第3章 笑顔の仲間達
10 第3章第1話 緊張の新学期(北野先生視点)
僕は、
もう、嬉しくって、嬉しくって!
今日は、新学期の始業式の日だけど、もう何日も前から学校へは出勤している。もうそろそろ職員室にも慣れてもいいかなとは思うけど、学校の門を潜るたびに新鮮な喜びが沸き上がってくるんだ。
ちらっと子供達の顔は、見たんだ。最初に着任式があって、みんなの前で自己紹介をした。一年生から六年生までで、五百人以上は居たな~。やけに体育館が狭く感じたっけ。
その後の始業式もあったけど、僕は受け持ちの子達と話す機会はなかった。正式に僕の着任が紹介されるまでは、同じ学年担当の花村先生が面倒をみてくれていたんだ。
でも、この楽しくて、嬉しい気持ちが、たった二週間で挫けそうになるなんて、この時は思ってもいなかった。
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四月の職員室は、落ち着かない。受け持ちの学年や担当が変わって、教師の席も入れ替わる。新しい先生も増えたりするから、大変なんだ。
先生達だって、席替えがある。座る場所が違うと、こんなにも世界が変わるものなんだと驚くそうだ。……そう、驚くんだって。僕にはよく分からいけど。だって、僕は、初めて職員室で席をもらったんだもん。全部が、初めての世界なんだもんね。
僕は、五年三組の担任。
目の前の
「あのー。改めて、よろしくお願いします」
「うん、北野先生だよね。ああ、こちらこそよろしくね」
目も合わさず、読んでいる本に夢中になっていた。
斜め向かいは、
「北野先生、着任の挨拶良かったわよ、短くてね、フフッ。いつでも、挨拶は短くよ!」
僕のお母さんと同じくらいの年齢だ。ここ数日しか見てないけど、何でもこなすファイトある人だ。いつもニコニコしているから、みんなは安心して話掛けられるんだ。子供達は『お母さん』と言って慕っている。
僕も心の中で、『お母さん』って呼んでたりして!
最後に、隣の席に座っているのは学年の主任の
実は、僕の教育実習の担当先生だった人だ。
「早央里先生、また、よろしくお願いします。少しは、進歩したとこ見せられるように頑張りますから」
「何言ってるの。北野君は、……あ、もう先生だったわね! あの教育実習だって頑張ってたじゃない。あの時の子供達は卒業しちゃったけど、今度は自分のクラスを受け持つんだから、頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
僕は、採用試験に受かって念願の先生に成れたけど、これからしばらくは初任者研修っていうのが続くんだ。校外へ出かけて研修を受けたりもするけど、働きながら自分の学校の中でも勉強していかなきゃならない。
でも、その校内初任者研修の担当教官が、早央里先生なんだ。まだ、若いけどしっかりした先生なんだ。お子さんはまだ小さいみたいだけど、旦那さんと家事を分担しながら学校の仕事も一生懸命なんだ。
僕は、早央里先生を見習って、その優しさだけじゃなく、その中にある厳しさなんかも真似したいと思ってる。
早央里先生が一組、鎌田先生が二組、そして僕が三組を担当する。特別支援のマリーゴールド学級は花村先生、それに時間講師で何人かの支援員の先生が交代で指導に加わるんだ。それが、この五年団の指導者なんだ。
「北野先生、最初から頑張らなくていいのよ。大事なのは、子供達も先生も普段の自分を見せられるかどうかなの。ゆっくりね」
早央里先生は、そんなアドバイスを僕にくれた。そして、静かに自分のクラスに向かったんだ。
この後、入学式が行われるが、それまで少し時間がある。僕達のクラスは、五年生なので入学式の準備はしなくてよい。学級で使える時間になっているんだ。
初めての子供達と向き合う時間だ。大切な第一歩目をどうするか迷った。迷ったというか、何をすればいいか分からなかった。
職員室を出る時、鎌田先生にも、聞いてみた。
「ああ、ぼくは、いつもこの時間を使って学級目標を提示してるんだ。最初が肝心だからね。授業時数も限られていますから、今後余計な時間を無駄にしないためにも、こういった時間を有効に使ってるかな~」
教育実践書を何冊も出版してるらしい鎌田先生は、さすがあっさりと答えた。もう行動は決まっているみたいだ。
それを聞いて、僕は益々自分には何ができるか不安になってきた。
早央里先生は、教育実習の頃からいつも『自分の方法を考えて』と言ってくれるんだ。……これは、とても安心するけど、時にはとても厳しいよな。だって、簡単に人真似じゃダメってことだもんな。……意味をよく考えろって、……たぶんそうなんだと思う。
……よし、着いたぞ……聞こえる……『トゥックン…トゥックン…トゥックン… ・ … ・ …』
僕は、胸を押さえて深呼吸をした。
◆北野大地先生のイメージ
https://kakuyomu.jp/users/kurione200/news/16818093084966454081
(つづく)
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