第八話 俺の名前

「十七号、合格だ!」

 七人の悪人を殺し、俺は無事に卒業試験を合格した。

 俺は血臭の漂う部屋から連れ出され、小さな部屋へと連れていかれた。

 そこには、一メートルくらいの高さの真っ黒な四角い石みたいなのがあるだけだった。


「そこに両手をつけ」

 言われるままに四角い石の上に両手をつけると、ひんやりとした冷たい感触が伝わって来た。

 真っ黒な四角い石に魔法陣の様な絵が浮かび上がり、それが俺の両手にも映ったように文様が浮かび上がっていた!

 ばちっ!

 突然全身に電気が走ったかのような痛みが走り、俺は思わず両手を離してしまった。

 四角い石は元通り真っ黒に戻っていて、俺の両手に浮かび上がっていた文様も消えていた。


「登録は無事に終わった。十七号は独立都市アデリーリャの中なら自由に移動できるぞ!

 それと、逃げ出しても居場所はすぐに分かるからな、無駄な事はやめるんだぞ!」

「…」

 思わず両手を再度確認して見たが、何も異常は無かった。

 しかし、見えない何かが俺の両手に書き込まれたのは間違いないようだ。

 俺は逃げるつもりは毛頭ないし、金さえもらえれば何でもやるつもりだ。

 いいや、何でもは言いすぎか?

 出来れば善人を殺すような事はやりたくはないな…。

 そう思いながら、俺は別の部屋に連れていかれて、新しい服に着替えさせられた。

 今までずっと体操服みたいな服しか着ていなかったから、普通の服は動きにくいな…。

 着替えさせられた俺は、広くて立派な部屋へと連れてこられた。

 部屋の中には大きな机があり、その後ろ高価そうな椅子にハゲ爺がでーんと座っていた。


「わしが居住区の支配者ジルダムだ」

 こいつが、俺達を地獄に送り込んだ張本人か!?

 個人的な恨みはないが、死んでいった子供達の無念を晴らすために、一発殴らないと気が済まない!

 俺はこぶしを握り締めると同時にハゲ爺に向けて飛びかかり、ハゲ爺の顔面に殴りかかった!


 パーン!

 しかし俺の拳は、ハゲ爺に受け止められてしまった…。


「かっかっかっ!今回の奴は元気があるのぉ!」

「ちっ!死んでいった仲間の為に一発殴らせろ!」

「断る!わしは住居区の支配者で、住民の命を守るのが役目だ。

 住民の中にはお前たちのような子供も含まれておる。

 お前が死んだと思っている者達は、別の所でしっかり生きておるわ!」

「えっ!?そう…なのか?」

「嘘だと思うなら、後で案内させてやる!」


 俺が死んでいったと思っている仲間は生きている?

 確かに、大怪我をしたり倒れたりしている所は何度も見かけたが、死んだところは一度も見ていない。

 それが本当だとしたら、俺の苦労は何だったんだ…。

 いいや、苦労して来たからこそ、これから大金持ちになれるのだ!

 よし!

 ハゲ爺にいつまでも構ってられない。

 話をさっさと終わらせて、大金持ちになる方法を教えてもらうとしよう。


「十七号、お前に名前を付けてやらなくてはな」

「あ、いや、自分で…」

「遠慮するな!そうだな、お前の名はウ、ウ、ウ、ウィ…ウィ…ウィリー……ベル、ウィリーベルに決定だ!」

 突然うめき声みたいな声を出したからボケたのかと思ったが、俺の名前を考えていたらしい…。

 ウィリーベルとは呼びにくい名前だし、まだ十七号の方が良かった気もしないが、拒否権はなさそうだ。


「ウィリーベル、お前には部屋を与えてやる、しばらくゆっくり過ごすといい。アマリエ、ウィリーベルを部屋に案内してやれ」

「承知しました。ウィリーベル様、お部屋にご案内いたします」

 いつの間にかアマリエと呼ばれたメイド服姿の女性が、俺の背後に立っていた…。

 地獄を生き抜いてきた俺に気付かれずに背後に立つとは、アマリエも相当強いのか?

 悔しいがハゲ爺も相当強そうだったし、俺より強い者はいくらでもいると言う事だろう。

 今後も怠らずに、より一層強くなっていく必要がありそうだ。


「ウィリーベル様、こちらの部屋になります」

 まだ名前に慣れないが、アパート以上マンション未満のような建物へ連れて来られ、三階の一室を与えられた。


「凄い!これが俺の部屋か!?」

 リビングにキッチン、それから部屋が四部屋あって家具やベッドも設置済みに、トイレと風呂もあった!

 いやぁ、これを一人で使うのは広すぎる気がするが、今までの苦労を考えるとこれくらいの部屋を与えられて当然だな。


「ウィリーベル様にはもう一つ、ジルダム様から与えられます」

「えっ?まだあるの?」

「はい、連れてまいりますので少々お待ちください」

 アマリエは一度部屋を出て行ってしまった…。

 連れて来るってことは、もしかして俺のお世話をしてくれるメイドとか?

 いやいやいや、まさかそんな事は無いな。

 暫く淡い期待を抱きながら待っていると、アマリエが四人の女の子を部屋の中へと連れて来た。


「ウィリーベル様、お待たせしました。ウィリーベル様のお好みの女性をお一人お選びください」

 メイドでは無かったが、俺に与えられる女の子だというのは間違いない!

 この四人の女の子の中から、一人だけ俺に与えられる!

 つまり、俺の嫁だ!

 落ち着けー、冷静になれー。

 俺は高ぶる気持ちを出来るだけ抑え、冷静になって一人の女の子を選ぶことにした。

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