7 第2章第2話 優しさで発明
あたしは、急いで家に帰った。向かいなので、すぐ着くんだけど、走らないではいられなかったの。
「あら、お帰り……」
玄関でお母さんの声が聞こえたような気がしたけど、あたしは真っすぐ自分の部屋に直行した。
下の茶の間では、お父さんとお母さんが、またあたしのことを心配してるだろうなあとは思ったけど、あたしは別に気にしないの。
今までだって、お父さんとお母さんは、いつも笑って許してくれた。あたしのやりたいようにやらせてくれてたの。
「
「そうだな、好きにやらせてあげよう」
あたしは、とにかく直球勝負の女の子なの。何事にも一生懸命に取り組んできたわ。思ったことはすぐ実行に移さないと気が済まないの。
それが、自分の事じゃなくて家族や友達の為だったらなお更なの。他人は、あたしのことを『優しいから』って言うけど、自分じゃよく分からないわ。
ただ、今は、しーちゃんが困っているのが分かるから……頑張っているだけ。
しばらくして、あたしは、一階にいるお父さんのところに行って、
「うちにテレビのリモコン余ってなかったっけ?」
と、尋ねたの。
「え? リモコン? ……そりゃあ、うちは電器屋だから、古いので良ければあるけど……」
と言って、お父さんは戸棚から段ボール箱を取り出してくれた。
あたしは、ちらっと、中をのぞいて、
「これ全部ちょうだい!」
と、お願いしたの。
「あ……ああ、いいよ……」
あたしは、お父さんの返事を全部聞く前に、もう段ボール箱を抱えて、また自分の部屋に戻ったの。
「うーん、三成実はニコニコして嬉しそうだったな。また、何か思いついたんだろうな……」
その時のあたしには分からなかったけど、お父さんもあたしと同じくらい嬉しそうだったんだって。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねえ、あなた。大丈夫かしら?」
「そうだな、もう三日か? 食事はしているのかい?」
「部屋の前に置いておいたおにぎりは、無くなってるのよね。時々、二階のトイレを使っているのはわかるの。でも、ずうっと物音はするから、きっと寝てないのよ、あの娘ったら」
「まあ、若いから、二日や三日寝なくても、死にやしないけど、それでもなあ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あたしって、無茶なのかな~。寝ないで頑張っちゃってるけど、もう少し、もう少しで完成なの!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「よし!」
あたしは、完成したものを持って一階の茶の間に駆け下りたわ。
ドドドドドド……ダンダンダン……ドーン!
思わす階段の最後は飛んじゃった!
「出来た! 出来た! やったー、出来たよ~!」
お父さんとお母さんの顔を見た途端、我慢しきれずあたしは叫んじゃった。
「ミーちゃん、ミーちゃん。ちょっと、落ち着いてよね」
「なあ、俺達にもわかるように説明してくれんかな? 何が出来たんだね」
あ! あたしは、気持ちがハイになってる? 寝てないからかな? いや、落ち着こう。茶の間のソファーに腰を下ろし、深呼吸をした。そして、手に持っている『テレビのリモコン』を見せながら、ゆっくり話し始めた。
「しーちゃんがね、クラスのみんなに会えなくて、とっても寂しそうだったの。しーちゃんはね、壁に貼ってあるクラスの写真を見ながら、みんなに会いたいって言ったの。だからね、あたし、頑張って、このリモコンを改造したの」
「そうか、よくやったな三成実。それで、そのリモコンは何が出来るんだ」
「あのね、お父さん、このリモコンを使うとね、テレビの前にいる人同士が、繋がってテレビに映るの。しかもおしゃべりができるのよ。トランシーバーのテレビ版みたいな感じね。これはね、このテレビリモコンがあれば、どんなテレビでもできちゃうんだからすごいでしょ」
あたしは、嬉しくて嬉しくて、早口だったとは思うけど、一生懸命に喋ったの。
お父さんは、喜んでくれたわ。リモコンも手にとって見てくれたの。
「ほー、すごいな。パソコンでは似たようなことができるが、その機能をリモコンに埋め込み、しかもテレビの電波を利用して、同時中継を行うシステムをたった三日で作り上げてしまうなんてな」
お父さんは、本当に感心してたわ。あたしは、そんなお父さんの様子を感じたことで、一気に体の力が抜けていくような気がしたの。
「まあ、私にはそんな難しいことはわかんないけど、きっと凄いことなんでしょうね。……あらら、ミーちゃんったら、よっぽど疲れたのね。ぜーんぶ、お話ししたら、もう寝ちゃってるわ。今日は、ここでおやすみなさい。…………よく、がんばりました」
あたしは、そのままソファーの上で毛布にくるまって眠ってしまったみたいなの。そんなあたしの顔をお父さんもお母さんも、しばらくじっと見てたって、後で嬉しそうに言って聞かされたわ。
(つづく)
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