18.

         *



 金髪のボブヘア、あの見下すような青い眼、肌の白さを強調する赤い唇。

 蠍と呼ばれるには美しすぎる姿。

 

 最初見た時は六つくらいで、髪も肩まで伸びていて、女の子かと思った。

 そんな子供が、いつしか歴代の訓練生の中でも一番の成績を残し、精鋭部隊である「六匹の猟犬シェスゴニウス」に選抜された。

 

 『六匹の猟犬』

 

 リエハラシアの古語から「狩人」と「六」と「犬」を繋げて作った造語。単語の意味だけを繋げれば「六匹の猟犬」と表せる。

 初代メンバーが六人だったから「六匹」となっているだけで、メンバー数が二桁になったり、六人以下にもなった。

 自分が居た頃、あの日あの時は、その名前通り、六人体制だった。

 当時のメンバーで一番キャリアが長かったのは、諜報担当である赤毛の男、コードネームは「狐」。

 その次に、狙撃手スナイパーの自分。

 そして最後に入ってきたのが、一番若くて近接戦闘にずば抜けた適性を持っていた「蠍」。


 コードネームは「犬」に因んだ名前かと思いきや、そうではないから、やはり上層部のネーミングセンスはわからない。

 しかし、犬に因んだ名前になるくらいなら、まだ「狐」だの「蠍」の方がマシだろうとは思う。


 蠍は、その容姿の美しさから女だと思っていた者は多かったし、男だとわかっても人気ぶりは変わらなかった。いわばアイドル的な存在だった。

 そして同時に、過剰とも言える敵への攻撃の執拗さは、周りを萎縮させ、その攻撃の徹底ぶりは上層部にとても評価された。


 だが「六匹の猟犬」に蠍が加入した当時は、揉めに揉めた。

 蠍と狐は相性が悪かった。

 この二人は長年、お互いに存在を忌み嫌っている同士だった。

 放っておけば殺し合いになるだろう、と誰もが危惧するくらいに。


 チームリーダーを任されていた狐は蠍の加入を最後まで拒み、上層部が蠍を加入させると決定した際に、とうとうリーダーを降りた。

 それでもチームに残ったのは、上層部のトップから強く慰留されたからだ。


 誰とでも上手くやるように見せて、実は自分の主張を相手に認めさせて有利に事を進めるのが狐の性分なので、納得出来ない指示には徹底的に逆らう。


 上層部のお気に入りの蠍と違って、狐はその性格も災いして好かれなかったらしい。かく言う自分も狐が嫌いだが、今日に至るまで腐れ縁が続いている。


 好き嫌いは別にして、狐の情報収集能力と分析力はいつも頼りになるのだ。仕事は一分の隙もなくやる。


 その狐のもとへ、蠍が真っ先に向かったのは、自分に繋がる情報が欲しいからだろう。


 蠍は必ず現れる。フチノベ ミチルの監視をしながら、蠍が近づいてくる足音にも耳を澄まさなければならない。


 平和な国は素晴らしい。きな臭い人間が生きていくには、困難が多すぎるが。


 

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