第2話 〇イーダの登録所

 2人の兵士が僕の進路(王の間を降りる階段)をはばむ。どうやら王様から500ゼニー(やっすい武器防具と回復道具を少し揃えられる価格)を受け取りその対価として魔王ホロボスの手下共を滅ぼす『世界を救う旅』に出ないことには僕の人生は詰みのようだ。


 僕はげんなりしながら王の元へ戻った。


王「よくぞきた。それでこそ真の勇者。わしからのとっておきの餞別せんべつじゃ。旅の役にたつであろう。500ゼニーを受け取るがよい。」


僕「僕、これから四天王を倒しにいく勇者なんだよね??せめて城の兵士より立派な武器防具を揃えられる金額にしてくれないかな」


王「…なんじゃと?」


 兵士たちが一斉に僕を取り囲んだ。


僕「いえ。500ゼニー感謝致します。ありがたく頂戴ちょうだいし、大切に大切に使わせていただきます。」


 僕は城を降り武器屋へ…向かわなかった。

 やっぱり旅に出るなんて嫌だ。500ゼニーはこっそり貯金するとして、母さんにもう一度ごねてみよう。


母「おかえりアルフ。長旅お疲れ様。お仲間もいつでも一緒にアルフの部屋で休んでいいのよ。」


 どうやら僕はすでに旅に出ていることになっているらしい。母さんの目には一体何が映っているんだ。

 そして母さんは僕の不純異性交際にも賛同しているようだ。え?違うって?

 でもなんか俄然がぜんやる気が出てきた。

 うん、旅にはいかなくても、とりあえずかわいこちゃんをパーティに加えよう。町の隅に、冒険者の登録所があったな。



◆◆◆


―ヌイーダの登録所―


ヌイーダ「うふっ❤アルフ…ついに、あなたもそんなお年頃になったのね…私、あなたがこの店に来てくれる日を、ずっと楽しみにしていたの…さぁ、早くこっちへいらして…」


僕(こっ…これは…もしや…)


ヌイーダ「私の自慢の上半身…見たい??」


僕「はっ…はいっ……!!!」



 ヌイーダは奥の暗い部屋に僕を案内した。

 広い部屋の先には水面が見える。そこにはマットが敷かれており、ヌイーダはそっと体をおおっていたローブを脱いだ。










ヌイーダ「ほら…見て…この…………大・胸・筋っ!!!!このプール付きトレーニングジムで、しましょ❤私と一緒に、マッスル・トレーニング!!!!」



 ヌイーダは数回のマッスル・ポージングを決めた後、僕の身体にぱふぱふと黒光りする粉をまぶしていった。





◆◆◆



 すっかり黒光りインチキ・マッスルになった僕は冒険者登録のカウンターに戻る。


ヌイーダ「さぁ、これであなたも冒険者登録ができるわね。あなたの職業は…そうね、『勇者』しかないわね。まだ半人前だけど。」


僕「登録した瞬間に売り切れるだろ。ってか、勇者の僕が登録されちゃうの?僕がパーティを選ぶんじゃないのかよ。」


ヌイーダ「残念ながらあなたはまだ未成年だから、冒険には保護者役の人が必要。つまり、あなたが仲間を選ぶんじゃなくて、仲間があなたを選ぶの。」


僕「保護者…??なんか期待感ゼロの冒険だな。せめて魅力的なオネエサン(ヌイーダは除く)と一緒に冒険したい。」


ヌイーダ「あなたのステータスはまだまだひよっこ。レベル1ね。勇者だからHPと力はそこそこ高め。性格は…」


僕「誠実・真面目・律儀。そして…父親譲りの勇猛果敢ゆうもうかかんでお願いします。」


ヌイーダ「性格は『嘘つき』…と。」


僕「ヌイーダ姉様、大変失礼致しました。貴方の様な力強くお美しい方に是非旅のお力添えを頂きたい。」


ヌイーダ「『おちょうしもの』に変更しとくわね。いずれにせよ、私は旅には出られないの。だって、強すぎてチートだも~ん。」


僕「いいじゃないか。よくあるパターンだろ。ヒロインが最強、みたいな」


ヌイーダ「えっ!?ヒ…ヒロイン…!!??ちょっと、アルフったら…だめじゃない、オネエサンをからかったら。うふ。いやん。もう。また、奥の部屋…行く…??」



僕「いや、ただマッスル自慢されるだけだろ。行かないよ。」





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