第36話 調子に乗る恐ろしきクソ兄弟
なんでこうなっちゃったんだろう。お兄さんたちとガルス兄弟の戦いが始まってしまった。肉弾戦になるのは避けたいのか、お兄さんたちは距離をとって4人で固まっている。ガルス兄弟もその場を動こうとせず、相手の出方を窺っている。
「インフェルノ!」
出た!藤堂さん得意の極大炎魔法だ。これじゃ死人が出ちゃうんじゃない??
<対人戦でこれはヤバい>
<さすがに兄弟に同情>
<え?死んだ?>
煙が晴れて視界が開ける。え?ガルスはダメージを受けた素振りもなく仁王立ちしている。
「ぐはは。俺は炎系の攻撃に対する耐性は強いんだ。
加えてこの鎧は、【サラマンダーレザー】で作った特別性!
お前ら、見たところ炎攻撃頼りなんだろ?
俺たちにとったら抜群に相性の良い相手なんだよ!」
「くっ、くそっ!」
え?まさかお兄さんたちピンチ??
<マジか>
<相性の悪さは深刻>
<レベル差をひっくり返すことも普通にあるからな>
みんなが場の成り行きに困惑した次の瞬間、ガルスの背後から影が跳び出した。速い!ファングだ!ファングは目にも止まらない速さでジグザグに動き、ナイフを構えてお兄さんたちの中に飛び込んだ。
お兄さんたちも態勢を崩しながら必死で応戦する。1秒にも満たない交戦だったが、お互いの攻撃がかなりの数飛び交った。ファングはそのまま集団から跳びのけて、ガルスの元に戻る。
お兄さんたちの表情にもう余裕はない。
「インフェルノ!」
「フレイムバースト!」
お兄さんたちは、さっきアイスベアを倒したときと同じコンボを放つ。相手に炎耐性があるって知って、なおこの攻撃を選ぶのは、炎魔法がお兄さんたちの主武器なんだろう。
煙が晴れる。
やっぱりガルスがダメージを受けている気配はない。待って待って!どっちに怪我されても嫌だとは思ってたけど、お兄さんたちが負けるのは普通に困るよ。私たちどうしたらいいの?
この場にいるみんなは、ファングがガルスの後ろにいると考えていた。今まさにそこから跳び出して、お兄さんたちに向かって行くのだろうと。だけどファングはすでにお兄さんたちの後ろの岩陰にいた。
そこから跳び出し、お兄さんたちを奇襲する。
意表を突かれた4人は、隊列がグダグダになった。1人は尻もちをつき、1人は防具にナイフによる裂け目を入れられ、1人は腕にかすり傷を負い血を流した。ファングは深追いをしない。いいところで戦域から跳び出し、ガルスの元へ戻る。
お兄さんたちはすでに肩で息をしている。
ガルスは優位を悟って、ゆっくりとお兄さんたちに向かって歩を進める。ファングはその後ろを位置取りながらついて行く。距離が詰まればますます兄弟に有利だ。
<これやばくね?>
<ガルス兄弟強えええ>
<怖いよこの兄弟>
このままじゃお兄さんたちは負ける。だけど、まだ交戦したのは炎魔法の2人だけだ。残り2人の能力がわからないまま結果を決めつけるのは早計だと思う。
ちょうどその時、お兄さんたちがヒソヒソ相談し始めた。桐谷さんが、斜め前の大岩を指さしてなにか支持を出している。
兄弟が迫りくるところ、お兄さんたちは少し逃げるような格好で、その場をバラバラに離脱した。そして、それぞれが慎重に遠回りしながら、桐谷さんが指していた大岩の上に集合し直した。
「おい!クソ兄弟!
調子に乗るのはここまでだ!」
藤堂さんの声が響く。
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