第二十一話 俺は冒険者になる!
俺が転生して来たオーラトリアと言う世界には、大きく分けて四つの国がある。
勇者が転生しているイーラムリー王国、高い軍事力を誇るフェアーアルン国、広大な肥沃の土地を持ったヒルマーソル王国、魔王と魔族が住むゾエレード魔王国だ。
他にも小さな国は幾つかあるが、俺達が安心して住むには適していない。
俺はこの五年間の間、ゾエレード魔王国を除く全ての国に行き仕事をして来た。
その経験から、俺達が住む場所として選んだのがヒルマーソル王国になる。
ヒルマーソル王国は独立都市アデリーリャに食糧を供給していて、代わりに独立都市アデリーリャが影でこの国を守っている。
表立ってその様に表明はしていないが、他の国もその事は認識していて、ここ二百年ほどヒルマーソル王国に手出ししてきた国はいない。
俺の仕事の中にも、ヒルマーソル王国に手出ししようと企んでいる者の暗殺も含まれていたしな。
イーラムリー王国も比較的安全な国ではあるが、勇者には関わり合いになりたくないし、魔王との戦いにも参加したくない。
今の所、勇者の成長待ちで魔王国とは戦ってはいないが、近いうちに戦う事になるだろう。
その際に兵士として徴兵される可能性があるので、イーラムリー王国は俺が住むのに適していない。
フェアーアルン国は魔王国と隣接しているが、魔王国と戦う意思は少ない。
高い軍事力を持っているのは、イーラムリー王国かヒルマーソル王国を隙あらば狙っているからだ。
それと、高い軍事力を維持するために徴兵制もある。
俺が住めば徴兵される可能性は非常に高く、そんな国に住みたいとは思わない。
俺達は飛行船から列車に乗り換え、ヒルマーソル王国のスピアーロル町へとやって来た。
この町を選んだのに特に理由は無い。
強いて挙げるなら、食事が美味しいくらいだ。
一番食事が美味しいのは独立都市アデリーリャなのだが、それ以外の場所となるとこの町になる。
ヒルマーソル王国全体として新鮮な食材が手に入りやすいので、この国であれば何処でもある程度美味しい食事にありつける。
その中でも特に美味しかったのがこの町だし、治安も良い方だ。
たまに暗殺者が現れたりするが、平民は襲ったりしないので安心だ。
「エルラーネ、この町は色々な食べ物がおいしいんだぞ~、後で買ってやるからなぁ~」
「………」
スピアーロル町の中をエルラーネに説明しながら、宿屋を目指した。
家を借りて、アマリエとラブラブな生活を送る予定だったが、エルラーネが来た事でそれは出来なくなってしまった。
それならば無理に家を借りず、宿屋で暫く生活した方が節約にもつながる。
宿屋で部屋を借り、再び街へと出かけて行った。
目的地は冒険者ギルドだ!
自由になった後にやる仕事は、冒険者だと決めていた。
何故かって?
それはもちろん、せっかく剣と魔法のファンタジーの世界に転生して来たらからには、冒険者になるしかないだろう!
アマリエには反対されたけどな…。
「ベル、冒険者がどの様な職業なのか知っているのですか?」
「あーうん、もちろん知っているよ!」
「それでもやるんですね?」
「若い時しか出来ないし、一度やって見たかったんだよ!」
「はぁ、分かりました…」
この世界で冒険者と言う職業は、何も出来ない荒くれ者がやる仕事だという認識で、冒険者の地位も低い。
好きで冒険者になる者など、殆どいやしない。
だから、アマリエが呆れているのだ。
だがしかし、何事もやって見なければ分からないじゃないか!
もしかしたらダンジョンとかでお宝を見つけて、大金持ちになれる未来があるかも知れない!
まぁ、ダンジョンなんて物はなく、遺跡でお宝を見つけるくらいだけどな…。
それでも、夢のある仕事には違いない。
頑張って大金持ちを目指そうと思う!
「いたっ、ちょっと痛いって…」
冒険者ギルドに向かって歩いていると、後ろからお尻を三回ほど蹴られた…。
振り返ってみると、エルラーネがもう一度俺のお尻を蹴ろうと足を振り上げている所だった。
エルラーネは足を下ろし、無言のまま右手にあるお店を指差した。
そう言えば買ってやると言ったな…。
「おばちゃん、蜜二倍がけで三つ頂戴」
「あいよ!」
細長い棒状の少し硬くて甘いパンみたいなお菓子の上に、たっぷりと甘い蜜をかけて貰い、エルラーネとアマリエに手渡した。
代金を支払って俺の分も貰い、かぶりついた。
外側は甘く、内側に酸味の効いた果物が入っていてかなり美味しい。
アマリエは当然のことながら、エルラーネも笑顔で頬張っている。
エルラーネの笑顔を見るのは初めてだが、こうして見ればなかなか可愛いじゃないか!
エルラーネは十二歳で、後数年すればもっと可愛くなるだろう。
エルラーネは俺の妻だし、そのころまでに好かれるように努力していこうと思っていると、今度はお腹を蹴られた…。
どうやら、あまり見るなと言う事らしい…。
二人の幸せそうな表情は見ていたかったが、蹴られたくもない。
仕方なく前を向いて、冒険者ギルドに向けて歩き始めた。
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