第十六話 アマリエ その一

 私は独立都市アデリーリャに生まれ、他の人達と同様に住居区に預けられました。

 私が特別なのでは無く、独立都市アデリーリャでは普通の事です。

 住居区に預けられた子供は大切に育てられ、子供に必要な教育が十分に行われます。

 十分な教育を受けた後は、その子達に合った仕事を与えられ、一生仕事にもお金にも困らない生活を送る事が出来ます。

 勿論、真面目に仕事をしない人は別ですが、独立都市アデリーリャで教育を受けた人達の中にそんな人はいません。


 私は十四歳になり、教育を終えて仕事を与えられる事になりました。


「アマリエ、当面お前にはわしのメイドとして働いて貰う」

「私がジルダム様のメイドでございますか?」

「当面の話だ、お前にはある男の子の世話を頼むつもりだ。

 もうすぐそいつの卒業試験が行われ、無事に終わればそいつの世話を頼む」

「承知しました」


 私は一緒に教育を受けた子達と比べて、全てにおいて劣っていました。

 私は何をやっても他の子には勝てず、唯一勝ったのは何の役にも立たない気配を消す事だけでした…。

 その劣っている私に、住居区の支配者ジルダム様がお世話をするよう頼む男の子は、私と同じように劣っているのかも知れません。

 しかし、その認識は間違っていました。

 私がお世話をする予定の男の子の卒業試験を見に、多くの人達が集まっていたからです。


「あの厳しい訓練を、全て一番の成績で駆け上がってきた天才だろ!」

「十二歳と言う年齢に加えて、最終試験は武器を持った凶悪犯七人だぜ!俺でも厳しい相手だ…」

「流石に死ぬんじゃないのか?」

「だが、倒せると分かっているからこそ、あの人数の相手なんだろ?」

 どうやら最終試験を受ける男の子は、とても優れた男の子の様です。

 しかもその相手は、一人でも十分強そうな男の人達でした。


 独立都市アデリーリャには闘技場があり、各国から参加者を募って戦わせています。

 それとは別に犯罪者を購入し、命を賭けて戦わせたりもしています。

 犯罪者は勝利すると購入された際に出来た借金を減額され、全て返済し終わる事が出来れば特定の場所に家を与えられて、その場所で一生自由に過ごす事が出来るようになります。

 その場所は公表されていませんが、住居区の様に出られない場所だというのは想像できます。

 その七人の犯罪者には、男の子を殺せば自由になれると伝えられており、犯罪者たちも本気です。

 そしてついに、七人の犯罪者が待ち構えている部屋に男の子が入って来ました!


 えっ!?

 私には何が起こったのか、良く分かりませんでした。

 気付いた時には七人の犯罪者達は全員、血を吹き出しながら倒れていたのですから…。

 回りの人達も、一瞬の出来事に驚いています。

 全てにおいて劣っている私が、あの優秀な男の子のお世話を出来るかは分かりませんが、与えられた仕事ですので精一杯頑張りたいと思います。


 男の子の名前は、ウィリーベル様に決まりました。

 ここで育った子供達は仕事を与えられる際に、ジルダム様から名前を付けて貰うのが決まりとなっています。

 私の名前も、ジルダム様につけて頂きました。

 ウィリーベル様は優秀な方ですし、ジルダム様もかなり考えてつけられた名前です。

 しかし、ちょっと呼びにくい名前なので、間違えないように何度も頭の中でウィリーベル様の名前を呼び続けて覚えました。


 私に与えられた仕事は、ウィリーベル様の仕事に対してのお世話です。

 身の回りのお世話は、他の女の子がウィリーベル様の妻となって行います。

 私はウィリーベル様の妻となる四人の女の子を、ウィリーベル様の所に連れて行きました。

 四人共私とは違い、とても優れた女の子です。


 一番年上の女の子は礼儀作法やダンスで一番になった事のある方で、他国の貴族様の所に嫁いで行っても不思議ではないくらい優秀な方です。

 二番目の女の子は可愛い顔をしていますが、格闘術で誰にも負けた事がありません。

 私も、ボコボコにされた嫌な記憶が残っています…。

 三番目の子は頭が非常に良く、学問において常に一番を取り続けている子です。

 四番目の一番幼い子の情報はあまり持ち合わせていませんが、私と同じように何でも出来るけれど一番にはなれない、そんな子だったと思います。

 まだ幼いですし、ここに選ばれて来ているという事は、将来有望な子なのかも知れません。


 ウィリーベル様が選ばれたのは、一番幼い子でした。

 私を選んでくれたような気にもなり、一瞬喜んでしまいそうになりましたが、他の女の子もいますし厳しい表情を作りました。

 しかし、そこで問題が起こってしまいました。

 ウィリーベル様は選んだ女の子に対して、再教育を望んだのです。

 私に決定権は無く、その事をジルダム様にお伝えして判断して貰う事にしました。

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