第七話 卒業試験

 俺は地獄のような厳しい訓練を生き抜き、十二歳になっていた。

 いやぁ、本当に良く生きていられたと、自分で褒めたいくらいだ。

 ここ一年は特に、生きた心地がしない日々が続いていたからな。

 だって、おっさん達が持つ武器は剣、槍、斧、弓に加えて、魔法まで容赦なく撃ち込んで来るんだぜ…。

 そのくせ俺には、魔法を使うなと命令しやがった。

 まぁ俺の使う魔法はしょぼくて、おっさんを倒すには威力が足りないからな…。

 魔法は剣なんかより恐ろしく、一発でも当たれば致命傷になりかねない。

 特に火と風の魔法はやばい!


 火の魔法は自然の火とは違って叩いたくらいでは消えたりせず、撃ち出す時に与えられた魔力が尽きるまで燃え続ける。

 初めて火の魔法に当たった時は服が燃え上がり、地面に転がって火を消そうとしたが消えずに、あまりの熱さに泣き叫んだらおっさん達が魔法で消してくれた。

 あの時は、本当に燃え死ぬのかと思ったほどだった…。


 風の魔法は見えない上に、当たると腕でもスパッと切れ落ちる。

 それはもう見事に俺の左腕がスパッと切れて、ぼとっと地面に落ちた時には、気が狂いそうになるほどの痛みが襲い掛かって来た!

 俺は一生片腕で過ごさなくてはならないのか!?

 そう思うと涙が止まらず、年甲斐もなく大声を張り上げて泣き叫んだ…。

 しかし、いつも俺を魔法で治療してくれる若い男性が切り落とされた俺の左腕を拾い上げ、魔法で繋げてくれた時には非常に驚き感謝した。


「繋げるのは、再生するより楽ですから」

 どうやら、失った部位でも魔法で再生できるらしい。

 だからと言っておっさん…また魔法で俺の腕や足を斬り落とそうとするのはやめてくれ…。


「魔法は目で見るんじゃない、魔力を感じ取れ!」

 無茶苦茶な事を言われた上に、目隠しをされて魔法を撃ち込まれた…。

 あの時の途轍もない恐怖は、一生忘れる事は無いだろう。

 死ぬ思いをすれば何とかなる!的な発想で行われた目隠しだったが、実際魔法の魔力を感じ取る事が出来るようになったのは事実だ…。

 感謝は全くしてないが、魔法を避けられるようになったのは喜ばしい。


「自分の魔力を封じ込めろ!」

 次に言われたのは、俺の中にある魔力が見えないようにしろと言われた。

 この世界の生物の体内には魔力があり、俺が魔法の魔力を感じ取れるようになったように、生物内にある魔力も感じ取る事が出来る。

 実際に、俺も他人の魔力を感じ取れるようになっていたし、背後から誰かに近づかれたとしても分かるようになった。

 俺は真っ暗闇の部屋に閉じ込められ、自分の中にある魔力を感じられないよう封じろと無茶を言われた…。

 やり方も教えられず、俺は真っ暗な部屋の中で水だけ与えられて過ごすことになった。


「出ろ」

 真っ暗な部屋で何日経ったのかもわからなかったが、俺が部屋から出られた時は餓死寸前だったのだけは確かだ…。

 体はガリガリに痩せ細っていたし、二週間くらい放り込まれていたんだと思う。


「十七号、卒業試験だ」

 痩せ細っていた体が元に戻った頃に、俺は生まれ育った施設の外へと初めて連れ出された。

 俺の面倒を見てくれていた年上の男の子と同じく、俺はこの地獄を無事に生き残り、外に出られたことは涙が出るほど嬉しかった。

 だが、卒業試験とやらに合格しなければ自由になれないのだろう。

 気を抜かず、卒業試験に挑むことにした。


「十七号、この扉の奥にいるのは各地で悪事を働いてきたどうしようもない悪党どもだ。

 そいつらを全員殺すだけでいい簡単な試験だ。

 今日までの訓練で行ってきた事をやるだけでいいんだからな。

 さぁ、行ってこい!」


 俺の返事を待たずに扉が開かれ、俺は部屋の中へと放り込まれた。


「このガキを殺せば俺達は自由になれるのか?」

「そういう約束だ」

「こんなガキ、目をつむってもやれるぜ!」

「早い者勝ちだ、俺様から行かせてもらうぜ!」

「あっ、ずるいぞ!」

 部屋の中にはいかにも悪そうな男達が七人いて、それぞれに剣やメイスと言った武器を所持していた。

 なのに、俺は武器を持たされていない…。

 にやにやとした笑みを浮かべた男達が、武器を構えて俺を殺そうと迫って来ている!

 不意に、俺が銃で撃たれて殺された時の事が脳裏によぎった…。


 死にたくない!

 頭の中は、ただそれだけしか考えられなかった。

 これまで必死に生き足掻いてきた体は自然と動き、迫り来る男達の攻撃をすっと避けて行った。

 恐怖は全くない。

 男達の動きが止まって見える。

 俺は男の手に手刀を当てて剣を奪いとり、七人の男達を次々と殺していった…。


 男達が悪人だと聞かされていたからか、人を殺したというのに罪悪感は全くなかった。

 それより、生き残った事が何より嬉しかった!


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 これで俺は自由になれる!

 その思いが一気に込み上げてきて、俺は大声をあげて泣いた。

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