Track 004 CHEERFUL, GOOD FELON
満員に近かったフロアから、いったん半数以上の客が
〈
その数を増していく〈
その光景を眺めていたいがため、フロアの片隅、間に合わせの灰皿の隣で、つい、余計な二本目の煙草に火を
何とも不思議なものを見る思いで、一連の流れを目にしていた。「で、自分のところのファンが煙草を吸うのを邪魔してまで、ぼくからまた一本、煙草を
三條が何気なく上着のポケットから取り出した煙草の箱は、バニラの方ではなくて、ぼくがまさに今吸っている銘柄のそれだったので、いささか面食らった。買って間もないのか、まだ封は切られていない。「こいつは教えておいてやる。筋を通す時ってのは、きっちり最後までやンだよ。
風変わりな人好きで、律儀で、それは三條なのだと表す他はなくて。「なんとなく、少しだけね、三條サンのことを好きなフロアにいる誰ひとり、ここに来ないのがわかった気がするよ。人気者なんだな。」ぼくは友好を採択したのだが、比して三條は素直さによる辛口だった。「俺からすりゃあ、おまえの人気がなさすぎるってことしか伝わってこねェぞ。誰かひとりくらい、来てもいいだろうによ、ここに。」ぼくのファンは、度胸と胆力の塊みたいなところがあるから、こそこそ一服の隙を狙うなんて真似、しないだろうな。
ぼくは三條の煙草に呆れたが、三條も事の
そうこう思っていたら、ぼくにPメールが届いた。八汐からだった。一通目は、『オウカ アキホ マタケンカ』で、二通目は、『イチタニサンノオンガク ダメニスルナト』さらに、『セキニンオシツケアイ バカミタイ』なのだそうだ。そこに割り入る勇気はなくて、ぼくは
平和の限りだとは言えた。「こうしていると、三條サン、まるでちっとも、ロックスターじゃないな。」結局、三條は
三條はおとなしく一本渡したが、「ちなみにこれ、お高級だからな、全然、等価交換じゃねェからな。」言いつつも、満足げではあった。「俺は俺だよ。それにおまえ、いざ
しかしまあ、ぼくが共演者と馴れ合おうとは。
ぼくはどうにも、愉快に思うのを抑えられなかった。「集団自殺に大量殺人? ああ、今夜ってそういうイベントなんだ?」ぼくは面白みにあるままでも、三條はにわかに
ぼくの方から持ちかける形になった。「どうも、楽屋に戻るとぼくはまた巻き込まれるらしくてね、だから帰れないんだけど、ずっとここにいたら、三条サンのところのファンが、いつまでも灰皿が使えないだろう。煙草、等価交換じゃなかったんなら、缶コーヒーぐらい奢らせてくれって話だよ。」月の表側で餅をつくことをためらわない気分のままで誘えば、三條は嫌がる素振りは加えても、おそらく快く応じた。「やめろって。煙草一本の差分だぞ。いくらなんでも、缶コーヒーじゃ釣りが酷い。あとおまえ、万民全てに対してコーヒーで片が付くと思うなよ。ま、奢られてやるさ。オレンジジュースな。」
無謀と勇敢の
ぼくらの難破船はついに成った。何らの欠けるところのないカタチで。あとは
終わりなき旅路など
そのたった一度きりに。
ライヴ。
今夜、どのような深みの
「ようこそ。メンバー紹介なんてするものか、あたしたちは〈略奪者たち〉っていう、ひとつの、ただの不幸なイキモノだ。あんたらもね。まさか、シアワセなやつなんて、ここにいないだろうね。そうだろう、不幸なイキモノが、さらにもっと不幸になるために、貪るために今夜があるんだろうが。好きなだけ喰らえよ。あたしたちも、優しくはしてやらない。」
曲順は章帆による決定で、優しさと
わざわざ痛いところに、遠慮無く叩きつけてやりたいのだ。
かわいらしい伝説の一部始終、すったもんだだった
ちゃんと聞いてみたいだろう?
だから、央歌は宣告する。
「不幸なミナサン、もう手遅れだ。一曲目、〈SO LONG, MAGGIE〉――」
八汐がバンドに加わる絶対の理由となった曲、それはステージに飛び入った際の騒動と、その後の凄絶な、
少しばかり、
変則的な曲の構成、
これまで、その四小節では、ぼくが
おまえのものだ。
薙ぎ尽くせ。その酷薄と
――この
――この
略奪を望め。
ぼくから八汐に譲り渡したソロの四小節は、もはやすっかりとそれに相応しく、そのギターは遙か高みより注ぐ圧倒的な重圧として、
さあ、死んでしまおうか。
見かねて八汐が悠々と、
そしてその先に待つ、多数の略奪者へ辿り着く
どうせ喰らわせてやるのなら、いっそ全てをくれてやれよ。
今ここに、
さあ、これからだろう。
逆順こそが正しい。
奪え。向こう側に
こちらが喰らわせてやった以上に、何もかも、その命ごと、全てを。
奪えよ。
どうせあいつらは、そうなったって、また喰らう。
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