第五話 地獄の生活 その二

 俺が連れてこられた場所には、丸太が縄で組み上げられた建造物がいくつもあった。

 自然公園の中にあるアスレチックの様なものだが規模が違うし、下にはとがったくいがいくつも突き出ていて、落ちたら間違いなく刺さって死んでしまうだろう…。


「いいか、最初はゆっくりでいいからな!」

 年上の男の子は俺にそう伝えると、軽々と飛び上がってアスレチックを攻略しに行ってしまった。

 ゆっくりでいいと言われても、三歳児の手足では届かないだろ!!

 無茶を通り越して無謀だと言わざるを得ない!


「ほら、お前も早く行け!」

 背後からおっさんの声が聞こえたかと思うと、俺の尻を思いきり蹴飛ばしやがった!


「あわわわわわわわっ!」

 危うく、尖った杭がある穴に落ちかけた…。

 いや、今のはわざと落とそうとしただろ…。

 このままここにいては蹴り落されてしまう!

 俺はおっさんから逃げるように、丸太を何とかよじ登って前に進んでいった。


 死ぬ…少し油断するだけで死んでしまう。

 アスレチックは娯楽ではなく、危険なダンジョンのような感じだった。

 丸太を踏み間違えると槍が突き出してきたり、炎が噴き出してきたりもした。

 おまけに、慎重に進んでいると、武器を持ったおっさんが後ろから追いかけてきたりする…。

 何度死にかけたか分からないが、俺は無事にアスレチックを攻略できた。

 それと言うのも、年上の男の子がトラップの場所とかを教えてくれたからだ。

 それが無かったが、俺は今頃槍に貫かれていたのは間違いない。


「ありがとう…」

「気にするな、頑張って生き抜けよ」

 年上の男の子に礼を言うと、生き抜けと返された。

 そして、夕食時に部屋に帰って来ると、同じ年くらいの子が一人いなくなっていた…。


 女神シャルリア・レーネス様…ここは地獄です…。

 努力次第で大金持ちになれるのかもしれませんが…その前に死んでしまいます。

 今から転生先を、もう少し楽な所に変えてもらえませんかね?

 そう願ったところで女神シャルリア・レーネス様から返事は無く、俺はここで生き抜いて行かなくてはならないようだ。

 こうなったら意地でも生き残って、大金持ちになってやると決意を新たにした!


 一年、二年が過ぎ、部屋の顔ぶれも大きく変わった。

 俺の世話をしてくれていた年上の男の子は、ここを無事に卒業して出て行った。

 その他の奴らはしぶとく生き残っているか、そうでないかに分かれる。

 俺はしぶとく生き残っていた方で、新しく入って来た奴らの殆どが、最初の頃にいなくなっている。

 あの最初の地獄のような期間を生き抜ける者のは少なく、その地獄を生き抜けて来た者でも、途中で脱落するような場所だ。

 俺も気を少しでも抜けば、そいつらと同じ仲間入りとなる。

 そして今、俺はまさに死にかけていた…。


「おら、避けてばかりだと殺されるぞ!俺に一撃でも入れて見ろ!」

 ナイフを一本持たされ、同じくナイフを持ったおっさんと戦わされている。

 なんとなく想像はしていたが、ここは人を殺すための訓練を受けさせている場所で、俺は五歳児にして実践訓練を受けていた。

 いやまぁこの二年間…地獄のような訓練を続けて来たから、五歳児とは思えないような身体能力を得ている。

 普通の大人に走り負けない脚力を持ち、獣のような跳躍力もある。

 苦労していたアスレチックも、今では余裕をもって攻略出来ている。

 だからだろう、おっさん達は俺に見込みがあると思い、早くから実践訓練を行わせることにしたらしい…。


 頬をナイフがかすり、手首にはいくつも切り傷が刻まれている。

 俺の相手をしているおっさんが手加減して、見事に皮一枚だけ切っているのは分かる。

 しかし、ナイフで切られるたびに痛みが走り、俺の動きが鈍くなっていく…。

 おっさんは動きが鈍くなった俺を容赦なく切り続け、痛みに耐えきれず全身血まみれの状態で倒れてしまった…。

 死ぬ…死んでしまう…。

 幸いな事は、倒れた俺に対しておっさんが止めを刺しに来ていない事か…。


「ちょっとやりすぎたか?おい、治療してやれ」

「はいは~い」

 おっさんは倒れた俺の様子を見て危険だと判断したのか、治療する人を呼んでくれた。

 助かった…これで訓練から逃げられる。

 そう思っていたのだが、俺の治療に来てくれた人は若い男性で、俺の脇に立って両手を俺の体の上にかざしていた。


「えっ!?」

 次の瞬間、俺の体は淡い緑色の光に包まれたかと思うと、急激に痛みが無くなっていった!

 これ、もしかして魔法なんだろうか?

 勇者や魔王がいる世界だから、魔法があっても不思議ではない。

 俺も魔法が使えれば、こんな死ぬ思いをせずに済んだのではないか?


「痛い所はまだあるかな?」

「いいえ、ありません…」

「良かった、次は斬られないように頑張って!」

「えっ!?」

 若い男性は去って行き、代わりにおっさんがまたやって来た…。


「おら立て!続きをやるぞ!」

 おっさんに無理やり立たされ、またおっさんのナイフで切り刻まれることになった…。

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