る。
手分けしようという提案も却下され、せっかくだから二人で楽しみたいと意味深な発言をする。
「そういえば、つばきとは買い出しに来る機会がなかったな」
「やっと気付きましたか?遅いですよ」
双子だなぁ。セカンのむくれ顔をよく見ているからか、同じような仕草をされると一瞬見間違える。
だが、双子だと知り、よく見ているからか、軽い足取り、後ろ手を組む姿、振り返ったときの笑顔や、美しさを感じる仕草や行動は違う。
つばきのそれはまさに、釘付けになる。
ただ歩いているだけなのに舞っているように見えるのは、彼女をひいき目で見ているからではない。
シーサイドモールの中ですれ違う老若男女が彼女の虜になる。目立ってしょうがない。
「あやめと買い出しが多かったのは、たまたまだぞ。アイツはお前と違って、好きで買い出しには来てなかったしな」
「ふふ、それはどうかなぁ」
「いやいや、文句ばかり言ってたぞ」
「へぇ、あやめって守日出くんに文句言ったりするんだ?じゃあ私もわがまま言っていいのかな?」
「勘弁してくれ、つばきは俺で遊ぶな」
「私は、本気だよ」
ドキッとした。本気って、何が?と思わせる表情で俺を見る。ふふふ、と俺の心の声に答えるつばきは底知れない魅力を秘めている。
ハァ、身が持たない。
買い出し後はバスで戻った。というか行きもバスでよくなかったか。とツッコミを入れると、そうですか?とやはり意味深な笑顔で答える「麗しきミス青蘭」。う〜ん、ミステリアス。
「結局……蒼穹祭前に熱を出したバカは来れるのか?」
「また、あやめの話ですか?」
「そのフリはもういいぞ」
「すみません、しつこいですね。2日目には来れると思いますよ。
「助言というか……まぁそうだな」
「あやめって恋愛するの初めてなんです。だから守日出くんがいてくれて、よかったです」
「ほぅ、まるで自分は恋愛をしたことがあるような言い回しだな」
「無い……と思ってました?ふふふ」
少し前を歩いていたつばきは、振り返ると笑顔でそう答えた。
ここは日本の夕陽100選にも選ばれる場所……が丘の上からでも見える学校。西宮海岸を初めて見たのは、ついこのあいだ。綺麗だなぁと思ったことが頭をよぎる。
夕陽が差した彼女は、少しイタズラな表情で微笑む……こりゃ、日本の綺麗な少女100選だな……と不覚にも思ってしまった。
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戻ってみるとクラスの雰囲気は良好。今まで作業に参加出来なかったヤツらも俺のおかげで全員参加だ。
クク、良かったじゃないか、俺がぶち壊したのは「仕掛け壁」だけじゃなかったようだ。
「心の壁」も壊してねぇ?とか言って……お前、なに上手いこと言ってんだよ!ハハハッ……なんて会話する友人はいない。
でもいい、むしろこれがいいんだ。誰にも期待されないなんて楽すぎる、自由だ!まさに俺の望む世界。
そんなことを考えていると、つばきが小声で話しかけてくる。
「さすがですね。こんなやり方でクラスをまとめられるのは守日出くんだけです」
「つばき……何のことだか、さっぱりわからん」
「ふふ、そうですね。ユキタカくん」
「――おまっ!それは……マズいだろ」
「ふ〜ん、どうしてですか?名前なんてどう呼んでもいいでしょ?
「だが……あやめが嫌がるだろ?入れ替わってるんだから。いちおう、お前は神代のことが好き設定だし……俺への呼び方は障害になるんじゃないか?知らんけど」
「また、あやめですか……私が呼びたいからです」
「お……おう……お前がいいならいいけど」
「ありがとうございます。ではユキタカくん、2日目の「蒼穹祭」……、一緒にまわりませんか?」
「――は?」
♦︎♢♦︎♢♦︎八蓮花つばき side ♢♦︎♢♦︎♢
私は、福岡から山口の青蘭高校に入学して何かを変えようとしていた。中学まではいつも隣にはあやめがいて、「仲のいい双子姉妹」という小さい頃からの評判は、ここでは誰も知らない。
もちろん、あやめのことが大好きで、ラブラブだねっと言われることも嫌ではない。だけど、友達になった子たちにもあえて自分からは双子のことは言わなかった……。
いつも二人でワンセットと見られてた私たち……私が頑張りすぎて、あやめのことを悪く言う人もいた……私たちはそれぞれ違うのに……どうして比べられなきゃいけないの……。そう思い、ここでは「八蓮花つばき」になろうと決めた。
しばらくして学校にも慣れた頃、この青蘭高校には「ミス青蘭」なんてものがあることを知る。私にとってそれはまったく興味のないものだったが、みんなの後押しで3年生の先輩と争うことになってしまった。
「八蓮花って子いる?」
「
1年の教室に数人の取り巻きを連れてやって来たのは3年の女生徒。腰まである黒髪ロングヘアにスラリとスタイルがよく、自信に満ちた表情で私の名を呼んだ。対応してくれたクラスメイトが怖がった様子で私のほうへ来る。
「八蓮花さん……3年の美祢先輩が呼んでるよ……気をつけてね……」
ざわつくクラス内、私を呼んでいるのは
連れて行かれたのは、屋上へと繋がる扉の前の踊り場。誰もいない、まさに
「八蓮花つばきさん、あなた「ミス青蘭」を辞退しなさい」
「それはどういう意味ですか?美祢先輩」
「私は3連覇を狙っているの。だから、相手のことも徹底的に調べるのよ。人間誰だって秘密の一つや二つあるでしょう?」
「……」
「あなた……出来の悪い双子の妹がいるそうね」
「――!」
美祢先輩は私に近付くと耳元で囁くように言う。秘め事を知っているのよ、と勝ち誇った様子でそう言うのだ。
「ほとんどの人が知らないらしいじゃない。それって知られたくないってことでしょ?」
「そんなことありません!それに出来の悪いなんて一度も思ったことないです!」
「でも、あなたは隠してた」
「それは……」
「あなたがどう思うかなんてどうでもいいのよ。問題は姉よりも能力が劣っている妹がいる、そしてなぜか隠してたという事実!それを聞いて皆がどう思うか……それだけよ!」
ガチャッ、屋上への扉が開いた。普段立ち入ることが出来ないはずの屋上から背の高い男の子が出てきた。
「ん?……なるほど、お取り込み中に申し訳ないが、休み時間も終わるし、通してくれるか?」
「「「――!」」」
「あなた、こんなところで何してるの!」
「俺がどこで何しようが勝手だろ?そういうアンタらのほうが問題じゃないのか?複数人で一人を囲む……どう見ても犯罪のニオイしかしない」
「犯罪ですって!?あなたは立ち入り禁止の屋上から出てきたでしょ!あなたは校則違反よ!」
「基本的に屋上は立ち入ることは出来ない……これが校則だが、立ち入ることが出来たとしたら?屋上清掃ボランティア……とか」
「――な!?そんなのが存在するの!?」
「さあ……あるかもしれないし、ないかもしれない……だが、無くても作ることは出来るがな」
「……あなた、変人なの?まぁいいわ。ここで見たり聞いたりしたことは忘れることね、行きなさい!見逃してあげるから」
「話の内容は知らないが、大方の想像は出来るな。噂ではたしか……ミス青蘭選?とかだったか?興味は無いが、これって状況的に脅迫みたいなもんだろ?つまり犯罪だ」
「――!あなた……言葉には気をつけることね。深入りすると痛い目に合うわよ!」
「ククク、気をつけるのはどっちかなぁ。じゃあ、真面目な俺は授業があるんで」
男の子は去って行ったが、美祢先輩の怒りは表情に出ている。
「……ミス青蘭を辞退すればいいってことですか?だったら……」
「いいえ、もう気が変わったわ!スピーチで敗北宣言しなさい!「私は美祢マリアさんを尊敬してます。目指すべき目標です。彼女をミス青蘭に推します」そう言うのよ」
「――!」
ミス青蘭選は生徒会選挙と同じくスピーチというものが存在する。見た目はもちろんのこと、学力、内面の素晴らしさが問われる。よって全校集会の際にはスピーチをするのだ。
最終的に2名まで絞られた者たちの自己アピール。それが「ミス青蘭」の最終決選。
そして、スピーチの日がやってきた。私の決断は……。
『1年3組、八蓮花つばきです。私は正直「ミス青蘭」というものが理解出来ませんでした。これに選ばれることに意味はあるのか、どうして青蘭高校にはこういう行事があるのか……そんなことを考えていました。ですが、友人に勧められ、クラスのみんなも応援してくれることで気付いたのです。誰かの期待に応える気持ち……それを乗り越えようと努力することが自分の成長に繋がるのだと……だからもし、ここで選ばれなかったとしても……それはきっと自分のためになるのだと……私は、私に期待してくれるみんなのためにも恥ずかしくない学校生活を送りたい!これが麗しいミス青蘭選だと、そう確信してます!』
盛大な拍手の中、私のスピーチは終わった。美祢先輩の指示には従わなかった。なぜなら、何も隠すことなどないから!あやめのことが大好きだ!あやめがいてくれるから私が私でいられる!
美祢先輩がどうスピーチしようが、私は私の道を行く!あやめを傷付けようとするなら私がなんとかしてみせる!
だけど、美祢先輩のスピーチはとくにその事に触れるものではなかった……むしろ覇気が無く、散々な内容だったと……そう思う……どうして?
ステージ袖の私の横を無言で通り過ぎていく美祢先輩……心なしか青ざめた顔色で目も合わせてくれない。
「お疲れ様でした」
私がそう言うと「悪かったわ……もう関わらないから」と彼女はそう言って去っていった。
取り巻きにいた男子生徒が悔しそうに私に話しかけてきた。
「アンタ……とんでもない味方がいたんだな……バケモンだアイツ……あの人を動かすなんて普通ムリなんだ……クソッ!」
「――アイツ?何のことですか?」
「知らないことが逆に怖ぇよ……まぁアンタの策略じゃないからこそ、美祢も引いたんだろうけど……」
何がなんだか分からなかった……結局、ミス青蘭選は私が勝利し、スピーチ内容から「麗しきミス青蘭」なんて呼び名も付いてしまった。
アイツって?
私が美祢先輩に脅されていたことは誰も知らなかった……いいえ……一人だけいた。
踊り場での物怖じしない男の子……。
その後、調べるとすぐにわかった。悪目立ちしてたから……。
その背の高い男の子の名前は……
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