DISC-02《WAY CALLED SCARS》
Track 001 HEARTBEAT REMAINS
なにせ煙草を
それでも根元近くまで吸ってしまって、室内に戻ったところ、デスクに転がしたままになっていた
白黒の液晶画面を見て不意を
デスクチェアに腰を落ち着けるも、さっきまで睨めっことなっていたデスクそのものに向く気にならず、椅子を反対へ向け、視線は宙に浮いた。実家に置いてあったものを取ってきた央歌のギターが、もうすっかり無用だが、まだ室内に鎮座しているのを、目の
ぼくの問いに答えたとはまるで言えず、八汐はどこか
我が身を振り返ってみれば、悪徳
女子高生という
本当なら、きみのギターをじっと聞いてやることはできないと、それも注文をつけるほうが正しかった。今、八汐のギターケースは彼女の隣にあって、それは幸いにも弾くためではなく、学校帰りにそのまま来たから背負っていただけ、それを睨みつけてしまうかというと、何やら、八汐の
八汐の通う高校は私服なのだから、服装はデニムのスカートにパーカーという気軽なもので、今朝それを着た時点では、ぼくに電話をかける予定はなかったという。先日見たのと同じ
どうも、ぼくのほうが不安を覚えてしまう。
だとして、たい焼きの品評をするほうがずっと気楽だったろう。八汐は公園の遊具の何よりも遠くを見つめるようにして、
スタジオの一室に――今回ばかりはさすがに狭い部屋に、響いているのは
即興のセッションが果てると、章帆は毒を含んだ物言いをした。「夜に呼び出しを受けて、ちょっと期待した私が愚かでしたねぇ。動きやすい格好で、って、ボウリングとかバッセンとか、一瞬想像しちゃったじゃないですか。絢人クンに限って、まさか。」バッティングの方なら、最上サンに何度も付き合わされたのでそれなり。ベース持参と、指定を付け加えた時点で理解したろうに、章帆のショート丈のジャケットなり、キャミソールなり、それに合わせたカーゴパンツなり、少なくとも、高校ギター部のTシャツは着てこなかった。ぼくとしては、抵抗はしたかった。「章帆が言ったんだぞ。ドラマーの憂さ晴らしはドラムを叩くことと。」まるで説得力がないというのは、ドラムに座するのが章帆で、章帆のベースを抱えているのがぼくだからだ。
ぼくが床に座り込んでしまっても、章帆はドラムセットから動くことがなかった。「実家がライヴハウスとスタジオをやってるんですが、裏メニューがあって、そこの
にしても、章帆は不満を露わにしている。明らかにむくれているというふうに。楽器をやらされて嫌に思う性分ではないだろう。「何も言わなかった。章帆に相談することを先にして、その当夜に連絡した。何が悪い。」つまりは、今のままでは、ぼくはライヴはおろか、練習さえまともにできやしないのだと。八汐の弾くギターは、ぼくに父の
章帆からして、一定の満足がないではないようなのだが。「相談の順番が、リーダーが先だったのは、信頼が厚くて大変けっこうなんですが、片思いの相手に、若い子とデートしてきたなんて言われて、喜べるものですかね。私は無理です。」返答に詰まって、本気になるという予告はされていても、確定的な言いようをされたのは初めてなのであるから、結局、天井を見上げて、「なんだ、今日はそういう日なのか。」とぼやいた。章帆は追い打ちで、「そのようで。郁杏ちゃんが恋とは思ってないっていうのも、ちょっと怪しい気もしますしね。」と、しっかり
急に呼び出した詫びと、章帆好みの甘いコーヒーを買ってきて渡せば、その好みを覚えていたことに少し気をよくして、そして今度は章帆が床に座り込み、息を
ふっと空気が、半端な室温の
章帆は缶を置いてすっくと立ち、ドラムセットへと勢い良く座した。「ベースで憂さ晴らししようって気分じゃないですねえ。」そういって、思い切り良く叩いて、踏むのだが、ついさっきとは音が重ならない、一発を重く撃ち、しかしめり込まずに、跳ねる、おいおい、あっさりとぼくのお株を奪うなよ、その技巧、そんなに簡単じゃないんだ。音の響きに、決して八汐のことだけではない章帆の
打音は手数を増していく、増すほどに、ぼくの出す音に近づく。
まさかぼくから色恋がどうのと言えるはずもなく、ぼくもまた立ち上がり、章帆のベースを借りた。
眠りを
書きつけていく、ピアノの音符、本当はどれよりもぼくに馴染んだそれ。
観念するのがいっそ潔いと、鉛筆をデスクに転がした。いつもでないことの明らかな
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