5 第4話 輝く光の向こう

 ぼくは、しーちゃんの声を聞いてから落ち着かなくなった。だって、いつもの元気のいいしーちゃんじゃないんだもん。


 夜になり、夕食も終え、みんなが寝静まる頃、外は、真っ暗でとっても静かだった。ただ、満月だけが光輝いていた。

 ぼくは、自然とあの三角軸の鉛筆を引き出しから取り出していた。たぶん、周りが暗く成れば、また光るはずだと思ったんだ。


 三角軸の鉛筆を手に取り、『クルリンパ』と、声を出しながら正しい持ち方をしてみた。やっぱり、三角軸の鉛筆はきれいな黄色の蛍光色に光り出した。もの凄い光だ。ぼくの部屋は、奇麗な黄色い光でいっぱいになった。




 外の満月だけが、ぼくの部屋の光と同じだった。



 しばらくすると、ぼくの部屋に満ちた黄色い光は、窓から外に伸び出した。まっすぐラインを引いたように、何もない暗い空に光の道が出来上がった。





 ぼくは、迷わずに叫んだ。


「今、行くよ、待っててね」


 ぼくは、窓を開け、黄色い光のラインの上を歩き出した。次第に速足になり、……駆け足になっていった。

 黄色い光のラインは、迷うことなく真っすぐに進んでいた。


 ぼくは、三角軸の鉛筆を握りしめ、目的地に向かって暗闇に光る黄色い光ラインの道を急いだ。







「やっぱり、太郎君だったのね!」


 そこには、しーちゃんの家があり、二階の部屋に黄色い光のラインはつながっていた。ここは、しーちゃんの部屋だ。


「待たせたね」

「ううん……きれいな光だったの……流れ星かと思って願い事をしていたの」

「それで、どうだった?」

「嬉しいわ、願い事が一つ叶ったんだもの」


「じゃあ……しーちゃんの願い事をもう一つ叶えてあげるよ」

「え! 私のお願いって……」



 ぼくは、しーちゃんを茶の間の大型テレビの前に連れて行った。そして、スイッチを入れようとしたら、

「え? 待って、こんな時間に、ここでテレビをつけたら、お父さんやお母さんに叱られるわ」

と、しーちゃんが困った顔をしたんだ。



「大丈夫さ、今は、大人は起きないことになっているんだ。ぼくが、さっき流れ星にお願いしたから絶対に大丈夫なの!」

と、ぼくは笑って見せたんだ。


 するとしーちゃんも、笑顔になり、「わかったわ」と、ウィンクで返してくれた。




 ぼくとしーちゃんは、茶の間の大画面のテレビのスイッチを入れた。そして、Mのボタンを押したんだ。ぼくに、どうしてこんなことができたかは、わからない。でも、いいんだ。しーちゃんが笑ってる。それで十分だった。


 テレビが明るくなり、画面がいくつにも分割した。そして、そこにクラスの友達が映し出されたんだ。それどころか、お互いに会話もできたんだ。大人のいない空間で、まるで教室のようだった。


『わあー元気だったー』

『会いたいよーー』

『何してるのー』

『ひまだよー』

『学校へ行きたいよー』

………………………

………………………



 新学期が始まって4週間、学校へ行けなくなって2週間、たったそれだけのに…………ぼくの学級は…………こんなに懐かしい……




・・・・・・・・・・・・・・



 夜明け前、テレビの画面も自然に消えたんだ。みんなもわかっていたのか、最後は笑顔で手を振って「さよなら」をした。


 ぼくも黄色い光のラインを歩いて自分の家に帰ってきた。しーちゃんも、今頃は自分のベッドで眠ってるんだ。






 夜明け前、しーちゃんの部屋も薄っすらと明るくなった。しーちゃんの枕元に置かれていた“書き方鉛筆”からは、微かに赤い光がこぼれていた。でも、ぼくはそんなことは、まったく知らなかった。


 ただ、昇る太陽の暖かさをまた感じとれるだけで良かったんだ。


※しーちゃん(岡崎 志津奈)のイメージイラストです。

https://kakuyomu.jp/users/kurione200/news/16818093084457735825



(第一章 完 ・ 物語はつづく)

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