7.
*
不幸中の幸いで死体から剥ぐまでもなく、自分なら着ないだろう柄とデザインのニットと、ジャストサイズのボトムスを用意できた。
それに着替え、着慣れた戦闘服を瓦礫の山の中に押し込める。
もう一つの収穫物であるオレンジ色のダウンジャケットを片手に、車に戻る。
「“すごい柄とデザインだ”」
先に助手席へ乗り込んで、こちらが着替え終わるのを待っていた女が、自分の姿を見て開口一番に言う。
うっすら面白がっているのが透けて見えて、腹が立つ。
「“言いたいことはわかるが黙れ”」
ガソリンの節約のためにエアコンを消している車内は寒い。だが女は寒がる素振りもなく、平然としている。
「“これはお前に”」
ダウンジャケットを女に渡すと、ひどくびっくりした様子で受け取る。
「“スーツじゃ寒いだろ”」
「“そう、ですね”」
そう言いながらも、羽織りはしなかった。
「“寒いって思う暇がなかった”」
独り言なのだろうと思うが、わざわざ英語で言うあたり、独り言ではないのかもしれないと思った。どう返してやるべきか、わからない。
エンジンをかけ、溜息をついてからハンドルを握ると、隣からすっと掌が伸びてくる。
「“お礼にどうぞ”」
掌にあるのは、小さな四角形の包みの何か。ポップな柄と文字が並んでいる。
「“何だ”」
「“チョコレート。毒なんか入ってないから大丈夫です”」
欲しくもなかったが、受け取ってやった方がいいのはわかっていたので、ダッシュボードに置いた。
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