第40話 落ちたイケメン

 私たちはお互いに距離をあけ、思い思いに駆け回る。大学生を取り囲むように走っては、彼らに風刃を撃った。効果はてき面で、彼らはほとんど反応できない。不格好に跳ねのいては、ぎりぎりで直撃を免れるのみだ。


 彼らが風刃に気を取られる隙に、和泉が間合いに飛び込んだ。


「フレイムバースト!」


 優斗が間一髪で魔法を出した。和泉に向かって炎の塊が襲い掛かる。


「虚斬!」


 和泉は魔法を斬る。そのまま距離を詰め、優斗を薙ぎ払う。相手は人間だ。頭部を狙うわけにもいかない。腿を狙ったが、剣先が一瞬躊躇い、優斗はなんとか回避する。


 相手はレベル120。私たちの3倍だけど、私たちには剣聖の技がある。剣の届くこの距離なら、私たちが随分有利なようだ。



<いけ!>

<また魔法を斬った>

<すげー!>


<惜しい>

<勝てるぞ>

<そこだー!>







 ちょうど和泉の対角線上にいたリリスが、今度はこっちだと飛び込もうとした。そこに何かが飛び掛かった。



 黄金の炎を身にまとったライオンだ。



<え?>

<フレイムリオン?>

<って、このダンジョンのボスだよな?>


<なんでこんな階層にいるんだ?>

<なんか様子がおかしくね>

<瞳が青いぞ>



「ま、まさか。」


「そのまさかだよ。

 フレイムリオンはすでに私がアンデッド化してるんだよね。」


 如月がドヤ顔で言う。アンデッド化したモンスターは生前より強くなるらしい。レベル6のダンジョンボスがそうなると、ちょっとヤバいかもしれない。


「おい、さくら!

 また弱気になってるんとちゃうやろな?


 あのライオンの顔見てみい。

 うちにはムカつくあいつらの顔にしか見えへんで!」


 そう言って、葵はフレイムリオンに斬りかかる。ライオンの前足は葵を引き裂こうとするが、冷静な剣捌きで対応する。


「隙ありぃ!」


 葵がフレイムリオンの脳天めがけて、垂直に刀を落とす。フレイムリオンは咄嗟のところで斜め後ろに飛びのいた。葵も全然負けてない!


 そう思った瞬間、フレイムリオンの口が光り、光線のように炎が跳び出した。



<バーニングブラスターだ>

<当たると炎に包まれるぞ>

<やばい!避けろー!>



 葵は向かってくるそれを【虚斬】で切り捨てた。2つに別れたそれは、そのまま後方に飛んでいき、触れた地面を焼き続けている。


 とっておきを防がれたフレイムリオンは明らかに狼狽した。







 フレイムリオンの右の後ろ脚が吹き飛んだ。


 後ろから切りつけたリリスの刀が切り伏せたのだ。このチャンスを逃す葵じゃない。縮地で距離を詰めて、難なくクビを斬り落とした。



 グギャアァァァアア!



 フレイムリオンの断末魔が響く。




 それにしてもさっきから私たちの周りを霧が覆っている。


 もちろん気づいていたよ。だけど全員が回復職の私たちに、状態異常の攻撃は悪手かな。霧を切り裂いてから、私は自分に治癒をかけた。



「そこまでだー!」



 藤堂の声が響く。まだ手があるの?


 そう思って彼を見ると何かを抱えている。



 セレーネだ!



「こいつが、どうなってもいいのかぁ!」



<卑怯だ>

<落ちるところまで…>

<イケメンだせー>




 人質とは、どこまでも汚い奴だ。

 だけど、どうしよう…







☆☆☆


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