第六話 地獄の生活 その三
俺に対する訓練は、日増しに激しさを増していった。
俺はこのままでは他の仲間と同様に殺されてしまうと思い、深夜に脱走を試みた!
「どうなってるんだここは…」
「残念だったな、お前がどう足掻いた所で、ここからは逃れられないぞ。さっさと部屋に戻って寝るんだな」
「…」
俺が日々訓練している施設には、出口が無かった…。
いや、外に出られると思われる扉はあったが、扉の前に見えない透明な壁みたいなものがあって前に進めなかった。
他に出られる場所が無いかと行ける所は全て回ってみたが、何処も透明な壁が立ちふさがっていて外に出ることは出来なかった。
死ぬ以外で、ここから出る方法は無いみたいだ…。
いいや、俺は死にたくない!
女神シャルリア・レーネス様から、努力次第で大金持ちになれる場所に転生させてもらったのだ!
こうなったら意地でも頑張って生き残り、俺は大金持ちになるんだ!
その目標の為に、俺は殺されそうになる訓練を何とか生き残り続ける事が出来た。
実践訓練を受け始めてから二年が経ち、俺は七歳になっていた。
訓練は油断すれば死につながるのは変わりないが、おっさん一人だけなら互角に戦える位にはなっていた。
ただし、最近は相手が二人、三人と増やされていて、俺に勝たせたくないのが明らかだ…。
でも、実践訓練の時間が午前中だけで終わるようになったので、一日中気が休む時間が無かった時に比べれば楽になった。
午後は何をしているのかと言うと、この世界のあらゆる知識を教えられていた。
俺の居る場所は、独立都市アデリーリャと言う名の都市で、今から約四百年前の勇者が魔王討伐の褒美として貰い受けた何もなかった土地だ。
その勇者が仲間と共に都市を作り、四百年間で大きく発展させていった。
現在の独立都市アデリーリャは闘技場、商業地、娼館街、居住区の四つの区画に分かれていて、それぞれの区画を治める四人の支配者によって運営されている。
俺の居る居住区は、一般の人は立ち入れられないようになっている。
俺も外には出られないから当然の事だろうが、こんな人を殺すための訓練施設があるような場所は見せられないよな…。
ちなみに、居住区の支配者には会った事は無い。
会う機会があったなら、俺を、いいや、ここに入れられていなくなった子供達全ての思いを込めて、一発殴ってやりたいと思う。
独立都市アデリーリャは、大陸の中央にあるアディール山脈のカルデラの中にあって、周辺国からの交通の便は非常に悪い。
しかし、移動には飛行船が使われていて、各国から多くの客を運んできている。
独立都市アデリーリャの北西に、勇者が転生して来るイーラムリー王国がある。
勇者はあの女神エミリアが神託として伝えているそうだから、間違いはない。
イーラムリー王国の北にあるのが、魔王の住むゾエレード魔王国がある。
魔王国は独立都市アデリーリャから離れた地にあるし、俺が魔王と勇者の戦いに巻き込まれる心配はないので安心だ。
魔王と勇者の戦いに興味は無いし、関わりたくもない。
そんな事より、俺は日々生き抜く事だけで精いっぱいだ。
無事に生き抜いて大金持ちになり、悠々自適な生活を送りたいものだ。
知識以外にも、魔法を教えてもらえる事になった。
この世界の魔法は、呪文や魔法陣を用いない無詠唱と呼ばれる方法で行使するようだ。
言われてみれば、俺を魔法で治療してくれた人も呪文を唱えていなかったな。
呪文を格好良く唱えてみたい気持ちはあるが、戦いの最中に長い呪文を唱えている暇などない事は、日々の命を懸けた訓練をしていればよく分かる。
この無詠唱で魔法を行使する方法も、四百年前の勇者が作ったそうだ。
俺には都市を一つ作る事も、魔法を変える事も出来はしないだろう。
やはり、勇者になれるような人と俺の格の違いを、嫌と言うほど思い知らされた…。
「気持ちを落ち着かせて、手のひらに火が灯るのを頭の中で想像してみて。
しっかりと想像出来たら手のひらに魔力を集めて、火を出してみよう!」
言われた通りやってみたが、俺の手のひらから火が出る事は無かった…。
そもそも、魔力とは何かが分かっていない。
手のひらに魔力を集めてとか言われて力んでみても、魔力が集まった気が一切しないからな…。
「魔力はしっかりとあるから、訓練を続けていればそのうち使えるようになるから頑張ろう」
そう言われて魔力を何とかひねり出そうと色々頑張った結果、一か月後にようやくロウソクような小さな火を灯す事が出来た。
しかし、魔力を出す事は出来たので後は簡単だろう!
俺は大魔法使いになる!
そんな夢は実現せず、いくら訓練を続けても小さな魔法しか使う事が出来なかった…。
やはり格、格の違いなのか!?
女神シャルリア・レーネス様…贅沢は言いませんので、普通の魔法使いくらいには魔法が使えるようにして貰えませんか?
何度か願ってみたが、女神シャルリア・レーネス様に願いが届くことは無かった…。
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