第十四話 初仕事 その一

「アマリエお姉ちゃん、列車って格好いいね!」

「そうね、券も買ったし、早く乗りましょう!」

 ヒルマーソル王国には鉄道が整備されている。

 この鉄道は独立都市アデリーリャが無償で提供し、運営も行っている。

 鉄道を提供した主な理由は、独立都市アデリーリャへの新鮮な食料の運搬であり、鉄道が無くなってしまえば独立都市アデリーリャに住む人々の食料が無くなることを意味している。

 つまり、鉄道は厳重に守られており、持ち込む荷物も念入りに確認される。

 俺とアマリエはハゲ爺から与えられた仕事で来ているとはいえ、仕事の内容があれなので俺達の荷物も鞄から全部出されて確認された。

 飛行船の時にはそこまで厳しくなかったので、多少驚いた


「このナイフは預からせてもらう。列車を降りる際にこの券を渡せばナイフを返してやる」

「はい、分かりました」

 俺が仕事で使う小さなナイフが鞄の中に入っていたのだが、それだけは持ち込むことは出来なかった。

 でも、降りる時に返してもらえるし、ナイフが無くても仕事に支障はないからどちらでもよかった。


 ちなみに、飛行船は独立都市アデリーリャと各国の首都を結ぶ航路しかなく、小さな町や村へ行ったりすることは無い。

 飛行船が降りられる場所と、安全の確保が難しいと言うのが理由だ。

 鉄道と同様に飛行船は独立都市アデリーリャの生命線で、飛行船を失ったり飛行船の技術が他の国に渡ったりしないように厳重に管理されている。

 独立都市アデリーリャは標高三千メートルの山の上にあり、他国から攻められることはまずない。

 しかし、飛行船さえあれば軍を運んで攻め込むことが可能となる。

 それを防ぐために飛行船の航路を限定し、奪われないように守っている。


「早いね!」

「そうね、これなら目的地にも早く着きそうね」

「うん!」

 列車の席に座り、車窓から外の景色をアマリエと眺めていた。

 対面に座っていたのは老夫婦で、外の景色を見てはしゃいでいる俺とアマリエを微笑ましく見てくれていた。

 老夫婦からお菓子も貰えたし、仲の良い幼い姉弟のふりは上手く出来ている。

 無事に帰りつくまで、この調子で演技を続けて行こうと思う。


『まもなくスピアーロル町に到着します。下車される方は、お忘れ物無きようお願いします』

「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう!」

「元気でな」

 目的地に着いたので老夫婦と別れて、俺とアマリエは列車から降りた。

 ナイフも無事に返してもらったし、怪しまれていると言う事は無い。

 宿屋の部屋を取り、アマリエと共に町を歩いて回る。


「あれが領主様のお屋敷なのかな?」

「そうよ、エグバートル・ラステイル伯爵様のお屋敷ね」

「ふーん」

 町中から少し高い位置に立派な屋敷が見え、あの屋敷に住む伯爵が俺の初仕事の相手だ。

 屋敷の近くまで行く事は出来ないが、おおよその侵入経路は把握できた。

 一通り町を見て回ってから、宿屋へと戻って行った。


「これが町の地図で、こちらがお屋敷の見取り図です」

 アマリエは鞄の裏地に縫ってある糸をスーッとと抜き取り、裏地の中から町の地図と屋敷の見取り図に、目標の似顔絵を取り出して見せてくれた。

 そんな所に隠していたのかと感心しながら、地図と見取り図と似顔絵を確認していく。


「目標が今日屋敷にいるのは確認済みです。

 目標の寝室は三階のこの部屋で、夫婦で寝ていると思われます。

 屋敷内への侵入は寝室のこの窓か、屋根裏部屋の窓が最適だと思われますが、一階の応接室の窓からも侵入が可能です」

「あーうん、そこは屋敷に着いてから判断する」

「お願いします」

 アマリエが事細かに、屋敷の侵入経路や見張りの立ち位置等を説明してくれた。

 この時はお姉ちゃんではなく、いつものアマリエに戻っていたので、俺も真面目に話をした。

 これから人を殺すという時に、偽装とは言えふざけてはいられないからな。


「最後に注意事項です。

 目標以外は、どんな事があろうとも殺害しないようにしてください。

 魔法は使用禁止です。

 どうしても逃げ切れないと判断した場合は………自害してください」

「分かってる!」


 俺の仕事は独立都市アデリーリャに敵対する人物の暗殺であり、無差別に人殺しをするのではない。

 だから、目標以外の殺しは厳禁だ。

 例えそれが、仕事の通りがかりに見かけた悪人であったとしてもだ。

 俺はプロの暗殺者として育てられ、その事は嫌と言うほど叩き込まれている。

 仕事中は、どんな事があろうとも仕事以外の事は無視すべきだ。


 魔法が禁止なのは、現場の残存魔力を調べる魔法や魔導具があるし、貴族の屋敷や重要な施設などには魔力に反応して警報を鳴らす魔道具が設置されている。

 魔力を完全に消し去る訓練をさせられたのは、その様な魔法や魔導具に発見されない為だ。

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