八蓮花あやめは、ヒーローに想い焦がれる。
♢♦︎♢♦︎ 八蓮花あやめside ♢♦︎♢♦︎
➖4月1日➖
「ん、ん……んぅ……ダ、ダメ……ム、ムリ……」
「もう?我慢して」
「んん……あぁ!……も、もうほんとムリ!」
「腰は反らないで、ゆっくりね」
「ダメ、ダメ!……限界!許してつばき!」
「ここからよ、もっと奥まで……」
「うう……」
「そう、そう……」
「アァァ!……ぶへぇ……もう動けない」
「頑張ったね、あやめ!」
「もう1ミリも動けないよ。これ毎日やったらつばきみたいにウエストがキュッてなると?」
「週に2、3回程度でいいよ」
「ムリかも……」
「あやめは、もとが細いんだし腹筋ローラーまでしなくてもいいのに」
「ううん、入れ替わるんだからなるべく、つばきと同じ体型にしないと!」
「そんなに変わんないと思うけどね」
「いや……ちょっとお腹にお肉が……」
「どれどれ?」
「ふひゃっ!フヒヒ……つ、つばき……フニフニやめて!わたしもう動けないんよ〜!」
「じゃあチャンスだ。あやめのツルツルお肌を堪能しよ!……う〜ん気持ちいい〜!」
「フヒャッ、ヒィ……くすぐったいよ。つばき」
「う〜ん、もうちょっとだけ」
「もぉ〜つばきは、いっつもそう!」
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「ねぇ、あやめ……どうして、そんなに入れ替わりたいの?」
「えっとね、どうしても気になる人がいるの」
「ふ〜ん、その人が好きだからってこと?」
「ちち、違う!会ったこともないのに……」
「――!会ったことないの!?」
「う、うん……だから探して、直接会って確認したいの」
「確認ってことは何か理由があるってことだよね
「う……つばきは鋭いからなぁ」
「私が探してあげようか?その人」
「ダ、ダメだよ!これはわたしと佐賀のおばあちゃんとの約束だから……」
「えぇ!?千恵ばぁ?私だけがのけ者〜?寂しいなぁ……」
「あ……つばき……違うんだよ!のけ者とかじゃなくて、これは助けてもらえた千恵ばぁから託されたというか……わたしが探したいというか……」
「ふふふ、冗談だよ」
「もぉ〜つばき〜!」
「でも、特徴なんて分かるの?」
「うん、青蘭高校の〜今はもう2年生だから同級生。わたしの感覚では、ヒーローみたいな人……あと千恵ばぁがイケメンって言ってた」
「ふ〜ん……会ったことないヒーローかぁ。素敵な人だといいね!」
「うん」
「恋だね」
「ちち、違うっちゃ!まだ好きとかじゃなくて憧れてるだけ!」
「ふふ、応援してるよ。あぁ、あやめが可愛い過ぎてぎゅっとしたくなっちゃう!」
「もぉ、つばきのくっつきぼう!」
「う〜ん、気持ちいい〜」
※くっつきぼう----全国的にはひっつき虫
➖4月15日➖〜Diary〜
わたしのうっかりと「つばき」のうっかりが重なってバレたのだ。
姉妹でやっちゃったんだからしょうがないよね。どっちのせいでもない……誰のせいか決めるとしたらそれは「守日出来高」のせいでしょ。
➖4月20日➖〜Diary〜
それにしても変なヤツ、神代くんとは雲泥の差だよ。……ちょっと待って雲泥の差って、すごくあの二人って感じじゃない?
白く潔白、優しく空に浮かぶ神代くん。きっと彼があのヒーローなんだ!
泥はもちろん守日出来高だ。雨が降ってドロドロになった地面、踏んだ人を手当たり次第に
いや〜、わたしって例えかたが天才っちゃね!
➖5月6日➖〜Diary〜
守日出来高は、なぜか人に嫌われようとしていて周りに攻撃的に接する。つばきが言うには悪い人じゃないってことだけど……わたしのことをバカだと思っている節がある。
たしかに、つばきに比べたら勉強は出来ないけど、「花鞆高校」だとトップ30位には入ってるよ。
「青蘭高校」と「花鞆高校」じゃ偏差値に差はあるけどね。
気に食わないことにアイツは学年2位だそうだ。
あの、つばきが一年間ずっと勝てないなんて……神代くんなら分かるけど、アイツがただ意地悪なだけじゃないってところが余計ムカつく!
➖5月10日➖〜Diary〜
「入れ替わり」を始めて一カ月が過ぎた。期間を決めてるけど、進展無し……男の子とどうやって仲良くなったらいいのかわからない。
しかも神代くんはみんなの人気者。
みんなの神代くんだから、わたしが積極的に動いて女子から反感を買ったりしないかな?とか考えているうちに1年終わっちゃいそう。
蒼穹祭の係を決める時もそう。
つばきからは好きにしていいと言われたけど、「実行委員」は立候補だ。
男子はすでに神代くんだと決まってる。
女子は……「ハイッ」とイケイケな
窓際の隅のほうから痛い視線が向けられていた、アイツだ。こっちを見て何やってんだって顔をしてた。でも、手を挙げれなかった。ふふふ……笑え……笑えよ……意気地なしと罵っていいよ。
わたしは、アイツの視線から目を逸らし、スッと目を閉じた。野原さんが実行委員に確定するのを待ったんだ。
自首をするようにアイツの係に立候補した。誰もアイツとやりたがらないので余裕で確定。
当然、バカだと言われた。わたしはアイツが嫌いだ。でも……素でいられるのはアイツの前だけ……だから落ち着く。
➖5月20日➖〜Diary〜
備品係の買い出し前にアイツがわざわざ余計なことをする。自分をダシにして、わたしと神代くんに接点を持たせようとするのだ。
応援しないって言ってたくせに、なんだか協力的で気味が悪い!みんなも言ってる!キモいとかウザいとか!……って。
でもキモいとかウザいとか思って欲しくない……。腹が立つから……アイツのことを悪く言われるのが嫌だから何もしないで欲しい。
本当は優しいのに……。
守日出来高の……彼の謎は深まるばかりだ。
➖5月24日 蒼穹祭前々日➖
「あ……この備品はわたしが買ったときの……」
そうだった。領収書をもらい忘れたのわたしだ。手分けしてたから忘れてた!
だっていつもデクが領収書をもらってくれてたから……どうしよう。
「……これは俺たちの不手際だから頼むのは、仕方がないことだ。本来なら、今から俺たちは「シーサイドモール」に領収をもらいに行かなければいけないが、八蓮花の体調が悪いようだ。保健室が開いてればいいが……いちおう神代が八蓮花に付き添ってやってくれ。しかし、こんな時に役に立たないヤツだ。俺に迷惑ばかりかける」
「――な!めいわ……」
「八蓮花、領収帳簿も俺が今日持ち帰って精査しておく。お前は、邪魔だから帰って寝ろ。またミスされても困る。」
どうしてそんな言い方するの?また、みんなに嫌われちゃうじゃん!……こんなときでも、わたしと神代くんを二人きりにしようとして……わたしのせいなのに……わたしのせいなのに……どうして悪者になろうとするの!
「守日出……もういい。八蓮花さんが落ち込んでいる」
「じゃあ、頼んだぞ、神代!八蓮花、帳簿をよこせ」
「イヤ……です。わたしがやります」
これだけは、ちゃんとやり遂げたい。何から何までデクに頼ってたらダメだ。自分でやらないと彼はどんどん悪者になろうとする。
「いやいや、お前には無理だ」
「無理じゃないっちゃ!……です」
「デクって上から目線じゃない?」「アイツはああ見えて学年2位らしい」「え?マジ」「調子に乗ってるんじゃない」
……待って……どうしてそうなるの?どんどん悪いほうにいっちゃう。わたしはただ、もうデクに迷惑かけたくないから……。
「守日出、どうやら八蓮花さんの意思は固いらしい。領収書は君に任せるから帳簿は譲ってあげてもいいんじゃないか?」
「……しょうがないな。その代わり神代、お前が責任持って八蓮花を駅まで送っておけよ」
「それが君の頼みなんだな」
「……じゃあ俺はシーサイドモールに行くわ」
ハァ?何言ってんの!駅まで神代くんに送ってもらったら身が持たないし……。別に体調悪くないんだけど。
「八蓮花さん体調悪いのに、ヒドいね」「デクって役に立たないから、それが負担で疲れが出たんじゃない?」「アイツ……マジ嫌いだわ」
……あぁぁ、もう、なんか腹立ってきた!デクってどうしてこうなの?
「八蓮花さん、顔が赤いよ。とりあえず保健室に行こう……先生、まだ居てくれたらいいけど」
「あ、ありがとう。神代くん……よ、よろしくお願いします」
神代くんと二人で廊下を歩いてる。入れ替わりを始めて初めての事だ。これも全てデクの策略だ。
つばきは「守日出くんは、優しいんだよ」ってよく言う。どこが!?って口では言うけど、本当はわたしだって分かってる。
彼の優しさは
デクって……つばきにはもっと優しいのかな。わたしのときみたいには接してないと思う。絶対、意地悪なんてしないだろうし……どんな感じなんだろう。
「……八蓮花さん?……八蓮花さん?……」
「――え?あ……ご、ごめんなさい。ぼ〜としてました」
「やっぱり体調悪いみたいだね。心ここにあらずって感じ」
「そ……そんなことないです」
「守日出のこと、考えてた?」
「どどど、どうして!?じゃなくて……その、つまり……」
「ハハ、なんか八蓮花さんって守日出と仲良くなってから雰囲気変わった?」
「そそ、そうですか?ぜぜ、全然変わらないと思いますけど」
「ハハ、動揺が凄いけど、仲がいいのは否定しないんだね。羨ましいな」
「――え?羨ましい?それってどういう……」
ウソ!?もしかして、神代くんがわたしのことを好き……?それとも、つばき?
「守日出ってさぁ……人を突き放すよね。僕はみんなと仲良くしたいんだ……でも、いつも空回り」
そっちか〜い!デクと絡んでもみんな空回りするから安心していいよ!神代くん。
「守日出くんは、誤解されやすいけど実は優しいんだと思うんです。クラスのみんなも、たぶん理解出来ないと思うけど、ちゃんと向き合えばきっと……いえ……やっぱりダメですね。彼はそれを受け入れない……。そっとしておくと、いろいろやってくれたりするし、見返りは求めないし、いろんなことを知ってますし、それと……」
「ハハハ、八蓮花さんは、守日出博士だね。すごく詳しい」
「――な!全然違いますよ。蒼穹祭の準備でずっと一緒だったからです!」
「僕なんて、1年生から一緒なんだよ。でも彼が理解出来ない……あれだけ優秀で周りが見えてるのに、わざとみんなに嫌われようとする。イジメみたいなことされても気にしないし……」
「少しだけ……少しだけ教えてくれました。期待されたくないし、期待もしたくないそうです」
「……なるほど。少し彼が理解出来たかも……気持ちも分からなくはない」
「神代くん……」
結局、駅まで送ってもらったけど、デクの話しかしてない……。まさか、神代くんがデクに興味があるなんて……なんか負けた気がする。うう……。
あぁ、疲れたぁ。
なんか気が抜けちゃった。
あ……せっかくデクが二人っきりにしてくれたのに神代くんに聞きそびれちゃった。
神代くんがわたしのヒーローなのかどうか……。
眠い……電車の揺れが気持ちいい……。
二駅だから寝ちゃダメだよね……でも少しだけ……少しだけ目を閉じよう……。
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