クラスで二番目に自由な子と、最自由な俺。
➖5月24日➖蒼穹祭前々日
俺くらいになるとクラスのヤツらの調子は見て取れる。調子とは好調や不調ということだ。
ヤツは今日調子がいいとか、悪いとか……俺は暇だからなんとなく見てると分かるんだ。
気持ち悪いと思われるかな?だが別にストーカーのように追いかけてるわけじゃない。パッと見て分かるんだ。
クラスのヤツらなんて嫌いなんじゃないの?って思われてるかもしれないが、別に嫌ってはないんだ。
むしろ、好感が持てる。ここまで、他人に好かれようと頑張る姿、そしてそのために試行錯誤する立ち回り……人を蹴落としてでもその立場に縋り付こうとする、実に人間らしい行動……好感しかない。
尊敬すら覚える。まぁ、俺はヤツらに好感や尊敬の念を持っているが、俺自身はクラス全体から嫌われている……でも大丈夫。
ヤツら全員俺に期待しないし、俺もしない。
自由だ。ビスケット・オリバが「地上最自由」だったように、俺は「クラス最自由」だ。クク……。
しかし、この隣にいる「
なんなら、クラスで2番目に自由な女の子と友達に……はなってないな。うん、友達ではない。巻き添えみたいなもんだ。
もちろん「最自由」は俺だから1番は俺な!
俺がビスケット・オリバだとするとコイツは「セカン」だな「ミス.
「セカン、備品の領収は明日までには会計係に出さないといけないらしい」
「……セカン?何のことですか。
「
「ハァ?「セカン」ってなに?わたしのこと?っていうか、どうして「つばき」のこと呼び捨てにしてるの?今日もわたしがあやめだってどうして分かるの?あと「セカン」って悪口じゃないよね!?」
「……質問が多いな……」
「セカン」と心の中で呼ぶつもりが「
さすがに「あやめ」なんて呼ぶと、すごく親しい友人だろ?俺たちは友人でもなんでもない。となると、「おい」「お前」「セカン」のどれかだ。
さすがの俺も「おい」と「お前」は、なんか偉そうにしてて気が引ける(よく言っている)……「セカン」だな。もう、心の中だけでなく普通にこれでいいだろ。
「とりあえず、セカン。俺のことは「オリバ」と呼んでくれていいぞ」
「アナタが、何を言ってるのか全然わかんないんだけど……とにかく「セカン」なんて変なあだ名はやめてよ」
「嫌なのか……だったらどうする?「あやめ」にするか?」
「ハァ?なんでそうなると!「八蓮花」でいいじゃん!」
「長いんだよ名前が!「あやめ」か「セカン」か……もういっそ「ハチ」でもいいぞ」
「「ハチ」ってなに!?ペットじゃないとよ!アナタだって「守日出」って言いにくいっちゃ!」
「なんか「アナタ」って夫婦みたいだな」
「――なっなんで、わたしとアナタが夫婦になると!?」
「別に俺たちのことを言っているわけじゃないぞ。一般的な話だ」
「う……ほんっと!嫌い!」
「顔が赤いけど照れてるのか?」
「――怒っとうと!……もういいわたしは「デク」って呼ぶっちゃ!」
「お前まで俺をヒーローにしたいのか……」
「……」
「話は変わるが、蒼穹祭はどっちに来る予定だ。2日目か?」
「なんで、デクに言わんといけんと!?」
「つばきに予定が無いなら、セカンは2日目に来るといい」
「ちょっ、ちょっと待って!さっきからずっとつばきのこと……なんで「つばき」って呼んどうと!?」
「……どうしてというか、つばきがそう呼べと言ったんだが」
「――つばきが!?な……仲がいいっちゃね……」
「別に……普通だろ。名前なんて、どう呼ばれても」
「下の名前なんよ!知り合って2カ月も経たないのに……」
「そんなだからお前はダメなんだ。「神代くん」って呼んでるうちは向こうも意識しないぞ」
「デクに言われたくないっちゃ!友達いないくせに」
「俺はあえてだからいいんだよ。「最自由」だからな……だが、お前は神代と仲良くしたいんだろ?じゃあもっとアプローチする必要がある」
「そうなん?ど……どうすれば……」
「蒼穹祭1日目は神代のヤツは忙しいんだ、実行委員だからな。だが、2日目には少し時間があるはずだ。前もってヤツを誘え」
「――え!無理……」
「無理でも踏み出せ!「入れ替わり」出来る度胸を少しだけ勇気に変えてみろ」
「な……なんて誘えば……」
「「蒼穹祭2日目に時間あったら一緒にまわりませんか」とでも言えばいいだろ?別に告白する訳じゃないんだ。仮に断られても、痛くも痒くもない」
「痛いよ!」
「痛いのか?……だがそれが恋愛なんじゃないのか?」
「何言ってんの……気持ち悪い」
「きもっ!……くっ……」
ちょっとカッコいいかなっと思ったのに気持ち悪いはツラいな。どうやら俺はズレているらしい。
「でもそうよね。踏み出さなきゃ始まらないよね」
「終わるかもしれないがな」
「――きぃ〜!どうしてそういうこと言うそ〜!」
ペシペシするな!痛い!やめろ!いまどき「しっぺ」なんてするヤツいるか?最近見たことないぞ。
それに山口弁が出てるぞ!福岡弁はどうした!もうすっかり魂は山口県民か?
「仲がいいんだね」
しまった!一番見られちゃいけないヤツに見られた!どこまでも周りに気を配る男だ。
「か、か、か、
おいおい、テンパるのも大概にしろ。
「フフフ、珍しいね。八蓮花さんが動揺するなんて」
「こここ、これは……」
「神代、何か用事があるんじゃないか?」
しょうがない、俺が対応しておくか。セカンはまだ軌道修正ができていない。
「ふふ、守日出……君は相変わらずだね」
「何のことだかさっぱりだ」
「……いや、忘れてくれ。とりあえず明日提出の経費のまとめを確認したけどレシートと領収の合計が合わないんだ……領収をもらい忘れてない?」
「……そうか?どれ?うん……確かに……」
「あ……この備品はわたしが買ったときの……」
これは……二人で「シーサイドモール」に買い出しに言った時のか?確か……あの時……モール内で別行動したからな。コイツ忘れてたな。
仕方ない。レシート持ってもらいに行っておくか。
「神代、頼みがあるんだが」
「――え?守日出が僕に頼み?」
「なんだ?」
「い……いや、珍しい……というか、初めてだけど」
「嫌か?」
「むしろ、聞きたいね」
「……これは俺たちの不手際だから頼むのは、仕方がないことだ。本来なら、今から俺たちは「シーサイドモール」に領収をもらいに行かなければいけないが、八蓮花の体調が悪いようだ。保健室が開いてればいいが……いちおう神代が八蓮花に付き添ってやってくれ。こんな時に役に立たないヤツだ。俺に迷惑ばかりかける」
「――な!めいわ……」
「八蓮花、領収帳簿も俺が今日持ち帰って精査しておく。お前は、邪魔だから帰って寝ろ。またミスされても困る」
「守日出……もうその辺にしておくんだ。八蓮花さんが落ち込んでる」
俺の罵倒は教室で作業しているクラスメイトの作業の手を止めていた。「ヒドいね」「八蓮花さんがかわいそう」「偉そうに!デクのくせに……」などと聞こえてくる。
目に涙を浮かべたセカンは俺を睨む。
そんな顔をするな……お前は今、「つばき」なんだ。「つばき」ならこんなとき、もっと毅然としていると思うぞ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます