第十三話 首都ソルアーニ
『まもなく、ヒルマーソル王国の首都ソルアーニに到着いたします。
飛行船が着陸する際に少し揺れますので、飛行船が着陸するまで船室から出ないようにお願いします』
船内放送で目的地に到着すると伝えられ、しばらくした後で下に重力を感じるような揺れを少し感じて、無事に着陸した事が分かった。
飛行船での搭乗時間は五時間くらいで、木造の船から考えられないほどの速度が出ていたのかもしれない。
そもそも、木造の船が空を飛ぶこと自体が、俺の常識からは考えられない事だ。
飛行船も勇者が作り出した技術で飛ぶみたいだし、こうして無事に目的地に辿り着けたのだから、凡人の俺は難しい事は考えない方が良いと思う。
俺は鞄を背負い、アマリエと手を繋いで船室を出て飛行船から下船した。
「アマリエお姉ちゃん、綺麗な町だね!」
「そうね~、今日はこの町に泊まる事になるから、先に宿屋を探しに行きましょう。その後で町を見て回りましょうね~」
「うん!」
アマリエは俺の手を引いて、迷わず宿屋が何軒か建ち並ぶ場所へとやって来た。
アマリエも俺と同じく、独立都市アデリーリャから出たのは初めてだと言ってたけれど、事前に町の地図を調べていたのかもしれない。
頼りになるお姉ちゃんって感じで、安心してついて行けるな。
今日泊まる宿屋の部屋も難なく決まり、荷物を部屋に置いて町に出かけて行った。
「アマリエお姉ちゃん、あのお店は何?」
「雑貨屋かしら?気になるなら見て行く?」
「うん、行こう行こう!」
俺は、初めて見て回るこの世界の店に興味を持ち、アマリエと一緒にウィンドウショッピングを続けて行った。
買わないのか?と言われても、俺は金を全く持っていない。
アマリエはお金をハゲ爺から貰ってきているが、そのお金も当然俺の借金に追加されるはずだ。
一刻も早く借金を返済するために、贅沢は出来ない…。
店としては迷惑だろうが、初めて見るこの世界の色々な物を見て回るのはとても楽しかった。
「ベル、そろそろ宿屋に戻って夕食にしましょう」
「うん、お腹減ったね!」
気が付けば夕暮れが近づいて来ていて、俺とアマリエは宿屋に戻って夕食を食べ、その日はアマリエと一緒の部屋で寝る事になった。
一緒の部屋だと言ってもベッドは別だし、十二歳の俺はアマリエから子供だと思われている。
その証拠に、俺の目の前で平気で着替えているし、俺を裸にして全身を濡れた布で拭いてくれたりもする。
独立都市アデリーリャでは毎日温泉に入れていたし、男女別のお風呂だったからこういった事は無かった。
しかし、普通の宿屋にはお風呂は無いらしく、布で拭くくらいの事しかできない。
元日本人としては毎日お風呂に入りたい所だが、無い物は仕方がないし、アマリエから体を拭いてもらえる方が贅沢だったかもしれないな。
「アマリエお姉ちゃん、おやすみなさい」
「ベル、おやすみ」
寝る時も弟を演じ、素直に就寝した。
「アマリエお姉ちゃん、おはよう」
「ベルさん…おはよう…ございます…」
アマリエは朝が弱いのか、寝ぼけていてお姉ちゃんになり切れていない。
いいや、俺が早起きしただけだ。
窓から見える空は少し明るくなって来たくらいで、小鳥の鳴き声さえ聞こえないくらい静まり返っている。
早く起きる必要は無かったのだが、習慣で早起きしてしまった…。
それに、初仕事を控えていたので、興奮してあまり眠れなかったと言うのもある。
「アマリエお姉ちゃん、ちょっと外を走って来るね」
「あっ…気を付けて…」
俺はまだベッドで寝ているアマリエを部屋に残し、走りに出かけて行った。
流石に人通りは少なく、走るのにはかなり適していた。
しかし、誰が見ているか分からないので、いつものように大人より早い速度で走ることは出来ない。
軽く町を走って、気持ちはかなり落ち着いて来た…。
瞑想でもして気持ちを落ち着けられたら良かったのだが、凡人の俺は運動する事でしか気持ちを落ち着けられない。
多額の借金を一日でも早く返済するには、いいや、自分の命と独立都市アデリーリャに住む人々の生活がかかっている仕事なので失敗は許されない。
そういう不安と重責が、時間とともに少しずつのしかかって来ていた。
しかし、走る事で幾分和らいだのは良かったと思う。
アマリエの待つ宿屋へと戻り、一緒に朝食を食べてから出かける事になった。
「アマリエお姉ちゃん、今日は列車に乗るんだよね?楽しみだなー」
「えぇそうよ、私も乗るのは初めてだし、乗り遅れないように早く行きましょうね!」
「うん!」
気分も一新し、朝の活気に包まれた町の中を、アマリエと仲良く手を繋いで駅に向かって歩いて行った。
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