第33話 ダンジョンの名探偵

「あなたたち誰??私たちに何の用なの?」


「俺の名前はガルス。こっちは弟のファングだ。

 申し訳ないが、お前さんたちのことなんて知らねえな。」


 大きいほうの男が答えた。

 もう1人も口を開く。


「通りがかりに困ってそうなパーティを見かけたから、声かけてやったのによ。

 助けはいるのかいらねえのか、どっちだ?」


 低く響く声だ。



<何?こいつら>

<知らねーけどなんかヤバいよ>

<だまされたら駄目だぞ!>



「あ、ごめんなさい。ありがとうございます。

 でも、助けは大丈夫かな…。」


「んだと?じゃあ、猫がどうなってもいいんだな?」


「ちょっと待ってや!

 あんたら、なんで猫がさらわれたって知ってるんや?」


「あ、ほんとだ!

 誰もセレーネが猫なんて言ってないのに…」



<お。名探偵>

<自分から罠にかかるスタイル>

<こいつら見た目通り頭が悪いぞ>



「ぐ、だ、たまたま見たんだよ。

 猫を抱えて跳ねていく猿をな!」


「それならどうして最初からそう言わなかったのですか?」


「お前たち、何者なんだ?」


 これは完全に怪しい。


「うるせえ!そんなこと言い争ってる場合じゃねえだろ?

 猫を取り返すのを手伝ってやるっていってんだ!」


「兄貴の言うとおりだ。

 手伝ってほしいのかほしくないのか、どっちなんだよ?」



<ごまかしてる?>

<ますます怪しい>

<てか、それだまされる奴いるか?>

 


 もし私たちが【エリア】が使えないなら、怪しくてもその目撃情報に頼りたいところだろうけどね。探し物にはちょっと自信がある。


「お、お気持ちだけで結構です!」


 不確かな情報は必要ない。私は魔力を放出し、エリアをできる限り広げた。セレーネを見つけるため、周囲の気配を探ってみる。





「え?この気配…囲まれてる!」


「本当だな!何だこれは?」


 私たちは慌てた。


 エリアで周囲を探って初めて気が付いたんだけど、私たちはいつの間にか無数の敵意に囲まれていた。


 敵意の正体が近づいてきて正体を表す。アイスベアだ!しかもただのアイスベアではない。さっきの猿と同じように目が青白く光っている。状況が上手く呑み込めない。


「アイスベアのアンデッドだ。それが15体だな。」


 ファングがニヤッと笑う。私たちはゾッとした。


「あなたたち、なにが目的なの?」


 慌ててガルスが口を開く。


「違う違う。俺たちの仕業じゃねえ。

 弟はただ現状確認しただけだ。」


「とにかく、生き残るのが先だ!

 こいつらを何とかするぞ!」


 弟のファングがアイスベアに突っ込んでいく。動きは悪くないが、ナイフでは攻撃が命まで届かない。ガルスはファングの加勢に走る。


 本当にこいつらとアイスベアは関係ないのかな??どうなってるのか、展開についていけない。でも、今は目の前の脅威に立ち向かうしかないな。


 私は、ガルス兄弟が戦っているのとは別のアイスベアに向かっていった。アイスベアが吠え、腕を搔き上げると氷のソードが地面を突き破って私を襲う。アイスベアの魔法だ。


 私は飛び上がり、アイスベアの肩口に飛び乗った。左手でアイスベアの耳を掴みながら、右手で木刀を振り上げる。柄の部分で眉間を撃った。アイスベアの目玉はグリンと裏返り、態勢が傾く。そこに助けに来た3人の太刀が入り、なんとか1頭を討伐した。


 アイスベアたちは、アンデットというわりには外傷もなく、腐臭も特にない。生体と見紛うほどにフレッシュな状態で、少しの疑いを持っていたんだけど、その頭部に触れることで理解できた。遺体になる間際の記憶が流れ込んできたからだ。


 

 こいつらは間違いなく、アンデットだ。


 

 だけど、それが確認できたところでどうにもならない。早くセレーネを探したいのに、アイスベアはまだまだいる。




「おーい!大丈夫かぁ?」



<誰の声だ?>

<また誰か来た>

<次は何だよ?>






☆☆☆


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