第2章 友情の証

6 第1話 友のかたち(三成実視点)

 あたしは、上杉三成実うえすぎ みなみ。この三月に大学を卒業してお父さんの電器屋に就職したの。でもね、ようやく四月から本格的にお店で製品を販売したり、お客さんの家に行って電化製品を取り付けたりして頑張っていたのに、あんなことが起きるなんて……。


 そう、世界中で未知のウィルスが蔓延し出たしたんだって。この町でも学校がお休みになったり、外へ出かける時は、マスクが必須になっちゃった。


 ま、あたしにすれば、働き始めたばかりだから、疲れもあって丁度いい息抜きのようなお休みになったけどね。そうそう、お店は開いているんだけど、買い物に来るお客さんは誰もいないの。

 時々、お客さんのおうちから家電製品の修理依頼はあるけど、お父さん一人で間に合っちゃうのよ。あたしもついて行くけど、あんまり役に立たないのよね。



 今日は四月の第三土曜日。お店は休みなの。日本中に緊急事態が敷かれて学校なんかが臨時休校になった今週の水曜日からは、ずっとお休みみたいなものよね。



「おはよう、お父さん」


「おはようじゃ、ないよ。今、何時だと思っているんだよ」

 こんなことを言うお父さんだけど、あたしを見ながらニコニコしてるの。四月から一緒に働くようになって、いつもこんな顔してるのよね。


「いいじゃあありませんか。ここんとこ毎日お休みみたいなもので、どうせお客さんは来ないんだから」

 あたしのために遅い朝ご飯を作ってくれているお母さんが、台所から、お決まりの助け舟を出してくれる。

 まあ、お父さんが怒っている訳ではないことは、お母さんもよく分かってるはず。




「ところでね……」

 何事もなかったように、お母さんは続けた。

「向かいのしーちゃんね、元気が無いんだってさ」



「え? しーちゃんが? どうして?」

 うちの上杉電気商会、と言っても町の小さな電器屋さんなんだけど、向かいに住んでいる岡崎志津奈おかざき しずなって子のことが、気になるんだ。

 あたしもそうだけど、志津奈はみんなから『しーちゃん』って呼ばれて親しまれている。元気で明るい小学校五年だ。


 ちょっと歳は離れてるけど、あたしとしーちゃんは、昔からとっても仲良しだった。家同士も仲がよく、お互い一人っ子ということもあり、あたしとしーちゃんは姉妹のように遊んでた。



「それがね、今、大変でしょ。学校も先週からお休みになってね。友達に会えなくなったじゃない、だからだと思うわ」

「三成実、お前午前中、ちょっと様子を見てきたらどうだ?」

「え? お父さん。自由にしていいの? 休みの日はいろいろ家電のこと勉強する時間だって」


「ん? まあ、そういう勉強も大切だけど、それよりも大事なことがあるだろ?」

 お父さんは、また、ニッコリ笑って頷いていた。


 するとお母さんも

「そうよ、あなた達、姉妹みたいなものじゃない。気になるでしょ?」

と、食卓に朝食をそろえながら笑顔でそう言ってくれたの。



「分かったわ、これ食べたらすぐにしーちゃんのところに行って来る!」

 食卓にはあたしだけの朝食が並んだ。ちょっと遅い時間なので、父さんも母さんもとっくに済ませてる。

 あたしは、急いで朝食を掻っ込んだ。



 実は、こんな時だけど、しーちゃんに会えるのをとても楽しみにしていた。

大学の四年間、時々は帰ってきて一緒に遊んだりしたけど、昔みたいにそんなに時間がとれなかったんだ。


 四月からは、お父さんの電器屋さんに就職したから、また近くになった。でも、今度は仕事が忙しくて、やっぱりしーちゃんとは遊べないと思っていたんだ。

だから、どんな形にせよ、会えるのがとっても嬉しかった。





「おばさーん、ひっさーしぶりー。こんにちは。しーちゃん、いる?」


「あら!ミーちゃん、よく来てくれたわね。お父さんの仕事を手伝ってるって聞いたけど、なかなか姿を見せないから。シズなら、いるわよ、いつもの二


「はーーい」





 おばさん、ちーっとも変わらないな。……よし、ここだ。……しーちゃん、いる? ミーだよ、開けて」

 ドアが、すぐに開き、顔を見る間もなく、すぐにしーちゃんが、しがみついてきた。



「こらこら、久しぶりなんだから顔を見せてよ」

「うん……。えへへへ…………ズズッ」


 しーちゃんは、抱きついたまま顔をあげた。笑った目には、大粒の涙が光っていたの。その後、あたし達は部屋で再開を懐かしみ、まるで姉妹のように近況を語り合ったわ。




 あたしは、少し安心した。元気はなかったけど、昔のしーちゃんのままだったの。


 でも、きっと今は寂しいんだと思った。そうに、違いない。だって、しーちゃんのことは何でもわかるんだもん。




「ねえ、しーちゃん、何かしてほしい事なあい?」

「…………………」


「何でもいいよ! 絶対あたしがやってあげる!」

「ホント?」


「もちろん! 任せなさい!」

「……じゃあ…………みんなに会いたい…………」


 しーちゃんは、壁に貼ってある学級通信を見つめながら、つぶやくように言ったの。


 彼女の部屋は、そんなに広くない。でも、机、ベッド、整理ダンスなどきちんと整えてある。壁にも自分で描いた絵が飾ってあったり、低い丸テーブルと座布団、テーブルの上には小物入れなど女の子らしい飾りもあったりする。


 そんな中で、学級通信はひときわ目を引いた。クラス全員が、笑顔で写っている。それも、写真を撮るための笑顔でないことが分かるような、なんというか自然と笑顔になった瞬間を写真にした感じだった。

 


 あたしは、その写真をじーっと見つめ、しーちゃんの会いたがっている人が誰なのかが分かったような気がした。



※上杉電器商会で働いている時の上杉三成実

https://kakuyomu.jp/users/kurione200/news/16818093084548315060



(つづく)

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