第32話 笑顔が野獣

 気を抜いちゃったせいか、私たちにも疲れが出たのかな。ポカポカした空間に、なんだか微睡んでしまっていた。すると、セレーネの毛繕いを始めていた猿が立ち上がった。この猿だけは目が青白く光っている。そして、私たちに何かを放り投げた。殺意が一切なかったため、私たちも何か冗談を見ているような感覚で反応が遅れた。


 最初は小さな小石みたいなものだったけど、きっと空間魔法系のアイテムだったんだと思う。空中で、その小さな小石から大量の液体が湧きだした。私たちはその液体を頭から被ってしまう。


「きゃあ。なにこれ?」


「この匂いは酒ちゃうか?」


「えぇぇぇ!髪の毛がお酒臭くなっちゃいます。」


「何をするんだ!」


 すると周りにいた、無垢な目をした猿たちが酒を目当てに私たちに近づいてきた。20匹くらいの猿が私たちの肢体に、身体に、群がってくる。


「な、なによ!こっちに来ないで。

 ちょ、足を舐めないでよ!あぁぁぁぁああん!」


「あっははははは!…あっ。

 あかんて、ホンマ。どこ舐めとんねん。っん…。」


「どこ触ってるんですか?

 もしかして酔っぱらってます?

 はぁん。そこ揉まないでください!んふぁあ…」


「ぅんっ♡くっ、不覚…

 いっそ殺せ!」 



<おぉ!>

<なんだこの展開は?>

<初めての種類の興奮…>


<これがくっころってやつか>

<猿とまぐわうのは流石にww>

<腰振ってるやつまでいて草>



「あぁぁん。もう!どうしようこれ?

 どこ舐めてんのよ。ふふぁあ、んん…」


「あっは、あん、あかん…

 あんたら、ひゃん、ええ加減にせな、はぁん♡」


「ちょっと、んふぁあぁぁ。

 腰振るのは違うでしょ!ほんとにひぃぃん…」


「んっ♡くっ!

 御免!!」



ビシッ ビシッ バシッ



「いい加減にしろ!

 峰打ちだが起きてはこれないだろう。」



 とうとうリリスが怒って、猿たちを気絶させてくれた。



 はあはあはあ…



「助かったぁ…。」


「なんやねん、いったい?」


「私たちにお酒をかけたお猿さん、目が青く光って怖かったですよ。」


「そういえば、その猿はどこだ?」







「っていうか、セレーネ!…セレーネがいない!」



 大変!セレーネがあの猿に連れ去られたみたい!私たちが油断しちゃってたせいで…。どうしよう??



<あの猿が抱いて連れて行ったぞ>

<あの状況でよくそんなとこ見てたな>

<俺、こっちの惨状に釘付けだった…>


<俺も>

<俺も>

<俺も>




 とにかく今はセレーネを探さないと!



「おーい!セレーネちゃーん!」


「セレーネちゃん、どこですかぁ?」




「誰か探しているのか?」



 不意に物陰から声がしてびっくりした。声のほうを振り返ると、大きな男の2人組が立っている。


 特に大きなほうは、黒髪が逆立ち、身体は毛深い。装備は鉄の爪と、なにやら黒い革の鎧かな。もう一人は白い短髪。上半身は裸で、筋肉粒々。手には不気味なナイフを持っている。ニヤッと笑うと、顔が野獣のように見える。



「困っているなら、俺たちが手を貸してやろうか?」



 ええ?誰??




 あ、怪しい…






☆☆☆


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