第十一話 アマリエお姉ちゃん
「アマリエさん、ほら座って」
「ですが…」
「良いから座って話そう」
「…承知しました」
今までアマリエはメイドだと思っていたし、本人も決して俺と一緒の席に座ったりすることは無かった。
しかし、俺の嫁になったのだから一緒の席に座って話したいとお願いをし、多少強引にテーブルの席に座らせた。
俺の正面にアマリエが座り、俺の仕事内容を話し始めたので、俺はアマリエの美しい顔を見ながら話を聞くことにした。
「ウィリーベル様の初仕事ですが…」
「待った、その、ウィリーベル様と言うのはよそよそしいのでやめてくれ。
俺の方が年下なのだし、その…夫婦…なのだからから、ウィリーとかベルとかアマリエさんの好きなように呼んでくれないかな?」
「承知しました。では、そうですね…ベルさんでよろしいでしょうか?」
「あ、う、うん…」
やべー、俺が年下と言ったところで、一瞬殺気のこもった視線を向けられてしまった…。
年齢のことは、出来るだけ触れないようにしなくては命が無いな…。
「私の事も呼び捨てにしてもらってよろしいでしょうか?」
「うん、アマリエ、これからよろしくお願いします」
「はい、ベルさん、よろしくお願いします」
アマリエはニコッと笑い、いつもの通りの無表情に戻って話し始めた。
「改めまして、ベルさんの初仕事ですが、ヒルマーソル王国のエグバートル・ラステイル伯爵の暗殺となります。
ベルさんもご存じだとは思いますが、独立都市アデリーリャの殆どの食料をヒルマーソル王国から輸入しております。
エグバートル・ラステイル伯爵は他の貴族達と結託し、食料の生産量を意図的に低く抑えて値段の高騰と画策しております。
それと同時に食糧を盾にして、独立都市アデリーリャをヒルマーソル王国の支配下に置こうと目論んでいるようです」
「なるほど…」
暗殺という仕事に対して思う所はあるが、しっかりとした理由があるのであれば何も問題は無い。
俺には借金を返済し、大金持ちになると言う目標がある。
女神シャルリア・レーネス様が、俺の転生先として選んでくれた場所だ。
しっかりと働いて、大金持ちにならなくてはならない!
「出かける準備をしてまいりますので、しばらくお待ちください」
「うん」
アマリエは一度部屋から出て行ってしまった。
アマリエの部屋は隣なのだが、夫婦となったからには一緒の部屋にするべきではないのだろうか?
そうだろう、そうするべきだ!
この仕事が終わったら、アマリエにそう提案してみようと思う。
そんな事を考えていたら、鞄を抱えたアマリエが部屋へと入って来た。
「お待たせしました、出かけましょう」
「うん、荷物は俺が持つよ」
「はい、ありがとうございます」
アマリエから鞄を受け取り、背中に背負う。
結構重かったが、鍛えられた体では気にはならない。
それよりも今は、アマリエを褒めてあげないといけないな。
「アマリエ、その服良く似合っていて可愛いよ」
「ありがとうございます」
アマリエはメイド服から着替え、白色の帽子と上着に青色のスカート姿になっていた。
言葉通り可愛かったので褒めてあげたのだが、アマリエの表情が変わる事はなく残念に思った。
まぁ、俺は十二歳のガキだし、俺が褒めた所で喜ぶはずもないか…。
「言い忘れていたことがありました」
アマリエが突然立ち止まり、俺の方へと向き直った。
「外に出る際には私とベルさんは姉弟と言う事になりますので、忘れないようにしてください」
「うん、分かった、アマリエ姉お姉ちゃん」
「はい、私もベルと呼び捨てにしますので、ご容赦ください」
「ずっと呼び捨てでも構わないよ」
「それは…もう少しお待ちください」
アマリエは、少し困った表情を見せながらそう答えてくれた。
アマリエとしても、突然十二歳のガキの嫁にさせられて困惑しているのだろう。
気持ちは分からないでもない。
アマリエは前を向き直って歩き始め、俺もアマリエの後に続いて歩き始めた。
「ベルさん、この黒い石に両手を乗せてください」
「う、うん…」
あれだ、卒業試験の後に触らせられた四角い石が扉の前にあって、アマリエが両手を乗せるようにと言って来た。
また、電気が流れるような痛みが来るのかと思い、恐る恐る両手を乗せた。
ガチャリと音がしたかと思うと、自動ドアのようにすぅーっと扉が横に移動して開いた。
アマリエの同じように四角い石に両手を乗せ、二人で開いた扉の中に入って行った。
扉の奥は短い通路になっていて、また扉の前には四角い石が設置されていた。
二つの扉を抜け、やっと住居区から外へと出る事が出来た。
「こほんっ」
アマリエがまた立ち止まり、一つ咳ばらいをしてから俺に話しかけて来た。
「ベル、人が多くて迷子になったら困っちゃうから、お姉ちゃんと手を繋いでいきましょうねっ!」
「…」
「ねっ!」
「う、うん!」
アマリエの変貌ぶりに驚いていると、察しろよと鋭い視線で睨まれてしまった…。
俺は慌ててアマリエと手を繋ぐと、アマリエは軽くうなずいてから歩き始めた。
「ベル、ここは商業区で、多くの人達で賑わっていて凄いでしょう!」
「うん、アマリエお姉ちゃん、僕こんなに人が多いの初めて見たよ!」
アマリエがお姉ちゃん役を演じてくれているので、俺も頑張って弟の役を演じようと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます