瑠希奈のケツの、褐色の艷やかな双丘がリズミカルに揺れながら、昼ちゃんこの準備が進んでゆく。

 この日のちゃんこ番は瑠希奈、キメセク、セックスの魔羅の3名だった。朝の稽古が終わると力士たちは風呂に入り、髷を結い直し、昼ちゃんことなる。相撲部屋における「ちゃんこ」は鍋料理に限らず全ての料理を指す。今日のメニューはカレーライス、唐揚げ、ポテトサラダ、湯豆腐と野菜の鍋だった。

 キメセクは鼻唄を歌いご機嫌で準備を進めていた。セックスの魔羅と瑠希奈はキメセクの指示を仰ぎながら、キメセクの鼻唄に合わせてみたり、軽口を叩きあったりしながら、なごやかにちゃんこの準備が進む。

 材料の多くは後援会等からの差入れで賄っていたが、管理栄養士がスタッフとして部屋に常駐し栄養バランスの調整はなされていた。運動生理学で大学助教を勤めていたが、離職してセックス部屋の選任スタッフとなった人物だった。理学療法士でもあり、力士たちの肉体面の全般をケアしていた。


 相撲部屋によってはちゃんこ長が選任されて仕切るケースもあるが、セックス部屋では特にそうした指示はなく、3班あるちゃんこ番が日替わりで交代して担当していた。セックス部屋の中ではキメセクがちゃんこ番の経験も長く、料理の腕が確かだった。多量の食事を摂取し体をつくらなければならない力士たちにとって、日々の食事の美味しさは非常に重要だった。


 キメセクは若い衆では最も入門が早く、高卒8年目の26歳で最年長だった。高校3年時にインターハイ個人3位の成績を持ち、最高位は幕下18枚目、現在は三段目だった。高校時代に左膝を怪我で手術しているが、完全には回復せずに番付が伸び悩んでいた。同学年の駅弁が先に関取に上がり、当初は悔しい思いもあったが、徐々にその悔しさを失って現状に満足してしまっているという自覚もあった。

 日々の稽古を真面目にこなし、部屋の雑用やちゃんこ番にも精を出していると、それだけで役目を果たしているような、居場所があるような気持ちになってくる。ちゃんこの腕も、相撲で思ったように成績を出せないことの裏返しで、熱心に料理を研究した側面があった。既にセカンドキャリアに向けて飲食店経営の勉強を始めていた。

 部屋スタッフの瀬上さんが折に触れてキメセクを気に掛けていた。「絶対に悔いの残らないようにやりきりなさい」と言う。瀬上さんは先代師匠の息子で元力士だが、関取にはなれずに辞め、その後は弟子の儀礼・所作・雑務の指導やスカウトなどの部屋の業務を担当していた。


 セックスの魔羅のつくる唐揚げは、サフランやターメリック、シナモン、クミンといったスパイスや、イタリアンパセリやコリアンダーなどのハーブを使い、レモンの香りも鮮烈な、自身の出身であるモロッコ料理のエッセンスを加えたもので、こちらも美味で食欲をそそる。

「素晴らしいですわぁ~~! 魔羅スペシャルと名付け長くその栄誉を称えここに賞しますわ~~~」

 女将によって「魔羅スペシャル」と呼ばれ、テレビの相撲めし特集でも取り上げられた一品だった。


 瑠希奈は裸エプロンでちゃんこ番をしていた。正確には全裸ではなく、Tバックで極めて布面積の小さい下着を着用していた。誰に強要されたわけでもなく、最初は全裸にエプロン姿だったが、せめて下着だけは穿くようキメセクに注意を受け、今のスタイルになった。

 セックスの魔羅は「日本には裸エプロンという伝統がある」と誤解している。


 昼ちゃんこは親方・関取、または見学に訪れている後援会の人々がまず食べ始め、若い衆は給仕に回る。その後、若い衆も食事を済ませ、片付けると14時くらいになる。




 多くの相撲部屋ではここから夕方まで自由時間となるが、セックス部屋では1時間の休憩後、15時からはセックス研の時間となる。

 過去から現在までの大相撲の取組の映像がセックス部屋ではアーカイブされており、大画面に映しながら師匠が直々に解説を加える時間だった。持ち回りで力士が事前に勉強した上で解説を発表することもあり、さながら大学の研究室での論文の輪読のようだったから、「セックスしないと出られない研究室」(略称:セックス研)と呼ばれていた。

 親方の講義は動画で記録されインターネットで公開され、他の部屋やファンからも好評だった。ファンから親方はプロフェッサーセックスと綽名された。


 セックス研の終了後、18時までの間に、若い衆は分担して掃除や夜ちゃんこの仕度や部屋の雑事をこなす。

 その後、夜ちゃんこの時間となるが、関取衆は後援会との付き合いや、付け人を連れて外食することも多い。

 その後は自由時間となり、のんびり過ごす者、トレーニングルームや外のジムで筋力アップに励む者、夜食を取る者など思い思いに過ごす。22時半には翌朝に備えて就寝となる。部屋によっては若い衆は全員大部屋のケースもあるが、セックス部屋では3~4名の部屋で分かれて寝ている。番付に応じて部屋割りが変わる。

「オーホホホッ! 良くってよォ~。きれいですわァ~!」

 女将が不定期に部屋をチェックする。早ければ中卒15歳で入門する子供たちが、満足に集団生活を送れるよう教育するのも女将の務めだった。


 こうしてセックスしないと出られない部屋の標準的な一日が過ぎる。




「おい、瑠希奈、瑠希奈」

 国本が肩を揺するが瑠希奈は目を覚まさない。ウゥん、と悩ましげな声を上げるばかりだが、国本は瑠希奈を揺すり続ける。朝6時前だった。

「おい、起きろよ。早く準備しないと……」

 ぱっちりと大きな丸い目を開くと、瑠希奈はもう全裸になっていた。

 瑠希奈はいきなり国本のトランクスを後ろから引きずり下ろした。ポロリン。二人は全裸になった。

「子供じゃないんだから、何してんだよ」

 国本が呆れ返って振り返ると、瑠希奈はあどけない表情で笑っていた。

「子供だよ。ボクらまだ17歳じゃん」


 セックスしないと出られない部屋の朝は早い。

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