第二話 俺は勇者!

「うぃ~」

 ちょっと飲み過ぎたかも知れないが、気分はさいっっっこ~に良いので、飲みすぎたくらいでよかったのだろ。

 酔い覚ましの為に、ちょっと公園にでも寄って涼んで行こう。

 余計な事は考えず、フラフラと公園へと入って行った。


「嫌っ!手を離して下さい!」

 公園の中の道から少し外れた所で、複数の男性に一人の女性が絡まれているのを見かけた…。

 複数の男性の話している言葉は全く理解できないので、最近よく見かけるようになった外国人だろう。

 あーやだやだ。

 あの手のやからは言葉も通じないし、常識も通じない。

 普段なら絶対に関わらないし、近寄りもしないが…。

 俺は余命三ヶ月。

 恐れるものなど何もない!

 死ぬ前に、女性の一人くらい助けてやらないといけないだろう!

 あわよくば、助けた女性に惚れられるかも知れない!

 そうなれば、夢にまで見た彼女が出来るって寸法だ!


『私をおいて死なないで!』

『俺は死んでも、ずっと君を愛し続けているよ!』

 なーんて展開も、あったりするかもしれないな!

 よーし!女性を助けてやるしかない!

 しかし待てよ!

 普通に声を掛けた所で、日本語の通じない奴等には全く無意味だ。

 ならばここは、力によって排除するしかない!

 だが俺は、自慢では無いが喧嘩なんかした事は無い…。

 一、二、三、四…相手は四人か。

 素人の俺が殴りかかった所で、負けるのは目に見えている。

 更に酔っていて、まともなパンチを放つ事など到底無理だ。

 ここは飛び蹴りだな!

 俺は走り出し、勢いよくジャンプして男の背中に飛び蹴りを食らわせてやった!


 飛び蹴りは思いのほか上手く決まり、蹴り飛ばした男が勢いよく吹っ飛んで地面に倒れていた!

 他の三人が騒ぎ始めたが、何を言っているのか分からない!


「きえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 俺は両手で握りこぶしを作りながらそれらしく構え、奇声を上げて三人を威嚇した!

 武道をやった事のない俺に構えなんか分からないが、外人も日本の武道の構えとか分からんだろう。

 二人の外人は俺を警戒しているし、もう一人は俺が蹴り飛ばした男を起こそうとしている。

 そのまま逃げて行け!

 逃げて行ってください!

 お願いします!

 そう願いながら、奇声を上げて威嚇し続けた。


 俺の願いが通じたのか、それとも人が集まって来たからか、外人は逃げ腰になっている。

 ただし、俺が蹴り飛ばした男が立ち上がり、俺に向けて何か叫んでいた。

 次の瞬間、俺が蹴り飛ばした男は上着の内ポケットに手を入れ、何かを取り出した!

 不味い、ナイフか!?

 最近、外国人に刺されたと言うニュースをよく見るようになったよな…。

 このままでは俺も刺されて、明日のニュースになってしまう!

 逃げるか?

 いや、ここまで来て逃がしてくれるはずもないだろうし、女性は助けなければならない!

 ここはもう一つ飛び蹴りでもかまして、その隙に女性を助けて逃げ出すとしよう!


 パン!パパン!

 腹がいてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

 えっ!?まじ?

 ナイフより凶悪な銃だったよ…。

 ここは日本だぞ!

 銃はねーよ…。

 腹は燃えるように痛いし、血も大量に噴き出している…。

 俺の余命は三か月から、数秒に変わっちまったようだ…。


「おい君!大丈夫か!?誰か!誰か救急車を呼んでくれ!」

 俺がその場に倒れ込む前に、体格の良い男性に抱き止められた…。

 硬い!硬すぎるぜ…。

 せめて最後くらいは、柔らかな女性に抱きとめて貰いたかったと思いながら、俺の命は三か月を待たずして終わってしまった…。



「目を開けてください」

 近くから美声が聞こえて来たので目を開けてみると、目の前にはうっすらと光り輝く美少女が微笑ほほえみみを浮かべていた。

 俺は撃たれて死んだはずだが、撃たれた腹もいたくはない。

 と言う事はここは死後の世界で、もしかして目の前にいるのは女神様?


「はい、私は女神エミリア・レーネス、貴方を次の世界に旅立たせるためにここに呼びました」

 どうやら、俺の考えは筒抜けらしい…。

 女神様を前にして、変な事を考えなくてよかった。

 俺は天国へと行かずに、転生するみたいだな。


「はい、貴方はオーラトリアと言う世界に旅立ち、そこで勇者として魔王を倒してもらいたいのです」

 俺が勇者!

 いやー、やっぱり!

 俺ってば、そう言う運命のもとに生まれて来たと思ってたんだよねー。

 短命だったのは、女神様が、世界が、俺を求めていたからだ!

 女神様!俺が魔王を倒し、世界を平和に導きます!

 あーはっはっはっ!


「頼もしいお言葉です。さぁ、オーラトリアに旅立つ前に貴方に力を授けます。

 目を瞑り、力を受け取ってください」

 はい!よろしくお願いします!

 俺は目を瞑り、女神様から勇者としての力を待ち構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る