第37話 いずれその甘さが命取り
「どうしたんだ?そんな高いところに逃げて?
煙となんとかは高所が好きってホントだな。
グハハ!」
ガルスが高笑いする。
「ふん。煙は高い所に上るが、霧は低いところが好きなんだよ。
さらにそちらは風下だ。」
!
気付けば兄弟の周りにはいつの間にか霧が立ち込めていた。
「ぐっ!」
ファングが、少し遅れてガルスまで、地面に膝をつく。
<何?>
<何?>
<どうした?>
「毒か…。」
「気づくのが遅れたようだね。
もう僕の【毒の霧】からは逃れられないよ。」
兄弟は地面に蹲って吐しゃしている。もうまともに動けないらしい。勝負ありだ。
「さくら!あんた、顔が真っ青やで!」
「だ、大丈夫ですか?さくらさん??」
「足もふらついている!まさか毒を吸い込んだのか??」
「え?噓でしょ?
ちゃんと風向きを計算したし、そんなはずないよね?」
桐谷さんが慌てて尋ねてくる。
「ん。そういうわけじゃないから平気です。」
私は自分の顔色が悪いのを自覚していた。頭がぼーっとする。実は私、ある事実に気づいちゃって…。とても信じられない気持ちで目眩がする。
でも、それよりも今はガルス兄弟だ。このままじゃ死んじゃうよ!
「はい!そこまでー!」
私は精一杯の声を出して戦いを制止した。もういいでしょ?このままじゃ死んじゃうよ。私はガルス兄弟のところに走っていって【浄化】で毒の治療をする。和泉が私についてきてくれて、2人にヒールをかけた。
<治療しちゃうんだ>
<なんのための戦いだったの?>
<意味ねー>
<ちょっと甘いような>
<つまらん>
<その甘さがいずれお前たちの…>
「せっかく俺たちが追い詰めたのに、治しちゃうんだ。」
「でも、優しいね。ボクそういうの好きだなぁ。」
私はキッとお兄さんたちを睨んだ。
「こんなことして、もしも本当に死んじゃったらどうするつもりだったんですか?」
「それはしかたがないよ。
こいつらは君たちの写真を持ってるのに、知らないふりで近づいてきたんでしょ?
怪しいし、放っておいたら君たちが危ないって判断したんだ。」
優斗さんが少し苦い顔で答える。
「言っとくけど、正当防衛だからね。
それにアイスベアのアンデッドだって、きっとこいつらの罠に違いないよ。」
藤堂さんは落ち着いた口調で、私を諭すように言う。
「ま、さくらの気持ちもわかるで。
けど、お兄さんらはうちらを助けてくれたんやし。
必要な暴力やったんちゃうかな。」
<そもそもこの兄弟、何したんだっけ>
<写真持ってて怪しかったくらい?>
<殺し屋じゃないの?>
<それリリスちゃんが焦って口走っただけで…>
<確かに、殺し屋はないww>
<もしそうならカメラに顔映して間抜けすぎww>
<でもアンデッドはこいつらの罠なんでしょ?>
<それなら殺されてもしかたない>
<まず証拠を押さえないと>
「さくらちゃんが優しいのはわかった。
俺たちも大人げなかったよ。ごめんね。」
藤堂さんは主張をひっこめて、優しく謝ってくれた。
「そんな。藤堂さんが謝ることとちゃいますよぉ。」
「それよりさ、俺たちも怪我しちゃってるんだけど。
こいつらは治療してもらって、俺たちになにもないのはジェラシーだな。」
「あ、ごめんなさい!
ほな、うちの作ったポーションで…」
葵がお兄さんたちのところにかけよろうとした。
「待って!」
私が大きい声を出したのでみんなびっくりしてこっちを見た。
☆☆☆
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