9 第2章第4話 奇跡のバトン
その後、みんなで久しぶりの夕食を食べたの。とっても美味しいカレーライスだったわ。食べながらの話題は、あたしの作ったリモコンよ。
最初に切り出したのは、やっぱりお父さんだったの。
「よく、思いついたな。あのリモコン……」
「うん、しーちゃんの家には大きなテレビがあるんだ。いつもあのテレビにゲームをつないで遊んでいるんだけど、なんとかあれにクラスのみんなを映したいなあと思って」
「なるほどね……
「うん、ありがと! でもね、しーちゃんのクラスは三十人以上いるんだ。パソコンやゲーム機同士なら繋ぐことはできるけど、しかもみんなが同じものもっているとは限らないよね」
「確かになあ」
「でも、テレビなら、絶対みんなの家にあるんだ。だから、テレビを繋げてしまえば、いいんじゃないかって思ったんだ」
「さすが、ミーちゃんね。よく考えたわね」
「ありがとう、お母さん。……うーん、リモコンは完成したのよ。でもね……」
「どうしたの? 何かうまくいかなかったの? 私には、分からないわ?」
「そうか……使い方かい?」
お父さんが、真剣な表情で、問題を一発で言い当てちゃった。さすが、お父さんだ。何でもお見通しだ。
「うん、そうなんだ。……いつ使ってもらうか? どうやって使ってもらうか? それに、そばに大人がいると、きっと大変なことになってしまうと思うの……」
「そうね、私達は慣れているから、『またミーちゃんの発明ね』で済むけど、他の人はそうはいかないわね。できれば、内緒で使いたいわね……」
「………………………」
しばらく、みんなは黙って考え込んじゃった。
そんな時、お父さんが、ふと席を立ち、茶の間から出て行ってしまったの。
「お父さん、どうかしちゃったのかな」
「大丈夫よ、お父さんが無口になった時は、何かいい考えが浮かんだ時なの!」
お母さんは、心配しないでと、ウィンクしてくれた。
しばらくして、お父さんは手に真新しいテレビのリモコンを持って戻ってきた。
「これ、何だと思う?」
「え?テレビのリモコンじゃないの?」
「実は、ここを押すと、LEDライトがつくんだ。もちろん、テレビのリモコンとしても使えるんだぞ」
「え? これどうしたの?」
「これは、俺がお得意さんに配ろうと思って、自作したテレビのリモコンに、LEDライトが内蔵された防災グッズなんだ。俺の発明だぞ!」
「なーんだ、お父さんも、ミーちゃんと同じようなことやってんじゃないの」
と、お母さんが、嬉しそうに二人を交互に見比べて笑った。
「何を言っているんだよ、俺のは仕事だよ。ちゃんとした電器屋のし・ご・と! まあ、そんなことはどうでもいいんだけど、わかったか? 三成実?……これを作るんだよ」
「そっか! うん! わかったお父さん!」
「え? え? 何が分かったの? 私にもわかるように説明してよ!!」
「あ! そっか、そうだよね!………あのね、お母さん、私が作ったテレビのリモコンにLEDライトを組み込むの。そして、お得意さんとしてしーちゃんのクラスメイトの家に、私が作ったテレビのリモコンを防災グッズとして配るのよ。上杉電器商会としてね。あたしの初めてのお得意さん回りかな? えへっ! ……………そうでしょう、お父さん!!」
「その通り。そうすれば、後はみんなで一斉に使うだけだ」
「でも、その使い方は?」
「まあ…、それは大丈夫だと思うよ。なんとかなるもんだよ、きっとね。……さあ、善は急げだ、俺達も手伝うから、早速リモコンの改造をしよう!」
「うん!お願い」
リモコンの改造は、あっという間に終わったわ。三人で協力したので、その日のうちに完成し、出来がったリモコンは、段ボールにつめてあたしの部屋に置いたの。
明日、お父さんと二人でお得意さん回りも兼ねて配ってくる予定にしたの。
今日は、もう夜中なのに、何だか明日が楽しみなのと、これでうまくいくのか不安な気持ちが入り混じって、なかなか眠れないわ。
あたしの部屋は、薄暗かったけど、かすかに月明かりが入ってきていたわ。
あたしは、眠れずに寝がえりをうっていると、月明かりより少し濃い光を感じたの。部屋の隅に置いた段ボール箱からだ。あれには、明日配る予定のテレビのリモコンが入っている。
起き上がって、あたしは近づいて見たの。そおっと、段ボールの蓋を開けたわ。そしたら、底の方から青い光が帯状に湧いているようだったの。
きれいな光だわ。
あたしは、何となく見とれてしまった。光ってはいるけど、眩しくはないの。だからあたしにはその光の帯がよく見えた。思わず、手を伸ばしたの。光の帯を触りたくなったの。一つずつリモコンを除けてみた。すると、段ボール箱の底に鉛筆が一本あって、光を放っていたの。
手に取ってみる? 自然と手が出たわ。変な鉛筆? あ、軸が三角形だわ。これは、書き方鉛筆だ。昔、小学校一年生の頃、使ってたわ。
鉛筆を持ち上げた瞬間、光は天井まで駆け上がり、その後ゆっくりとカーブを描きながら、一本一本が段ボールの中のリモコンに吸い込まれていったの。不思議な光景だったわ。
あたしの中には、きれいだという気持ちと不思議だという気持ちが、交互に沸き上がってくるのを感じた。すると同時に不思議な声も聞こえてきたの。
≪ミーちゃんよくがんばりましたね。後は、大丈夫だよ。ぐっすりお休みなさい≫
あたしは、いつしかそのまま深い眠りに落ちてしまったの。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日、あたしは、お父さんとお得意さん回りをしたの。するとお父さんが不思議なことを言うのよ。
「おや、三成実、昨夜リモコンに色付けをしたのかい? きれいにできたね。いい色じゃないか。ブルーは、お前の色だよね!」
え? 何のこと? 言われて段ボールを覗いたの。そして、初めて気がついたわ。段ボールの中のリモコンが、昨夜の青い光と同じ色に染まっているの。あの光は、リモコンに色を付けてくれたのね。でも、何の為に? 考えてもあたしには分からなかったわ。
昨夜のことをお父さんに話そうかとも思ったけど、信じてはもらえないだろうから、黙っておくことにしたの。……それにしても私の色って何だろう? まあ、いいや。リモコンは完成したんだし、早く配ってしまうことにするわ。
…………………………………………………
その夜の月は、満月だったわ。なんとなくいつもより輝いて見えたの。黄色が何倍にも増して、まるで光の帯が見えるような気がしたのよ。
あたしは、いつになく月を眺める時間も長かったんだけど、いつの間にか寝てしまったようなの。
不思議な夢をみたわ。
しーちゃんが、あたしの作ったテレビのリモコンを使って、クラスのみんなと楽しくお話をしているの。みんなが笑顔なの。もうそれだけで、あたしも嬉しかったわ。
……………………………………………………
次の日の朝、しーちゃんがうちにやってきたの。そして、楽しい夢の話をしてくれたわ。あたしと同じ夢の話を。とびきりの笑顔で……………………。
(第2章 完 ・ 物語はつづく)
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