第31話 猿からバナナをカツアゲ

 剣聖の力ってホントにすごいんだな。改めて思い知らされる。初めてのDランクダンジョンだから、実は結構緊張してたんだけどね。全く苦労することなく私たちの快進撃は続いていく。



<ストーンシェルの甲羅ってこんな綺麗に斬れるの?しかも木刀で…>


<ただの亀が相手でもここまでは無理だろ>


<え?もう7階層?>


<スカイホークが話にならない?>


<てか、走るの速すぎない?>


<次、11階層だよな?>


<ファイアウルフの群れが瞬殺!>


<階段まで、ほとんど最短距離ww>


<俺が知っているダンジョン攻略と明らかに違うw>




 私たちは5時間足らずで17階層に辿り着いていた。


 この階層ではスティールロックっていう鋼鉄のゴリラ君や、フレックモンキーって言うヒョウ柄のお猿さんと何度か戦闘になった。彼らはレベル4のモンスターだけど、私たちの敵ではなかった。


 そのうちに、彼らはもう私たちと戦おうとしなくなった。


 アニマル系のモンスターは相手が格上だと悟ると、戦闘を避けようとする傾向にある。知能が高いほど顕著だという。彼らと出くわしても、こちらが敵意を向けない限りはむしろフレンドリーなんだ。


 フレックモンキーなんか、森の瑞々しい果実を私たちにプレゼントしてくれた。この場合はプレゼントというより上納っていうのかな?


「美味しそうな果物ね。ちょっとここらへんで休憩しましょうか。」


「そうですね。お茶も用意しましょう。」


「私は、もう少し大丈夫だぞ。」


「リリスは体育会系やなぁ。もっと余裕を持って気楽にいこうや。」


 私たちは走りっぱなしで、さすがに喉が渇いていた。無理せず少し休んでいこう。



<見たか?>

<フレックモンキーの卑屈な笑顔w>

<猿からバナナをカツアゲするリリィズw>


<こんなことあり得るの?>

<まるでボス猿の風格>

<さくらちゃんボス猿ww>



「もう!うるさいなぁ。

 誰がボス猿よ!」



 私たちはチャットを無視して、木陰でもぐもぐタイムだ。もちろん毒は警戒している。それにしてもこのバナナもリンゴも美味しいな。


 私たちが果物を受け取ったことで安心したのか、周りに少しずつフレックモンキーが集まってきた。彼らも警戒を解いてくつろいでいる。私たちと同じように果物を食べたり、幼い猿の兄弟は、追いかけっこをしながらじゃれ合い始めた。


 木漏れ日が、気持ちいい。


 お腹の膨れたセレーネは和泉の肩から飛び降りて、駆け回り始めた。猿たちと遊んでいる。そのうち猿の1匹がセレーネの毛繕いを始め、セレーネは気持ちよさそうに眠ってしまった。まさかダンジョンの中で、こんな牧歌的な風景に出くわすなんてね。


 今は真夏のはずなんだけど、そう言えばこのダンジョンは気候がいいな。まるで春の昼下がりみたいにポカポカしている。



<何この映像?ww>

<ここダンジョンだよな?>

<さすがにカルチャーショックww>



 私たちは、本当に油断していた。少し眠たいな、なんて昼寝でも始めるところだった。たくさんの猿たちの中に、目つきのおかしい1匹が混じっていることに気づかなかったんだ。





 

☆☆☆


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