第25話 大人の事情

 §



「市長、あの子たちを失格にするって正気ですか?」


「コンプライアンスというものがあるからね。事情はわかるが、リリィズさんはパーティの同伴義務違反で、冒険者規約にも今回のイベントルールにも違反している。残念だが仕方がないよ、副市長。」


「いえ、冒険者規約については、今回は人命に関わる事態でしたので特例条項にあたり、違反ではありません。イベントルールは細かい例外まで想定できていませんが、それはルール側の不備だともいえます。」


「行政にも経営感覚が必要なんだよ。200万円は大金だ。」


「確かにそうです。しかし経営感覚と言いう意味でいえば、今回のイベント。モンスターの間引きをイベントで解決するという流行りの手法で、経費は大幅に節約できています。参加者も多く集まり、経済効果もありましたしね。」


「しかしイメージというものがある。優勝賞金は市民の血税から出てるんだよ。グレーな優勝者に授与するなどあり得ない。私たち【一新の会】は市民からの絶大な人気の上に成り立っているんだ。」


「市長のお立場もわかります。しかし、今回は行政側の不手際で、冒険者に複数の死傷者を出してもおかしくなかった。それを救われたんです。しかも、結果的に討伐されたモンスターのランクを見れば、本来かかるべき経費は実際の数倍でした。」



 市長のお守も嫌になる。ちょっと考えたら小学生でもわかるだろう。上っ面の言葉でしか考えられないパフォーマンス集団め。まあ、うちのは私の話に聞く耳を持つだけマシなんだが。


「じゃあ、今回はリリィズの優勝を認める代わりに、私たち理事者のボーナスを10%カットするってことにするか。」


「いえ市長、その必要はないでしょう。その…ご自慢の鼻血を出す改革ですが、市民もいつまでも馬鹿ではありません。多くのものは何の意味もないことに気づき始めています。」



 馬鹿馬鹿しい。いくら自分の給料を減らしても、あんたはそのぶんを取り戻す方法がいくらでもあるだろう。損をするのは付き合わされる私たち幹部だけなんだ。この裏金野郎!いい加減にしてくれ。


「じゃあ具体的にどのようにすればいい?」


「はい。ルールに不備があったことを潔く謝罪し、優勝者をリリィズに認めます。そこに大きなスポットを当てて、冒険者を危険にさらしてしまった落ち度についてはのらりくらりかわしましょう。」


「うん。それならいっそリリィズにはヒーローになってもらうか。多くの冒険者を救ったJKだ。メディアは来てるのか?」


「はい。2社ほど、すでに嗅ぎつけて来てますよ。」


「今日のところは君たちが対応しなさい。市はリリィズのルール違反を重く受け止めている、という姿勢で。リリィズの優勝はく奪を匂わせてな。」


「なるほど。それは視聴者の反感を買うでしょうね。そこで、市長が一喝し、リリィズの優勝を認める流れですか。」


「そういうことだ。今日のうちに、<優勝はリリィズであるべきだ>って世論を誘導するよう、ネット戦略課に指示を出しておきなさい。」


「さすが市長、策士ですね。」


「ファンを乗りこなすのも大変なんだよ。」 


「いえ。素晴らしい見識に感服しました。」




はぁ。



 あんたらの信者なんざ、今更何やっても大丈夫だよ。自分の見る目のなさを認めたくないから、引き返すこともできず、ダラダラあんたらを支持し続けてるだけなんだから。




「もしもし。副市長だ。メディア対応の件とネット戦略課のほう、事前の指示通りだと伝えなさい。ネット戦略課はまた大幅な残業になる。不満を溜めないように、しっかりケアしておいてくれ。」


 


 §



 私たちの知らないところで、大人の事情により、私たちの優勝が決まったみたい。







☆☆☆


ご愛読ありがとうございます。

どうか、フォローや★評価など、よろしくお願いします。


★評価のつけ方


①評価したい作品の目次ページに戻る。

②レビューのところに「⊕☆☆☆」←こんなのがあるので⊕を押して評価する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る