第4話一刻とユートピリカ

 取り敢えず状況を整理しよう。今僕らが立っている場所は滝の流れる崖の上。10m後ずされば真っ逆さま。

左右は雑草が無作為に伸びていて、動きわまるのは大変だ。

そして目の前。ウルフコングとかいう奴が荒っぽく呼吸しながらこちらを虎視眈々と狙ってる。

一方こちらはユートピリカという少女が弓を引いて威嚇をしている。

僕は―――棒立ち。

なぜなら、どうしたらいいか分からないから。

大体の作品なら、

「チートスキルでワンパン」―――

とか

「高ステータスで圧倒」―――

みたいなのを見せつけて来るけど、この世界にステータスの概念があるかは不明だし、僕の重力園はチートって程でもないと思う。


本来なら今すぐに逃げ出したい。しかし、隣にはユウちゃん(に似た少女)がいる。

例え別人でも、推しを支えるってのは我々cuticlistener《キューティクリスナー》の義務ではないか。


何だかやる気が出てきた。推し(に似た少女)の目の前でかっこ悪い所は見せられんッ!


そういえばあの時の木の実を何個か拝借してきたんだったっけか。これを投げて上手いこと重力をかけれれば結構ダメージ出るのでは?


…ものは試しだ。


「ユウちゃんっ!今から僕が攻撃をする!その攻撃に怯んだ隙に弓を急所に放ってほしい!」


「オッケー了解!しっかり狙うよ!」


「―――現役大学生の肩の力見せつけてやる!」


僕はウルフコングの頭上を目掛けて思いっきり木の実を投げた。


横に居たユートピリカは「えっ、それだけ?」みたいな戸惑いの隠せない顔をしていた。

まぁ見ていなさい。我が重力園の力を。


ドスッ!


―――ん?


木の実は僕の手から放して上に凸の二次関数の様な軌道を描きながら目の前に落下した。結果として、木の実の周りに小さなくぼみを作るだけに終わった。


――――。


その空間に信じられない静寂が走った。ユートピリカも本気の「は?」の表情を浮かべ弓を戻した。


―――し、失敗したーっ!そうだった!に重力がかかるんだった!つまり、重力をかけた物は投てきできないのか!


恐る恐るユートピリカの方を見た。

あの顔…完全に戸惑ってるな…


「はっ…!避けて!」


ユートピリカの掛け声と共に、ウルフコングが腕をこちらに向けて振り回してきた。

広範囲かつ高火力。腕に刃物もついてないのに、風圧で近くの草花を薙ぎ払った。


僕はユートピリカに手を引かれ、何とか避けることに成功した。

攻撃を始めたウルフコングは興奮状態になったのか、さっきよりも動きが活発になっている。

目を合わせたら、確実に襲ってくるだろう。


そして、今戦うのは危険だからと、ユートピリカと共に近にあった岩陰に身を潜めることにした。


「君はやっぱり後ろにいて。私が前線を張るから。」


何だかさっきと口調が違う様な…やっぱり僕に失望したのか?


「…というか、弓で前線出るの!?」


「ううん。弓は一旦しまう。この…剣を使って前に出る。」


さっきまで弓を握っていたのに、一瞬にして剣に変わった?どういうことだ?


「それ、どうやって―――」


あれ?ユウちゃん?って、居ない!?まさか、もうアイツに突っ込んだのか。かなり元気な子だな…原作だと天然キャラなのにー…。

ま、これはこれで…!アリっ!


――――って、そんな事言ってる場合じゃないだろ!

僕は岩陰からそっとウルフコングの方を覗く。

そいつは、既にユートピリカとやりあっていた。


ウルフコングの腕に比べて何倍も細く見える剣一本で懸命に立ち向かう。


剣術は素人だけど、何となく、何となくだけどユウちゃん、苦手なのか?剣…


「っ―――!」


剛腕を剣で防ぎきれずに弾かれた体を地面に転がす。転がった先は崖の傍。もう一回転していれば真下に落ちていた。


ウルフコングはすかさず追撃しようとユートピリカへ駆ける。勢いよく腕で叩き潰すのだろう。

大ダメージを負い、すぐには立ち上がれない。腕で潰されることを彼女は覚悟した。

その時、


「―――ォオ!?」


ウルフコングが大きく体制を崩した。足に何かがひっかかった様だ。


―――あれってもしかして木の実の落ちた所じゃないか…?あいつ、僕の作ったくぼみに引っかかったんだ!


ウルフコングはユートピリカの真ん前に、顔と地面を衝突させた。


「ち、チャンスだ!ユウちゃん!そいつに攻撃を仕掛けて!」


「も、もしかしてそこを計算してたりした?」


「うっ…それは秘密で!」


「何でもいいや!食らえっ、私の剣―――」


その時、グラリ、とユートピリカの立つ地面が揺れた。


「まずい!その崖、崩れるぞ!」


「えっ―――」


声を上げた途端、一刻の言った通り崖が崩れた。ユートピリカは不意を突かれて為す術なく落ちていった。



 まずい、ユウちゃんを助けないと…

どうすれば、、―――あ。

あった…ユウちゃんを助ける方法―――っ!


思いついた途端、僕はユウちゃんの落ちた場所に躊躇いもなく飛び込んだ。自信は…あまりないけど、方法はこれしか無かった。


「えっ、君も落ちてきちゃったの!?」


「うん!君を助ける為にね!」


懸命にユウちゃんへ手を伸ばした。

するとパシッ、とユートピリカは手を掴んでくれた。

よし!―――成功してくれ、僕の重力園ッ!



ユートピリカの体が河川に直撃する瞬間、

落下がピタッと止まった。ユートピリカの背中を丸めていたからこそ防げた。まさに紙一重。


「―――えっ?」


成功…した?自分自身の重力を緩和しながら、手に触れたものの重力操作も可能だったんだ…


「今、君にかかっている重力を緩和した。…出来るかは分からなかったけど…出来て良かった!」


「え、何それ凄っ!流石バベルの挑戦者!私のライバル!」


「ば、バベ…?それって―――」


「ねぇ!このまま上昇することってできる?さすがにずっとこの体制はキツイかなー。」


「あっ、ごめん。なら一旦立ち上がろう。」


ユウちゃんの体制をしっかり元通りにしてから、重力園を解除した。そしてもう一度ユウちゃんの手を握った。

重力操作をして、一蹴りで崖を登れるように。


「じゃ、行くよ!せーの、それっ!」


同時に足を踏み込み地面を蹴り上げた。

すると―――


「うあああああっ!た、高い高い!高いってッ!」


「ごめーん!重力緩和しすぎたかもーっ!」


―――ウルフコングが起き上がってる…頭上から見ると案外大したことなさそうだな。

あっそうだ。いいこと思いついた…


「ユウちゃん、僕このままあいつにトドメをさしてくる!」


「え?」


ユウちゃんごめん!手、放す!1分くらいならその重力は保存されるから急降下はしないはず!


「ちょ、ちょ待っ、う、うわあああああ!!―――って、降下遅っっそ!」


多分この辺かな?えっと確か、腕はこう引いて、片足曲げて、…こんな感じかな?

ポージングバッチリ!


そしたら後は―――自分の重力を最大にして…!


急降下ーーーーーッ!!!


「ウルフコング食らえ!僕のライダーキック!その名も、『トモちゃん大好き!これが僕の愛の重さクラーーーシュッッ』!!!」


「―――名前長っ。」



―――僕の必殺技がひとつ、完成した。

ウルフコングの顔に突撃し、完全に押し潰すことができた。


異世界初戦闘は、ユートピリカと共に無事勝利を収めた。


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学園バベル 将金 偽宮 @dummy_palace

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