Track 002 RULER JUMPS OVER
音のカクテル、どこに意識を向ければ和音になるか、いずれであれば不協となるか、明かりの
央歌は白のニットと黒のミニスカート、タイツ、革靴という装いで、少々の
地下に降りる階段のそば、コルクボード上に示された出演バンドのラインアップを見やる。今さらついでのように確認したが、やはり〈イノリの爪痕〉の出番は
「入ればわかる。ぼくにとってベストなタイミングだったか、あるいは、もう少し遅れてくれたほうがよかったのか。今夜はワンマンじゃない、他の下手なバンドに興味なんてあるものか。」
使えるものは使えの精神で、〈イノリの爪痕〉の客としてのチケットは支払い済みの取り置き、地下まで降り、名前を告げるだけで入場を果たせた。糸原が目を付けているというのであれば、その
「少なくとも、遅くなったことをぼくに詫びる必要はないらしい。」
フロアとの落差が思いのほか低いステージ、隔てる柵もないというので、熱を込められそうなつくりで、ぼくの
――それが排他のつもりなら、きっとかわいいばかりなんだろう。
何の殺戮も行われないショウに、街の雑踏に向く階段を戻りたくなるも、ドリンクチケットと引き換えに得た烏龍茶を喉に流し込んでごまかした。これも奢りだ。だれの財布が痛んだものかはしれないが。あまりに勢いよくいってしまったものだから、央歌が持て余していたチケットを奪った。どうせ、央歌が飲みたがるなら水だろう。
三分余り、二杯目の、せめてもの
生み出すつもりなのか?
奪い合うのではなく?
音楽は略奪行為にはならないか、なるとしたらそれをやらないのか。イノチを奪い合うことの罪は、ここであればこそ
ぼくはすっかり面倒だ。
目を瞑る。
ヴォーカルはMCを入れず、すぐにドラムがカウントを取った。それを
正確な機関銃としてのドラムは、ロックよりもメタルとしての
舟の
けれど違うな。ぼくの
罪人でいい。どいつもこいつも。イノチの奥に、生を根付かせ、生じさせ、果てなくここにあるものとすればこそ、殺すことだってできるじゃないか。欲張れよ。ないものは死なない。あるから死ぬ。そこにあるならば――
たった今の
欲張れよ。
ひとり図抜けて弾けていると、それはそうだろう、正直者の糸原が凄腕と評価するほどなのだから。知れている。それは。だからと、多くにはわからないだろう、この場においてひとつ
サウンドの重心にいながら、それを熱心に支配して、音を支える役目を守りながら、それでいて
ああ、不幸だな。
大切な玩具を壊したがっていて、〈イノリの爪痕〉のサウンドの中で、かろうじて赦される範囲でそれを求めてしまっていて、そして、
きみは誰よりも知っている、どこを守れば
また。もうふたつ跳ぶしかない、ならば、跳ぶんだ。壊れないところへ。
守りたい。愛したい。ここにいたい。
不自由にうねる。
壮絶な音の荒波が、なぜ壊れないでいられるのか、わかられることもなく。
違うだろう。
大切な玩具だからこそ壊してしまいたいんだろう。
観客が期待しているステージなんて粉々にしてしまいたいんだろう。
その四本の弦で、
それでいて玩具が壊れたら泣くから、愛しいから、そこにあってほしいから、きみは迷うこともなく、踏まない。息の根を止める役なんて、きっと永遠にできない。だから不幸なのだと。先に跳ぶんじゃない。跳ぶから、こんな足りないベースしか弾けないんだろう。踏めよ。
一度ならず、考えたことはないか。
決して壊れない玩具が、自らの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます