第39話 葵の怒り

 私たちと大学パーティの戦いが始まった。


 ガルス兄弟は治療が終わっているけど、まだ動き回れる状態じゃない。自分たちで岩陰に移動して、しゃがみこんでいる。彼らも被害者だ。とっても悔しそうな顔をしていた。


 大学生たちは多分全員が魔法職みたいで、1か所に集まっている。


「インフェルノ!」

「フレイムバースト!」


 得意のコンボが出た。


「熱っ!」


 もちろんこんなの直撃しないけど、近づいただけでも皮膚がチリチリするくらい痛い。私たちは剣戟戦がメインなんだから、ボーっと1か所にいるべきではなかった。初動に遅れた私たちは慌てて距離を取ろうとする。


「インフェルノ!インフェルノ!」

「フレイムぅバーストー!!!」


 しまった。魔法を連打され、私たち炎の円に閉じ込められてしまった。私たちのスタイルは魔法相手にあまり相性がよくない。



<やばいよこれ>

<リリィズが殺されちゃう>

<おーい!生きてるか?>


<やめろ大学生>

<何かあったら俺たちが証人だからな>

<もう止めてくれー>



 私たちの視界は360度、炎の壁のみである。どうしたらいいんだろう?


「みんな大丈夫?」


「今のところはな。

 せやけどヤバいでこの状況。」


「髪の毛が燃えちゃいそうですぅ」。


「息苦しさに気づいているか?

 これ以上は本当に危険だぞ。」



 そういわれたら頭がクラクラする。炎のせいで酸素が欠乏している のか。リリスは壁を飛び越えようと高く飛んだ。もちろん届かない。そのくらいに、炎の壁は高く私たちを取り囲んでいる。


「バフをかけます。リリスさん、もう1度!」


 和泉がリリスにバフをかけた。私と葵がバレーボールのレシーブのような格好で踏み台になる。


「任せろ!」


 リリスが飛び上がる。さっきよりは数段高く、壁の外が見えるくらいには飛ぶことができたが、飛び越えることは叶わない。



<今リリスの顔が見えた>

<まだ生きてる>

<中から脱出しようとしてるぞ>


<けどこの高さは越えられないんじゃ>

<リリス!がんばれー>

<がんばれー>



 このままじゃホントに駄目だ。身体からは汗が吹き出し、喉が焼け付くようだ。頭がガンガンする。


「ねえ、私たちこのまま死んじゃうのかなぁ。」


「さくら!あんた何弱気なこと言っとんねん!

 うちは認めへんで!」


 そういって葵は剣を握りなおした。炎の揺らぎを見つめている。


「あー、こうやって見てたらあの炎。

 あいつらの顔に見えてきたわ。」



「ムカつく!」



 そう言いながら、葵は炎の壁を薙ぎ払った。下から噴き出している炎が横一文字にスパッと切れ、ぱっつんの前髪が上下逆さになったような格好で、数秒間視界が拓けた。そこから新鮮な風が流れ込んできて、私たちは一息付けた。気力の漲りを取り戻せた気がする。


「葵、今なにやったの?」


「へ?ただ、炎に映ったあいつらの顔を切っただけやで。」


「でも、結果的に魔法を斬ったよね?」


「言われてみれば…。」


「これ、剣聖の新しい技を覚えるチャンスだよ。」



 私たちは思い思いに魔法に切りかかった。始めは思うようにいかなかったけど、さっきの葵の太刀筋を思い出しながら何度も剣を振った。コツが掴めたような気がする。


「虚斬っ!!」


 とうとう葵が虚ろを斬った。続いて私たちの剣も炎を切り裂いていく。果たして、私たちは炎の壁から脱出した。



<出てきた!>

<今どうなったの>

<魔法を斬った?>


<そんなのできるの?>

<これは画期的>

<やっぱリリィズ半端ねぇ>



 ようし!ここから反撃開始だよっ!


 





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