Track 005 WHAT A GOOD MELODY
ひとつ、わからされたというのは。
なにものでもない曲で、この
ぼくが書いたものであるから。
天性の曲であるからこそ、この暴威と暴虐は成り立つ。当たり前じゃないか、壊せるものが多ければ多いほど、その余地があればあるほど、
まったく、余計なところで思い知るじゃないか。こうして
血を求めるなら、心臓を潰せばいいだろう。
いくつ心臓があれば足りるか、わからないな。これでは。
明らかな破壊、才の
ぼくの曲であることを失わぬままに、父は真に
淀むこと
ぼくの曲から、ぼくが消える。
裁きにも似ているな。
愚かなぼくが待ちわびたはずの。
執行だ。これは。
今まさに、消されている。
もっと奥。
命を直接に潰す。
そういうことを、してくれているか。
ぼくは
こうか。
こうだろう。
おまえの願いとは、こうだろう。
この俺に願ってしまったんだろう。
戦え、と。
本気で、と。
痛いと思わせてやれたらよかったな。
苦しいと思わせてやれたらよかったな。
なあ、俺は手を抜いてはやらない。
いいのか。
痛ければ刃向かえたか。
苦しければ抵抗したか。
このままでいいのか。
お前の願いは、そうなのか。
そうさ、おまえは最初から、不幸なやり方しか知らない。
おまえが望んだから、弾いてるんだ。
俺のピアノを、
立ち向かうことのできないというか。
本当か。
本当に、おまえはそうか。
ぼくが消える。
それでも――
認めるんじゃない。
赦すな。絶対に赦すな。
この一方的な
そこから何が消えようとも、成り代わろうとも、光り輝くことにさえなろうとも、これがぼくの曲であるならば、そこにぼくがいなかろうと、ただ
選べよ。
撃て。
違うはずだ。そうだろう。スティックで、キックで、示せよ。そうと言うしかないのなら、そうなんだ。もしそこに神しかいないというのなら、それを殺すまでのこと。乱逆で、
掴めよ。この時にある
ぼくもまた、譜面通りには叩かない。足りない。惜しむな。届かないと知る
叩く。踏む。
そのひとつずつが脈動の意志。
絶対に殺してやる。
さあ、命を
父のピアノは、揺らぐことがあろうか。どんな戦場に立つとも、傷つくことがあろうか。何を成そうとするのであれ、その実現の叶わぬことがあるだろうか。そんなことがもしあり得るのなら、それは一谷史真と呼べるものだろうか。
あるはずが、ない。
出し惜しむものもなく、無理を通すこともなく、ただそのあるべき姿のあるがままに、絶対的な自然のままに、ぼくの
ぼくの
ああ、死んでいくな。オンガクしか持たぬぼくにとっての、
生きられない。
ないじゃないか。
それは生きるということ。
オンガク。
弱いぼくが命を続けるために
なくなってしまうな。
どれだけ不幸であろうと、ぼくにとっての唯一。
今日しか知れぬぼくのための明日。
なくなる。
ああ。
ありがたいなあ。
響くことを知るのは、ただピアノばかりだ。だめだなあ。
やっぱり、父さんには敵わないや。
ちっとも、だめだなあ。
なあ、
本気で弾いてくれているね。
ぼくの知っている通りの、違いのない、一谷史真の音だよ。
笑っちまうなあ、
こんなピアノ、弾きたくなかったんだろう。
それでも、父さんは弾けてしまうから。
どんなにか、くるしいだろうね。
こんな惨劇を行えてしまえてさ。
ごめん。
殺させてごめん。
ぼくはやっぱり、不幸なやり方しか知らないんだ。
こうすることでしか、決着を掴み取れないよ。
さあ、手を強く握れ、止めるな、足を踏み込め。命を撃て。
ぼくの抱く殺意を止めるな。たった今、行き着く先が
一谷史真のピアノを、意味のないものとするな。
ぼくが戦わずして、それはいったい何のために鳴るというのか。
撃ち尽くせよ。ぼくは今、できるだろう。
どれだけ
ありがとう。
こんなやり方、父さんじゃなければできないよ。
もっとくれよ。
戦うから。
まだ残ってる。叩けてる。潰しにこいよ。何も終わってはいない。
父さんのピアノなんて。
壊してやるから。
父がぼくから奪った譜面、その全ては
思えないな。
オンガクをやりたいなんて、思えないな。
耐えかねたのでもなかろうが、このままの沈黙で
生きてないな。
ここでするべきことはもはややり尽くしたと、それをお互いがわかりすぎるほどにわかっているのであれば、黙るだけの時もそう長くは続かない。ただ、ぼくが動くのを
「鞄に財布があるから、適当に抜いて、タクシー代にでも使え。酒の払いだよ。なんと言ったか、俺は。そう、
そうだな。
あんたは父で、ぼくは息子で。
どちらも、逃げなかった。
今さら目は背けないから。
もらっていくよ。
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