第1章 月夜の奇跡

2 第1章第1話 不安な日常(太郎視点)


 ぼくは、中村太郎なかむら たろう。最近、ずっと詰まらないんだ。せっかく新学期になったのに。


 ぼくは、虹ヶ丘にじがおか小学校の五年生になったんだ。虹小にじしょうでは、学級が二年間ずつ一緒なんだ。五年生になったら、クラス替えがあった。また、しーちゃんとは一緒だった。


 ぼくは、ホッとしたんだ。近所に住むしーちゃん、岡崎志津奈おかざき しずなちゃんとは幼馴染で仲良しなんだ。ちょっと怖いとこもあるけど、困っている人にはとっても優しいんだ。ぼくなんか、いっつも助けられてる。




「はーっ……」


 また、ため息ついちゃった。




 先週から学校が休みになちゃった。急にね。外に出て遊んでもダメだって言われた。詰んないよね。

 なんだか、世界中で変なウィルスが流行ってるんだって。



 担任の先生も変わって、新しい友達もできたのに、学校に行けないなんてがっかりだ。





「はーっ……」

 ため息が止まらないんだ。


 また、夜更かししちゃった。昼間、思いっきり遊んでないから、夜も寝られないんだ。昼は、何もしてないからダラダラばっかりしてるし……。


『あんまり、遅くまで起きているんじゃありませんよーー』

 

 お母さんだ。下の階で心配して声を掛けたくれるけど、こればっかりはどうしようもないよね。


「仕方ない、電気だけでも消すか……」

 ぼくは、独り言のように呟いて、部屋を暗くして、ベッドに潜り込んだ。



 あれ?しばらくして、暗かったははずの窓の外が、明るく光った気がした。変だな、ここは二階だから外を通る車のライトでもないはずなんだけど……。


 ぼくは、気になって窓の傍へ見に行った。


 するとそこには、黄色の蛍光色に光る鉛筆があったんだ。

「誰が置いたのかな。ここは二階だぞ、外からここへ来るのは無理だけど、下から投げたのかな」


 ぼくは、そんなことを考えて、鉛筆を手に取った。


「なんだか懐かしい感じがする……これは……1年生の時によく使った“書き方鉛筆”だ」


 ぼくは、一年生の頃を思い出した。正しい鉛筆の持ち方を練習する時に使った軸が三角の形をした鉛筆だ。

 その鉛筆を手にして懐かしく見つめていると、どこからともなく女の人の声が聞こえてきた。




≪大丈夫よ……心配しないで……きっとなんとかなるわよ……≫






 何度も、何度も、聞こえてきた。


 ぼくは、なぜか、その声を聞いているうちに、いつの間にか気持ちよく眠りについてしまっちゃったんだ。


◆中村 太郎君のイメージイラスト

https://kakuyomu.jp/users/kurione200/news/16818093084457415260



(つづく)

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