第十話 俺の借金

「ウィリーベル様、ジルダム様がお呼びです」

「分かりました」

 アマリエがいつも通り、俺に気配を全く感じさせないまま俺の横に立ち、ハゲ爺が呼んでいると伝えてくれた。

 部屋を与えられてから三日間の休養は、早くも終わりを告げたみたいだ。

 この三日間は周辺を散策したくらいで、後は部屋でごろごろしていた。

 何故なら、俺は一銭もお金を持っていなかったからだ…。

 飯はただで食えるし、アマリエに言えばお菓子や飲み物も用意してくれた。

 今までの生活を考えれば、これでも贅沢すぎる生活だ。

 そんな生活も、ただではやらせてくれるはずもない。

 俺はアマリエと共に、ハゲ爺の所へとやって来た。


「ウィリーベル、初仕事だ」

「どんな仕事だ?」

「まぁそうくな、仕事の前にお前に重要な話をしなくてはならない。

 アマリエ、例の物をウィリーベルに渡してやれ」

「承知しました」

 アマリエが俺に一枚の紙を手渡してくれた。

 …。

 その紙には大きく請求書と書かれており、俺が預けられてから今日までかかった金額が記されていた。

 まぁ、俺には両親がいないし、養育費を請求されるのも理解出来なくもない。

 だがしかし!この金額はおかしくないか?


「おい、ハゲ爺!七千二百四十万ユピスってぼったくり過ぎるだろ!」

「ハゲとは何だハゲとは!計算は習っただろ!食費、教育費、住居費、女、全て込みの値段にしては安い方だ!」

「十二歳の子供が背負う借金としては、高すぎるって言ってんだよ!」

「かっかっかっ、お前が真面目に働けば、すぐに返済できる金額だ」

「すぐってどれくらいだ?」

「そうだな…十年くらいだな」

「長すぎる!三年くらいにしてくれ!」

「考えておこう!他に聞きたいことはあるか?」

「ある!そっちが勝手によこした女の金額まで含まれてんだ?」

「勝手にじゃないぞ、お前が選んだのだろ?」

「…」


 請求書の中に、エルラーネという項目があった。

 恐らく、俺が選んだ六歳くらいの女の子の名前だろう。

 それは良いとして、エルラーネの教育費まで加算されているのには納得がいかない!

 確かに、俺が強くしてくれとアマリエに頼んだのは間違いない。

 しかし、それはエルラーネが背負う借金ではないのか?

 納得はいかないが、ハゲ爺からは俺が選んだと言って押し切られた…。


「もう一つ、アマリエさんの項目があるのはどうしてだ?」

「アマリエもお前の嫁だからだ」

「は?」

 俺は相当間抜けな顔をしていたに違いない。

 それくらい驚いてしまった…。

 ゆっくりと後ろに振り向いていると、アマリエはいつも通りの無表情で俺を見つめていた。

 アマリエは俺より少し年上の十四、五歳と言ったところで、肩の所で切りそろえた青色の髪に整った顔立ちは、誰もが振り返ってみてしまうかのように美しい。

 その美しいアマリエが、俺の嫁?

 本当に!?

 俺は再び請求書に視線を戻し、アマリエと書かれている項目を見る。

 二千万ユピス。

 この中で一番高い金額が記されているが、この美しいアマリエが二千万ユピスで俺の嫁になってくれるのであれば、安い買い物だ!

 いやまぁ俺も…女性をお金で買うのはどうかと思わないでもないが、これがこの世界での常識なのかもしれない。

 常識なら仕方ないよなぁ~、仕方ない、仕方ない!

 自然と笑みが浮かんでくるのが自分でも分かる…。


「納得いったみたいだな」

「ま、まぁ、借金の内容は理解した…」

 ハゲ爺が俺の顔を見て満足げに笑っているのは癪に障るが、アマリエが俺の嫁だと言う事実が全ての事を許してしまう。


「仕事の話をしよう」

 ハゲ爺は真面目な顔になり、やっと俺の仕事の話を始めた。


「わしは居住区の支配者であると同時に、独立都市アデリーリャの守護も任されておる。

 守護と言うても敵が攻めて来た時に戦うのではなく、未然に防ぐのがわしの仕事だ。

 ウィリーベルに分かるように説明するなら、わしらがここで生きていけないようにしようとしている悪者を殺すと言う事だ。

 ウィリーベルには、その悪者を殺してもらう。

 出来るよな?」

「出来る!」

「かっかっかっ、よろしい!ではさっそく仕事に取り掛かって貰うぞ!

 詳しい話はアマリエから聞け」

「分かった」


 ハゲ爺との話が終わり、俺の嫁アマリエと共に自室へと帰って来た。

 アマリエにあーんな事や、こーんな事もしていいんだよな!

 いやいやいや、暴走するのは少し待て。

 アマリエは、俺に気配を感じさせる事無く背後を取れる強者だ!

 つまり、怒らせればいつ後ろからぶすっ刺されるかもしれない。

 そう言うのはお互いを良く知り、仲良くなってからにしないといけないよな…。

 うんうん、そうしよう。

 アマリエは俺の嫁で、逃げる事は無いから慌てる必要もない!

 俺には自制心がある。

 俺は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、アマリエから仕事の話を聞くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る