第9話 剣聖さんですから♡

 あわよくばと思ったけど、あれから宝箱は1つも見つけていない。やっぱりこのダンジョンで7つとも揃うなんてことはないみたい。そりゃそうだよね。


 ダンジョンは7階層から、まただだっ広い芝生公園のような空間に戻った。フロアの面積はずいぶん大きくなっているみたいだけど、迷路じゃないから階段まで一直線に進める。


赤「あれ?なにか落ちてる?」


 芝生の上に何かを見つけ、私たちは立ち止まった。見ると、木でできた…宝箱かな?さっき見た素敵な金の宝箱とは違い、拙い手作りのような木箱だった。剣聖の機敏が、この木箱から血の匂いを嗅ぎとった。


 瞬間、私たちはとっさに移動する。私たちの居場所が3mずれた。少し遅れて、私たちが今いた場所に、


ザス   ザス ザス


 矢が飛んできて地面を突き刺した。



<何?>

<なに>

<消えた>


<え?>

<え?>

<矢?>



 ゴブリンアーチャーだ。モンスターが罠をはってくるなんて驚きだけど、私たちの剣聖に比べてあまりにも手合い違いだ。



<後ろから飛んできた矢を躱したよな?>

<早すぎて、動いたのわからなかった>


<なんで矢に気づけたの?>

<後ろに目がついてる?>

<え?達人さんですか>



 達人さんなら「矢の気配を感じた」って言うのかな?私たちはむしろ、矢が放たれる前。ゴブリンアーチャーが弓をひいて、私たちに狙いをつけている様子まで手に取るように視えてたけどね。


 剣聖さんですから♡


 私がチャットの文字に目を這わせて、のんきにそんなことを考えていたのはリリスに先をこされたからだ。矢を避けた瞬間、リリスはゴブリンアーチャーの目の前にいた。矢を避けるスピードの何倍も速く動いて。


 縮地という。魔力を使った剣聖の業だ。自分の間合い程度の距離だけど、瞬間移動を思わせるくらいの早さで動ける。相手の懐に飛び込むのに便利だ。


 事実、いつの間にか目の前に現れたリリアに、ゴブリンアーチャーは身体が2つに割れるまで気づけなかった。



<あ、あっち!>

<ゴブリンアーチャー!>

<が、もう斬られてる…>



 この階層にも私たちの敵はいなさそうだね。


 私たちはまた走り出した。この階層にはゴブリンアーチャーがたくさんいた。でも、その後は奇襲を受けることもなく、むしろこちらから飛び掛かっては切り伏せてまわった。


 このダンジョンだって、弱いモンスターしかいないわけじゃない。だけど、出現するモンスターの強さの変化は緩やかだ。変化するときはこの階層のように、環境も大きく変わるなど、わかりやすい。


 私たちは、そんなダンジョンの特徴を噛みしめながら下り階段に辿り着いた。




 とうとう8階層。



 ここも基本的には広い芝生公園だけれども、たくさんの木が目に付く。松やクヌギがあちこちに生えている、そんな階層だった。






☆☆☆


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