第四話 地獄の生活 その一

「「「おぎゃー、おぎゃー」」」

 俺は無事に転生を果たしたみたいだが、泣き声の大合唱で目を覚ました。

 生まれたての首は動かないし、視力もおぼろげにしか見えないが、俺の他にも赤ん坊が大勢いる事だけは泣き声で分かった。

 それから数日が経ち、視力もはっきりしてきたところで、ここが育児室なのだというのが分かった。

 俺の母親らしき人はおらず、赤ん坊の世話をしている人達の手によってミルクを飲ませられたり、下の世話をして貰ったりしている。

 それから俺の新しい名前だが…。


「十七号ちゃん、ミルクの時間ですよ~」

 俺はどこぞの人造人間かと思うような名前だが、番号で呼ばれているのは俺だけではない。

 俺を含む赤ん坊全てが、番号で呼ばれているのだ。

 この時点ですでにおかしい場所だと思うが、女神シャルリア・レーネス様が大金持ちになれる場所として選んでくれた転生先だから不安は無い。


 転生してから三年が経ち、俺は初めて育児室から外に連れ出された。

 外と言っても、育児室のあった建物から隣の建物に移っただけだ。


「お前ら新人だ、仲良くしてやるんだぞ!」

 俺は、質素なベッドが十台並べられている部屋に放り込まれた。

 そこには、俺に近そうな年齢の子供から上は十二、三歳の男子までいて、一番上の男子がベッドの使い方やトイレの場所なんかを雑に教えてくれた。

 その日は夕方だったこともあり、部屋に運んで来た夕食を食べて眠りについた。


「おい、起きろ!」

 気持ちよく寝ていたのに、激しく揺り動かされて強制的に起こされた…。


「服は自分で着られるな?」

「うん…」

 寝ぼけ眼で返事をすると、ベッドの上に着替えを置かれた。

 周囲を見回すと、他の子供達も急いで着替えていた。

 俺も遅れないように、与えられた服に着替えた。


「急げ、遅れるぞ!」

 俺や俺と同じくらいの年の子供は、年上の子供に手を強引にひかれて部屋から連れ出され、まだ薄暗い外へと連れだされた。

 俺以外の小さな歳の子は泣く子もいたが、お構いなしだ。


「ここに並んで真っすぐ立て!」

 背の小さい子から順番にならばされ、俺は一番背が低かったので一番前に立たされた。

 他の部屋からも続々と子供達が集まって来て、一応に整列していた。

 詳しく数えたのではないが、五百人以上いるのではないだろうか。

 しかも男子ばかり…。

 昨日までは女児もいたし、育児室にいた大人は全て女性で皆優しかった。

 一夜にして、男ばかりの世界に放り込まれたのは、とてつもなく寂しく感じた…。


「全員揃っているな。よし前に立っている者から走れ!」

 四十代くらいのおっさんが複数人出て来たかと思うと、いきなり走るように言われた。

 意味がまったく分からないが、走れと言われれば走るしかないだろう。

 ジョギング感覚で走り出した。


「遅い!もっと全力で走れ!」

 俺の背後からおっさんの怒鳴り声が聞こえて来たかと思うと、後続の男子達が次々と俺を追い抜いて行った。

 俺はまだ三歳児だし、全力で走った所でたかが知れている。

 それに、体のバランスが悪く転びそうになる…と言うか、見事に転んだ….

 痛いが、泣くほどではないな…。

 転んだ痛みで泣くほど、俺は子供じゃないからな。

 俺は立ち上がり、土で汚れた手と足を払ってから走り始めた。


「走れ、走れ、走れ!」

 建物の外の広場をひたすら走らされ続け、やっと終わった時にはその場に倒れ込み、そして吐いた…。


「よし、朝食だ!急いで部屋に戻って食え!」

 走り終えたばかりだというのに、年上の子達は元気よく走って建物の中に消えて行った…。

 残されたのは俺と同じ年くらいの小さな子達ばかりで、中には死んでいるのではないかと思うくらい、倒れたまま動かない子もいた。

 いや、普通に死ぬだろ…。

 三歳児に一時間以上全力で走らせるとか、無茶すぎる…。

 とにかく、水分と塩分を補給しなければ俺も死んでしまう…。

 俺は何とか気合を入れて立ち上が…れなかった…。

 手は何とか動くから、はって部屋へと戻って行った。

 他の子を助ける余裕はない、おっさんたちがいたから何とかするのだろうしな…。


「おっ、戻って来たか!ほら、お前の飯だ、食え!」

 何とか部屋に辿り着くと、朝食を食べ終えた年上の男の子が俺を立たせてくれて、俺の食事が用意されてある席へと座らせてくれた。

 好意は非常にありがたいが、食欲はほぼない…。

 とりあえず水分をと思い、牛乳みたいな飲み物を何とか飲みほした所で、また吐き気が…。


「吐くな!ほら我慢して食え!」

 年上の男の子が俺の口を塞ぎ、俺が吐かないと分かったら、今度は食事を無理やり食べさせられた…。

 非常に苦しかったが、確かに食べないと体がもたないのは事実には違いない。

 何とか食事を食べ終え、ほっと一息つこうとしたのだが…。


「ほら、これに早く着替えろ!」

 汗でびしょびしょに濡れていたから、着替えはありがたい。

 俺は与えられた服に着替え、ベッドに倒れ込もうとしたところで、また年上の男の子に手を引かれて外に連れ出されて行った…。

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