この世界の片隅に咲く物語り達

胡蝶蘭

雨降る軒下のふたり

 仕事が早く終わった昼下がり、マコトはチェーン店で遅めの昼食を済ませて店を出ようとすると外は雨が降っていた。

走ればそんなに濡れずにコンビニへ行ける距離だが満腹のマコトにはそれが少し億劫だった。店の軒下にずれて雨が上がる時間を調べようとスマホを取り出して確認していると同じように店から出てきた人がマコトの横に並ぶ。


『…雨ですね。』


その人は曇天の空を見上げてつぶやいた。

独り言か自分に言ったのかわからなかったがマコトも言った。


「雨ですね。」


腕時計をちらりと見るとその人はマコトに視線を移した。


『傘はありますか?』

「いえ、持ち歩いていないんです。」


見ればわかるでしょ、とマコトは内心思ったが折り畳み傘の事を言っているのだろうかと思い首を横に振った。

その人は少し考えた後また空を見て言った。


『じゃあ…


マコトはその人の言葉に目を見開いた後小さく笑った。


マコトに自分の傘を差しだすのか、相合傘をしてくれるのか、

それとも二人でずぶ濡れになるのか。

雨が上がるまで二人でおしゃべるをして待つのか。


それはお店の軒下だけが知っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この世界の片隅に咲く物語り達 胡蝶蘭 @kochou0ran

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ