つばきの想い
美祢マリアの身に起きたこと、八蓮花つばきを救った
教育委員会・委員長であり、ローカル番組などでコメンテーターとして活躍している彼女の母親を動かし、叱責させること……たった一通のDM だけで解決していた。
[
添付されたリンク先には守日出と娘マリアの会話内容が録音された音声ファイルがあり、踊り場でのやり取りを録音したものだった。
それが事実であると証拠付け、美祢直美を動かした。目には目を歯には歯を、脅迫にはより効果的な脅迫を……ソロプレイヤー
八蓮花つばきには彼が何をしたのか、調べる術はない。
そして、2年生となった春
♦︎♢♦︎♢♦︎八蓮花つばき side ♢♦︎♢♦︎♢
4月10日〜Diary〜
今日、初めてあやめと入れ替わりをした。初めての花鞆高校はすごく緊張したけど楽しかったなぁ。
花鞆高校は、ほぼ女子校なのだ。
最初は、ほぼ女子校ってどういうこと?って思ったけど、女子と男子では校舎が違うみたい。基本的に男子がこちらの校舎に来ることはない。特定の部活以外は立ち入り禁止となっている。
中庭を挟んで隣の校舎から手を振ってくる男子がとても多く、それもまた新鮮だ。あやめの友達も「またあやっちに手を振っちょるよ」と茶化してくる。
ちょっとロマンチックに感じてしまうのは、校舎と校舎の、見えるけど会えない距離があるからかもしれない。
そう、花鞆高校は校舎間の移動は原則的に禁止だ。男子部、女子部と別れている。
私立だから校舎も綺麗で高級感もある。公立の青蘭高校とはずいぶん違う。制服も有名なデザイナーさんが作ってくれて可愛いからテンションも上がる。
そんな花鞆高校と青蘭高校での二重生活……2年生の間だけと期間は限定だけど……あの人を見かけないのは少し寂しい。
でも……あやめの恋の応援のためだ!
4月15日〜Diary〜
守日出くんに「入れ替わり」をしていることを告げた。でも、彼なら内緒にしてくれると感じていた。
本当は分かっていた……彼が「入れ替わり」に気付いていないことに……でも私は……あえて伝えたのだ。
知らないフリをして、彼を巻き込むために……私は悪い女だ。
5月7日〜Diary〜
あやめは奥手だ。行動力はあるのに、そこに「恋愛」というカテゴリが入ると、途端に弱気になる。
私を演じているのが良くないのかも。本来のあやめが出せればきっと誰とでも仲良くなれる。
あんなに可愛い子はいない。私が男の子だったら、きっとすぐに好きになる。守ってあげたくなるというか……母性本能がくすぐられるというか……。
なかなか進展していないみたいだけど、守日出くんがたまに助け舟を出してるようだ。
守日出くん……あやめの本来の魅力を知っている彼は、きっと庇護欲を駆り立てられたに違いない。
俺は何もしないなんて言ってたくせに……。
5月20日〜Diary〜
あやめは「蒼穹祭実行委員」になれなかったみたい。野原さんが立候補しちゃったから言えなかったんじゃないかな。
「わたしはアイツを監視することにしたから!」なんて強がっていたけど、弱気が出ちゃったんだろうな。
「備品係」になるなんて、やっぱり守日出くんといるほうが楽なんだと思う。
備品係か……ちょっと楽しみかも。
5月24日 蒼穹祭前々日
家でくつろいでいたら思わぬ人からの着信に胸が高鳴る。
『もしもし、つばきか?……セカ……「あやめ」は帰ってるか?』
「守日出くん、初めて連絡くれましたね。嬉しいです。でも用件は「あやめ」のことですか……?」
むぅ……守日出くん、すっかり庇護欲が板に付いてきたんじゃないかな。
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『なんとなく、体調が悪いような気がしてたんだが……いちおう、神代に駅までは送るように頼んではいたが……どうかと思って……だな』
「……守日出くんが頼み事……神代くんに?……」
あの守日出くんが、しかも神代くんに!?誰かためにお願いをするなんて、初めてじゃない?……。
『いや、あやめが帳簿も持って帰ったんだ。それが心配でだな……』
ふふふ、誤魔化すのは下手だなぁ。心配だからって言えばいいのに……。
「とりあえず、あやめに連絡してみますね」
『あとは任せたぞ』
「あとでLINEしますね」
もぉ、あやめ……守日出くんに迷惑かけて。どこかに寄り道してるとか、神代くんと駅でお話しをしてるとか?ん〜、出ないなぁ。メールも返ってこない……。そういえば守日出くんから体調が悪そうって……まさか、どこかで倒れてたりとか?どうしよう……心配になってきた。
あやめ……どこにいるの。とにかくお母さんに伝えて探しに行かないと!
着信が入る。――あやめ!?じゃない守日出くん。
『JR西日本ですが、八蓮花あやめさんが電車内で高熱で寝てまして、今こちらにいる男性はお知り合いですか?』
「――はい、信頼出来る人です」
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守日出くんのおかげで、あやめは無事に連れて帰ることが出来た。期待するなといいつつも、期待に応える人……彼のことは一年生の頃から知っていた。
木偶の坊なんて言われているのも知っている。彼はみんなを突き放すような言動が多いから、そう思われても仕方ないのかもしれない。彼もそれを望んでいるから……。
だけど耐えられない時がある。違うのに、優しいのに、誰も気付かないことに腹が立つ。彼は何かを変えようとしているのだと思う。
きっと、中学時代の彼は今とは違っているのだろう。何かがあってそうしようとした。そう思う。
私と逆だ……私は周りの期待に応えたい一心でこうなった。おしとやかに、成績も良く、誰にも嫌われないように……。彼は……守日出くんは、なぜか眩しい。
一年生のあの日からずっと眺めていた。
クラスは違ったけど……。
すれ違うとき……。
外で体育をしているとき……。
成績順位が張り出されるとき……
あの人を追いかけていた。
だから……「入れ替わり」で巻き込んでしまおうと、ズルい私が顔を出した。
少しでも関わりたかったから……。
5月25日 蒼穹祭前日
「
言っちゃった!守日出くんは嫌がるかもしれないけど、もう我慢の限界!それに、あんなに必死で避けなくてもいいのに……ちょっとしたイジワル……でもあんな回転……体操選手しか見たことないよ、ふふふ。
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彼が少し前を歩き、私の前でかがむ。ドキッとした。
「ほら、少しだけだぞ。大通りに出たら下ろすからな」
「――え?……本当に?」
「――なんだ?やっぱり冗談だったのか?」
冗談だった。
まさか守日出くんがそんなことをしてくれるとは思わなかったから……。
でも……。
「……いえ、初体験させていただきます」
緊張する。
背が高いとは思ってたけど、背中もこんなにゴツゴツしてるなんて……。気を遣っておんぶしてくれてるのがわかる。
なるべく肌に触れないように、少し前かがみになっているのは私の胸が当たらないようにしてくれてるのかな……。
記録に残すべく写真を撮る。
あやめの写真で満足してたけど、まさか自分の写真が残せるとは思わなかった。
なんか、今日の守日出くんなら何言っても許してくれそう。
私は悪い女だから……。
言いたいことを言った。「ユキタカくん」とも呼んでみた。
私は彼と一緒にいるとわがままになれる……。
彼と一緒にいると楽なんだ……。
あやめがそうであるように、私もそう。
本当はわがままで、悪い子だって……そして、彼は「麗しきミス青蘭」なんて呼ばれている私に期待しない。
1年生の時、助けてくれた彼は、私じゃなくても助けていたと思う。
ずっと見てきたから分かる。
でも私はわがままだから……私だから何かしたい……そう、彼に思われたい。
私は……ずっと彼に恋してる。
「ではユキタカくん、2日目の「蒼穹祭」……、一緒に回りませんか?」
勇気を出して踏み込んだ!
そして伝えるんだ、私の気持ちを!
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