第十二話 飛行船の旅
「ベル、ここが飛行船の発着所よ!」
「凄いね、アマリエお姉ちゃん!僕、飛行船に乗るのは初めてだから楽しみだな~!」
商業区を抜けて、飛行船の発着所へとやって来た。
飛行船の発着所は大きな空港並みに広く、独立都市アデリーリャに来た人達や、俺達のように各国に行く人達で混雑していた。
「ヒルマーソル王国行きの船は…あっちね!」
「アマリエお姉ちゃん、券を買わなくていいの?」
「お姉ちゃんに抜かりは無いわよ~、ほら、ちゃんと買っているだからね!」
「さすがアマリエお姉ちゃん!」
アマリエは手提げカバンから飛行船に乗る券を取り出し、自慢げに見せてくれた。
このようなやり取りをしていると、アマリエが本当の姉の様に思えて来た。
周りからも、仲の良い姉弟として見られているに違いないし、誰も俺の事を暗殺者だとは思うはずもないだろう。
そもそも、十二歳のガキを暗殺者だと疑う人がいるはずもない。
少し気を抜いて、飛行船の旅を楽しむことにしよう。
「ベル、これが飛行船よ!」
「格好いいね、アマリエお姉ちゃん、早く乗ろうよ!」
「ベル、手を引っ張らないで!」
船と言うだけあって、見た目は木造の船だった。
全長は百メートル弱と大きく、横には大砲らしきものも見えていた。
俺とアマリエは飛行船に乗り込み、券に書かれた番号の船室へと入って行った。
「個室になってるんだね!」
「飛行船は全部個室になっていて、外の景色が見える部屋は高いのよ~!」
「そうなんだ、アマリエお姉ちゃんありがとう!」
俺とアマリエの部屋は外の景色が見える四人部屋で、部屋は貸し切りになっているとアマリエが教えてくれた。
だから、姉妹の演技をする必要はないのだが、外にいる間はぼろが出ない様に続けた方が良いだろう。
『まもなく、ヒルマーソル王国の首都ソルアーニに向けて出港します』
船内放送みたいなのが流れてきて、俺達が乗った飛行船が音もなくふわりと浮かび上がった。
ゆっくりと上昇していき、独立都市アデリーリャの全体像が見えて来た。
「立派な都市だね!」
「そうね、実はお姉ちゃんも飛行船に乗ったのは初めてなのよ!」
「そうなんだ!」
俺とアマリエは窓に張り付くようにして、小さくなっていく独立都市アデリーリャの景色を眺めていた。
「そう言えばアマリエお姉ちゃん、独立都市アデリーリャは魔法で守られているんだったよね?飛行船はぶつからないのかな?」
「えぇそうよ!独立都市アデリーリャは魔法障壁で守られていて、一年中気温の変化も無いようにされているの。
だから、普通は出入りは出来ないのだけれど、飛行船は魔法障壁を上手く抜ける仕組みが施されていると言う話だったわ」
独立都市アデリーリャは、大陸の中央にあるアディール山脈のカルデラに作られた都市で、標高三千メートルくらいの位置にある。
気温は魔法で常に一定に保たれていて季節感は無いし、雨も夜の決められた時間にしか降る事は無い。
それが、魔法障壁によって守られているからだと言うのは教えられていた。
詳しい事を知りたいとは思わないし、知らなくても良い事だろう。
俺には魔法の才能はあまりなかったし、知った所でどうにかできるものでもないからな…。
『まもなく魔法障壁を通過します。少し揺れますが、ご心配なきようお願いします』
ちょうどその時、船内放送で魔法障壁を通過すると言うのが流れて来た。
暫くすると、ちょっとだけ縦に揺れたが、驚くような事では無かったな。
「アマリエお姉ちゃん、真っ白だよ!」
「綺麗ね~」
魔法障壁を抜けた後に目の前に広がって来たのは、冠雪した美しい山々の景色だった。
美しい景色だが、外の気温は氷点下に違いない。
良くもまぁ、こんな場所に立派な都市を作ったものだと、四百年前の勇者には感心させられる。
俺だったらこんな場所を貰ったとしても、都市どころか生きて行けるはずもない。
やはり、格の違いか…。
そう言うのは俺の代わりに転生させられた勇者に任せて、凡人の俺は大人しくお金を稼ぐ事だけやっていこう思う。
「アマリエお姉ちゃん、美味しいね!」
「そうね~、ほら、ほっぺについているわよ!取ってあげるからじっとしててね」
「うん、ありがとう!」
外の景色を堪能しているとお腹が減って来たので、アマリエと飛行船の食堂へとやって来た。
食堂は船の甲板にあって、前方の景色が一望できる素敵な食堂だった。
俺とアマリエは仲良く並んで席に座り、食事を頂いていた。
「色んな人達がいるんだね」
「えぇ~、飛行船の運賃は非常に安くて、誰でも独立都市アデリーリャに来られるようになっているのよ~」
「そうなんだ…」
食堂にはお金持ちだと思われる立派な服装をした人達より、普通の服装をした人達の方が多かった。
俺とアマリエも普通の服装だし、目立ってはいない。
アマリエのお姉ちゃんとしての演技も違和感はないし、俺も弟としての演技を頑張って行こうと思う。
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