第3話 五賢人評議会


 もう年の九番目の月だというのに、残暑が厳しい。九月はもう、秋ではなく夏なのではないかと、ナザリアは思う。このラッツァリオ王国には四季があるのだが、年々気温が厚くなっていく。だが冬は大雪なのだから、なんとも言えない。


 本日は、五賢人評議会が招集されている。

 というのは、昨年、不老長寿魔術でも太刀打ちできない病気で亡くなったラクタ卿の後任の魔女、新しい五賢人が初お目見えするからである。病気だったので、葬儀は内々に済まされたとのことだ。


 ナザリアは、別になりたくて五賢人になったわけではないので、評議会への出席も、面倒な責務の一つだなと考えている。問題なさそうな場合は、欠席することも多い。それでも新しい五賢人の顔には興味があったので、本日はゆったりと塔の回廊を歩き、最上階にあるラクラの間へと訪れた。ラクラの間で、五賢人評議会は行われる。


 重い扉を押し開いてナザリアが入室すると、既にナザリア以外の三人は来ていた。

 新人は一時間後に来ると決まっていたので、ナザリアは先に三人を見ながら、自分の席へと座った。


「ごきげんよう、ナザリア卿」


 声をかけてきたのは、評議会議長のユリズ卿だった。ユリズ卿は、サイドの長い青い髪をしていて、どちらかというと控えめだ。外見は十代後半くらいである。ここにいる全員が十代後半くらいの外見年齢だ。


「ごきげんよう」


 挨拶を返してから、ナザリアは前方の席を見る。すると肉厚の唇の両端を持ち上げて、エリザベータ卿が妖艶に笑った。エリザベータ卿は、ナザリアを見ると、腕を組む。


「良いご身分ですわね、また遅刻」


 エリザベータ卿は、なにかとナザリアに嫌味を放つ。表面上は冗談っぽく述べる。だが、心の底からエリザベータ卿は、ナザリアが嫌いらしい。その理由を、ナザリアは知らない。興味が無いので追求したことが無いからだ。


 ナザリアは、エリザベータ卿の言葉を無視した。前髪を分けている彼女は、波打つ銀色いロングヘアをしている。胸元が大きく開いたドレスの色は黒で、目は深い青色だ。


「まぁまぁ、エリザベータ卿」


 そう笑っていなしたのは、エリザベータ卿の隣に座っていたルイゼ卿である。ルイゼ卿は、赤い髪をツインテールにしていて、いつも余裕ある表情でへらへらと笑っている。この場にいる中で一番明るい。


「新人が来るまであと十五分しかありませんが、十分前には来ると予測されるので、打ち合わせをしている余裕はないと判断します」


 無表情で淡々とユリズ卿が述べた。彼女の場合は、事実を述べているだけなので、嫌味には聞こえない。


 こうしてナザリアも含めて四人の視線が扉に向いた直後、ゆっくりとそれが二つに開いた。コツコツとヒールの音を響かせて、静かに新しい五賢人の一人が入室してくる。


 ラクラの間には五つの扉があり、自分の席の前に、自分の庭から直通の扉がある形だ。

 その空いていた席の前で立ち止まった人物が、ゆっくりと顔を上げる。


 そちらを見ていたナザリアは、既視感を抱いた。だが、何処で見たのかは思い出せない。

 すると相手もナザリアをまっすぐに見た。アイスブルートパーズのような色の瞳がとても綺麗だなと考えつつ、緩やかに波打つ金髪を見る。この場にいる全員が整って秀でた容姿をしているが、彼女もまたそれは同じだった。


「レイナと申します。お見知りおき下さいませ」


 唇の両端を持ち上げて、レイナが綺麗に笑った。名前にも聞き覚えがある気がしたが、ナザリアはやはり思い出せなかったので、別に良いかと考える。長く生きていると、こういうことはよくあるからだ。必要があれば思い出せるだろう。


「おかけ下さい」


 ユリズ卿がそう言うと、礼をしてからレイナが着席した。席順は、ユリズ・エリザベータ・ルイゼ・レイナ・ナザリアで、ナザリアの横がユリズで、円卓だ。


「本日は顔合わせですので、レイナ卿はなにか疑問があればそれを。他の皆様は、レイナ卿に質問があればそちらを。以後は歓談の場となります」


 ユリズ卿はそう言ってから、杖を動かした。テーブルの上に、ティーポットや軽食などが並ぶ。特に聞きたいことも無かったし、顔も確認したので、ナザリアはサンドイッチを食べることに決める。


 こうして、本日の五賢人評議会が正式に始まった。



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