第三話 俺は勇者!ではなかった…

 あれ?

 目を瞑って一分くらい経ったと思うけれど、一向に勇者としての力らしきものは感じられない…。

 そーっと目を開けて見ると、女神様が空中を両手で操る様な仕草をしながら、目の前に浮かんだ映像を確認していた。

 女神様、それは?


「ちょっと今忙しいから黙っていて!」

 あっ、はい…。

 映像は俺からも見えたので、その映像を見ていると、どうやら俺が銃で撃たれた時の映像のようだった。


「うそっ、なんで貴方が助けたの!?」

 えっ!?助けたら駄目だったのですか?


「駄目に決まっているでしょう!この後ろにいた武道の達人が助けるはずだったのよ!」

 あー、確かに…俺が飛び出したので、助ける機会を逃した感じで立っていますねー。

 本来なら、俺の死に際に抱き留めてくれた人が銃で撃たれて死ぬはずだったらしい…。

 武道の達人だったのか、どうりで抱き留められた時の感触が硬かったはずだ…。

 俺としても、余命三か月と言われなければ助けていなかったのは間違いない。

 しかし、実際に女性を助けようとして撃たれて死んだのは俺だし、こうなったからには責任を取らないといけないだろう。

 女神様、彼の代わりに、俺が勇者として魔王を倒しますよ!


「はぁ~、貴方に魔王が倒せるはずがないでしょう!」

 確かに、武道の達人に比べれば頼りないかもしれませんが、やる気はあります!


「やる気だけでどうにかできるのならば、誰も苦労はしません!

 もう貴方には用が無いし、私の前から消えて頂戴!」

 あっ、ちょっと、女神様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。


 女神様が手を払う仕草をしたかと思うと、俺は大きな風を受けて空を舞う木の葉のように吹き飛ばされてしまった…。

 薄明るくて何もない空間を吹き飛ばされ続けたかと思うと、今度は急激に引っ張られて行った!

 べちゃっ!

 硬い地面に叩きつけられた感触があったが、痛みは全くなかった。

 死んでいるのだから当然なのかもしれないが、不思議な感じだ…。


「妹が迷惑をかけたみたいで、ごめんなさいね」

 顔を上げると、先ほど会った女神様にそっくりの女神様が俺の前に立っていた…。


「私は女神シャルリア・レーネス、貴方を呼び寄せたエミリア・レーネスの姉になります。

 貴方はエミリアによってオーラトリアの世界に転生する事が確定されていて、それを変更することは出来ません。

 しかし、転生先が未決定の為、ある程度あなたの希望に沿った転生先を選ぶ事が出来ます。

 何か希望はありませんか?」

 希望ですか、少し考えさせてください。


 あの女神様は良い女神様ではなかったみたいだが、この女神様は良い女神様のようだ。

 今も優しい微笑みを浮かべながら、俺の事を待ってくれている。

 さて、あまり待たせては悪いので、転生先の希望を考える事にしよう。


 俺が銃で撃たれて死ぬ結果となってしまったのは、余命三か月と診断された病気のせいだ。

 それも、俺が金持ちだったら治療できた病気だ。

 転生先は勇者と魔王とか出てくる世界みたいだけれど、お金があって不都合になる事はまずないだろう。

 やはりここは、金持ち、いや、大金持ちの家に転生するのが一番いいだろう。

 女神様、俺を大金持ちの家に転生させてください!


「ごめんなさい、貴方の格では大金持ちの家を転生先にすることは出来ません」

 どうしてですか!?


「説明しますね。魂には格がありまして、それは生前どれだけの事を成し遂げたかで決まるのです。

 大きな会社を作ったり、大発明をしたり、多くの人々を助けたりしたの者の魂の格は高く、それ以外の者の魂の格は低いのです。

 その格を元にして次の転生先を決めるのですが、貴方の場合は…」

 いいえ、よく分かりましたので、その先は言わないでください…。


 俺は普通に生きてきただけで、何かを成し遂げた事は無いから、女神様の言う魂の格は相当低いのだろう…。

 親ガチャとかいう言葉もあったが、結局自分の行いが悪かっただけだな…。


「でも、安心してください。私は魔王側の管理をしていますので、魔族に生まれ変われるのならば、貴方の希望通りにしてあげる事も出来ます」

 えっ!そうなのですか!?

 あーでも、魔族…魔族かぁ…。

 勇者が来て殺される可能性も…あるんですよねぇ?


「はい、その可能性は高いでしょうけれど、勇者を倒してしまえばいいのです!」

 いやぁー、無理でしょう…。

 だって、武道の達人とかが勇者に選ばれるんですよ。

 無理に決まってますよー!

 どうか、人族の方でお願いします!


「分かりました、大金持ちの家は無理ですが、努力次第で大金持ちになれる可能性が高い所に転生させてあげます」

 はい、よろしくお願いします!

 努力次第で大金持ちになれる!

 最初の女神様とは大違いで、こっちの女神様はとても優しかった!

 女神シャルリア・レーネス様、この名前を忘れないように覚えておこう!


「転生させますので、目を瞑ってお待ちください」

 はい、よろしくお願いします!

 俺は目を瞑り、女神様に感謝しながら転生を待つ事にした。

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