4 第3話 あの子の笑顔

 学校閉鎖になって一週間目、ようやく北野きたの先生から電話が来た。北野先生は、五年三組担任で、ぼくの先生なんだ。


 学校もなんだが忙しそうだった。だって、いつものインフルエンザとかで学級閉鎖するのと違っていたんだもん。たぶんだけど、先生達も『先が見えない』『学習はどうする?』とか、いろいろ困っていたんじゃないかな。


 だから、なかなか連絡が来なかったんだと思った。




『ねえ……北野先生……早くみんなに会いたいなあ……』

 電話に出たぼくは、すぐにこんなことを言っちゃった。


『ああ、わかるよ。もう少し、もう少しだと思うから……頑張っておくれ』

 北野先生は、みんなに同じようことを言われたんじゃないかな?先生、ちょっと元気がなかったもんな。


 それでも、電話口では一生懸命にぼくのことを聞いてくれたり、家での勉強ことを心配してくれたり、一生懸命なことはすぐに分かったんだ。




「北野先生? 友達の家に遊びに行くのもダメなの?」

『ごめんよ……もうちょっと待ってててね……』


 学校がお休みでも、友達にさえ会えれば、元気が出るかと思ったんだけど………やっぱりダメか。

「……うん、わかったよ……ぼく、頑張るから、先生も頑張ってね』



 その後、お母さんと電話を代わったぼくは、仲のいい『しーちゃん』のことを考えていたんだ。家に遊びに行きたいなあ~



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 お母さんの電話が終わったので、ぼくは聞いてみた。

「ねえ、お母さん。先生は、みんな、元気だって言ってた?」


 すると、お母さんは、ちょっと迷ったような顔をした後に

「……そうね、みんな退屈はしているそうよ。ただ……電器屋の向かいのしーちゃんがね……電話をしても出なかったんですって。……お母さんとはお話ができたから、病気じゃないらしいんだけど、あんまり元気がね……」


 ぼくの幼馴染の岡崎志津奈おかざき しずなは、みんなからしーちゃんと呼ばれ親しまれているんだ。もちろんぼくの家とも家族ぐるみで親しくしているから、お母さんだってしーちゃんって呼んでる。



 ぼくは、急に心配になってきた。……行ってみようか。でも……。


「あ! お母さん。ぼく、しーちゃんのうちに電話してみていい?」

「そうね、お話でもできれば、少しは元気も出るかもね。」

「うん!」


 ぼくは、急いで電話した。もちろん、番号なんか覚えてるし。



 プッシュボタンを押した。なんだか、いつもの電話より緊張する。……呼び出し音がする。

「あ、もしもし、中村太郎です。こんにちは……」


『ああ、太郎君ね……よく電話をくれたわね、ありがとうね。……しずでしょ、ちょっと待っててね』



 しーちゃんのお母さんだった。……電話、代わってくれるって言った。しーちゃん、電話に出られるんだ。……よかった!






『…………もしもし…………』


「あ! しーちゃん? 太郎だよ。元気? 何してる?……』


『う、うん……元気……だよ……何もしてないよ……』


「北野先生から電話来たよね……なんかさ……しーちゃんが元気がないって聞いたんだ……大丈夫?……」


『………ありがとう……大丈夫……よ。……でも……ちょっと……いえ……あの……これから……家のお手伝い……なの……じゃあね……またね』




「うん、じゃあ、また、電話するよ、バイバイ……」




 ぼくは、電話を切ってから考えた。しーちゃんは、ほとんどしゃべらなかった。いつもは、あんなにおしゃべりで、明るく、元気なのに。

 きっと、優しいしーちゃんは、心配させないように何も言わなかったんだ。


 ぼくの耳には、しーちゃんの言葉だけが残った。




『大丈夫よ………』





 あの言葉、どっかで聞いた。……あ! あれは、あの時の眩い光を見た時、聞こえた言葉だ。あの時も、確か『大丈夫よ』って言ってた…………




(つづく)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る