10話「あの夢に見たモノ」-1
「何も起こらないし、ここでかなり休憩出来たけど……」
そう言いながら周りを見渡す。
「うーん。ここは何だろ。何も無いな」
目の前に広がるのは、何も無い空間。少し広めの会議室ぐらいの広さ。モンスターが出てくるわけでも無く、この部屋に入ってすでに10分ほど経っている。後ろには入り口もとい、転がってきた坂道があり、戻る事は難しいだろう。出来なくは無さそうだが。
「しかし、あれはビビった。中々焦ったな」
苦笑いをしながら思い出す。
この部屋に入る前、十数体の武器を持ったゴブリンと相手していた。
もちろん3階層は2回攻略してる。そして、4階層に降りると剣や棍棒などの色々な武器を持ったゴブリンが出てきた。中には数体で徒党を組むゴブリンもいた。しかし、ゴブリンはゴブリン、簡単に倒す事は出来た。
しかし順調だったのは束の間、9体目を倒おそうとした時10体目の少し大きめのゴブリンが叫んだ。すると後ろから数十体のゴブリンが出現。それにはわりと焦ったが、それと同時に少し昂ぶる感情もあった。ここでレベル上げができるじゃないかと。
すぐに9体目を倒し湧いて出てきたゴブリンに取り掛かる。複数体を相手にするのも慣れてきたところだった。
しかし、流石にゴブリンと言っても数が多いのは体力的に耐えられなかった。一旦休憩しようと全力で走る。逃げではなく戦略的撤退だ。
しかしそこで、全力疾走していたところ、何かに躓き大きくバランスを崩してしまい、運悪くそのまま壁に激突。顔面からの激突はかなり痛い。しかし、ゴブリンは追ってきているため、顔面を押さえながら壁を伝って逃げていた。
途中、数メートル先でカチって音と同時に扉が回転した。そこが丁度隠し扉だった。扉の先は急な下り坂、有無も言わさせず転がり、この部屋に入った。
そして、今の状況に至る。
「しかし、ほんと何も無いなこの部屋は」
何度見渡しても何も無い。転がって来た坂道も戻れるかと試してみたが急すぎて無理そうだ。
「まあ、運が良かったのか悪かったのか……」
考えられることと言えば、多分だがここはセーフティーゾーンなのだろう。何にも襲われない場所。そう思うとあの数の前では運が良かったと思える。流石にあれは死にはしなくとも大惨事になっていた可能性があったと思う。数の暴力は凄まじい。
「よし、大分回復出来たし帰る道を探しますか」
隠し扉で入ったという事は出口も隠し扉だと思う。そう思いながら地面や壁を触り始める。地味にめんどくさい作業だ。
中々見つかることがないが、
「ん? ここ……」
作業をして十数分過ぎたところ、何か壁に違和感があった。少し風が吹いてる場所がある。
「もしかして」
そこの近くを重点的に調べる。
「ここ、押せる…………あっ……」
衝動的に何も考えず押してしまった。その瞬間壁に亀裂が入る。縦と横に綺麗な直線で。すると、縦2メートル程の扉の形に、壁に穴が空いた。
「……はは。隠し扉みっけ」
丁度転がって来た入り口の反対側、新しい入り口が現れた。
「やっと出れるな。ちょっと安心したわ」
少し顔を出していた不安が無くなる。そのまま少し早足で入り口を抜ける。
後はあのゴブリン達を効率よく倒して5階層に行けば……
「っ、え!」
入り口を抜けた先に見た物に声が漏れてしまった。少し高い声が出のは求めていたものではなかったが、ダンジョンに入って見当たらないと思っていた物が現れたからだ。
「っお、この部屋が、隠し扉で、そっかぁ!」
それは部屋のど真ん中にあった。これを見たら誰だって心が躍るだろう。何せ夢が詰まってるのだから、
「あれ、宝箱だよな! しかも少し大きめ! まじでか!」
見つけた宝箱に喜びが隠せない。中々の衝撃だ。少し小走りにで近づく。宝箱を開けたくて仕方ない。
「いや、ちょっと待てよ」
しかし、手をつける既のところでふと立ち止まる。
「んー。ミミックとかじゃぁ、無いよな」
頭によぎったのはよく宝箱に化けているモンスターだ。もしミミックだったら怖いので慎重に動く。しかしまあ、ミミックだった場合この喜びはどこに行くのだろうか。
剣で宝箱を突いてみる。反応はない。
次は叩いてみる。反応はない。
瞬間、宝箱を開けた。ん、ミミックではない。
「うお! お!」
気になる宝箱の中身。宝石なのか素材なのか、何なのか。
「おおおおお! 武器か! しかも剣!」
宝箱に入っていた剣にかなりテンションが上がる。宝石類なら換金率がわからないし、武器の方が嬉しかった。何せ今の装備では何もかもが心細い。
「見る限り今の剣より切れそうだし、少しだけ短くて使いやすそうだ。というか輝き方が違うぞ」
新しい剣を見るとやはりテンションが上がる。これならどんな敵にも勝てそうだと感じてしまう。
手に取ってみる。重さはあるがいい重さだ。すんなりと手に馴染んだ。本当に使いやすそうだ。
「よし、じゃあこのままさっきのゴブリンを全滅させますか」
早くこの剣を使いたくて仕方がない。ワクワクしている。まあ、全滅とか残酷な事だと思うが、もうそれまでにゴブリンは何体も倒している。今更だ。
出口は宝箱の向こう側にある。剣を持ちながら早足になる。
だが、出口一歩手前で立ち止まる。
「おいおい、なんだよこれ」
出口を前にして立ち止まりたくはない。しかし、出口には透明に近い色の格子が架かっていて僕の行動を邪魔していた。
遠目からは見えない色だ、気づかなかったのも仕方ない。
「でも、これ。この剣で斬れるんじゃね」
即試してみる。
剣は大きい音を出し格子に弾かれる。
「う。流石に斬れないか」
そんなに上手くは行かないものだ。というかこの剣が宝箱に入っていた時点でこの格子はこの剣では斬れないだろうと、ちょっとぐらい考えられるだろう。少し浮足だっていたか。少し落ち着こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます